起立性調節障害の方の体験談

起立性調節障害を光療法で克服したA.Bさん(中学3年生 女性)の体験談

2023年3月12日

この記事の監修者

匿名(医師)

内科・小児科

一般社団法人 起立性調節障害改善協会

 

皆さんはODという病気をご存知でしょうか?

ODは起立性調節障害という病気で、身体の発達過程にある小学生高学年から中学生にかけて発症しやすい身体疾患です。子供の約10%に発症するとも言われています。

ODは自律神経の発達が不十分であることが病態であると考えられています。自律神経とは副交感神経と交感神経の総称で、睡眠、血圧、脈拍、体温、排尿、排便など体の様々な機能をコントロールしています。

ODに罹患すると自律神経が乱れてしまうため、その影響は多岐に渡り、起立時のめまい、嘔気、ふらつき、倦怠感、腹痛、嘔気など様々な症状をきたします。子供によって出現する症状や経過が異なる点で厄介な病気と言えます。

本記事では、多くのODの子供に対して医師として診療してきた筆者が、実際にODの治療に取り組んだ患者様を例に実体験をご紹介いたします。これによって少しでもODに苦しむ皆さんの一助となれば幸いです。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

起立性調節障害を患っていた「A.B」さんの特徴

私が診察させて頂いたA.Bさんは、当時中学3年生の女の子でした。中学生時代は3年間バスケットボール部に所属し、キャプテンとして活躍していました。また、高校受験を控えて勉強に励んでいるところでした。

親御さんから聞く本人の印象はハツラツとして明るく元気な女の子で、竹を割ったような性格だったそうです。筆者と初めて対面したときの印象も親御さんの話と相違なく、自分の症状を自分の言葉でしっかり伝えてくれる女の子でした。

出生後の発育や発達に異常は認めませんでしたが、ここ1年で身長が15cmほど伸びていたそうです。アレルギーや常用薬などは特にありません。

起立性調節障害になったきっかけ・症状

A.Bさんが最初に症状を自覚したのは中学3年生の5月でした。当時、バスケットボールに励みながら、放課後には塾に通って受験勉強に備える多忙な日々を送っていたそうです。

ある日、普段通り学校で生活していたところ、昼過ぎ頃から急遽体調が悪くなってしまい保健室に行ったそうです。保健室で検温など行うも特に異常を認めず、疲労が原因だと考え保健室のベッドで横にさせてもらったそうです。

しばらく横になっていると症状が改善し、立ち上がっても症状が悪化しなかったため、その日は普段通り放課後に塾に通い、夜には問題なく帰宅しました。しかし、翌日の午前中にも同じような倦怠感を感じてしまいました。

再び学校の保健室に駆け込んだところ心配になった保健室の先生は、親御さんに連絡してこれまでの経緯を説明しました。そのまま、迎えにきた親御さんと救急病院を受診することになったそうです。

救急病院では、簡単な問診と身体診察、血液検査や心電図検査、胸部レントゲン検査などが実施されました。その際A.Bさんは生理中であったこともあり、軽度の貧血を認めたため、原因は貧血であると診断されました。

貧血対策に鉄剤が処方されその日は帰宅することになりました。午後には症状もほとんど改善し、病院でも異常なしと言われたため安心していたそうです。しかし、翌朝には症状はさらに悪化し、起き上がることもできなくなってしまいました。

その際、A.Bさんに認めた症状は起立時の嘔気、めまい、倦怠感などです。起き上がることができず、その日は学校を休むことにして午後までベッドで寝ていました。それ以降、鉄剤を内服しても症状は一向に改善せず、むしろ悪化していくばかりでした。

特に午前中に症状が強く、午前中はほとんど活動ができなかったため、起きる時間が遅れてしまい、結果的に寝る時間も遅くなる日々が続いていました。就寝時間は平均して夜中の2~3時になっていたそうです。

見かねた親御さんが再度病院に連れて行ったところ、貧血は改善されていたものの、自律神経疾患が疑わしいと判断され、新起立試験を経てODと診断されるに至りました。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

治療内容・治療後の経過

まずはじめに、あまり意味を成していない鉄剤の内服は中止してもらいました。

ODの方はしばしば他の疾患と誤診され、有益でない治療薬を飲んでしまうことも珍しくありません。特にうつ病の治療薬を処方されると症状が悪化する可能性もあり注意が必要です。

次に、ODの治療として非薬物療法を行います。非薬物療法とは一言で言えば、自律神経の成長を促し、乱れたバランスを整え、脳血流が低下しないように日々の行動から意識的に変えていく治療法のことです。

また、非薬物療法を行う上ではODという病気に対する正確な認識と知識が必要不可欠になります。知識がなければ非薬物療法をうまく実践できず、結果として治療がうまくいかなくなってしまうからです。

ODはその疾患の特性上、一見すると怠けているようにも見えてしまい、親御さんからの理解も得られにくい病態であるため、子供本人だけでなくサポートする親御さんにもしっかり理解してもらう必要があります。

ODはあくまで身体疾患であり、精神論でどうにかなるような病気ではないことを理解していただいた上で、初めて「非薬物療法」に移行できます。

次に、実際に筆者がA.Bさんに勧めた非薬物療法としては、受験勉強との向き合い方を考えること、立ち上がり方を変えること、規則正しい生活を送ること、の3つです。

A.Bさんの場合、発症した時期がちょうど受験勉強が本格化する時期でした。ODは患者によっても経過や治療期間が異なりますが、長い経過の方では治療に年単位の時間を要することもあります。その場合受験勉強に大きな支障をきたしてしまいます。

A.Bさんは受験勉強に励み、進学校への進学を目指していました。しかし、ODの子供では長時間座って勉強するだけでも脳血流が低下してしまいます。そこで、A.Bさんには受験勉強との向き合い方について親子間で話し合ってもらうように指示しました。

もし受験を諦めないのであれば、思うように勉強できないことがストレスになってしまい、ストレスは自律神経の乱れの原因になる為、ODの症状が悪化する可能性もあります。その為、事前にある程度受験との向き合い方を定めておくことが重要です。

話し合った結果、夏休み明けになっても症状が改善しないようであれば進学校への受験が諦め、場合によっては進学先を通信制の学校に変更することも視野に入れる方針となりました。

次に、立ち上がり方を変えるように指導しました。元気な時のように起床後に一気に立ち上がってしまうと、重力に従って下肢に多くの血液が取られてしまうため、脳血流が低下しやすく症状悪化の原因となるからです。
そこで、まず目が覚めたらベッド上で体位を変えて、横になったりうつ伏せになったりしても症状が出ないことを確認してもらいます。問題なければベッド上で上半身だけ起こし、その状態で30秒ほど経過を見ます。
上半身を起こして問題なければ、片足ずつゆっくりとベッドから足を下ろし、最終的にはベッド上で座位を取ります。その後、1分ほど時間をかけて立ち上がり、頭部を少し前傾させて症状が出ないように歩くように指示しました。
また、長時間机に座りながら勉強すると下肢方向に血液が流れていってしまうため、勉強する際は机でなく床にクッションを敷き、頭を低い位置に置いて勉強するように指導しました。

最後に、規則正しい生活習慣を送ることを指示しました。多くのODの子供は、午前中に症状が強く午後に症状が改善するため、午前中はベッドで寝て過ごして、午後から活動を始めます。そのため、就寝時間が後ろにずれ込んでしまうのです。
例に漏れずA.Bさんも就寝時間は3時す過ぎに、起床時間は12時過ぎでした。これによって食生活も乱れてしまい、自律神経の成長に悪影響を与えてしまいます。自律神経の成長を促すためにも、規則正しい生活を送る必要があるのです。
そこで、夜10時以降はスマホやテレビのブルーライトを見ないこと、起床後に可能であれば少し運動すること、食事はしっかり3食摂取することなどを指示しました。

A.Bさんにはこれらの非薬物療法を実践してもらいました。中でも、立ち上がり方を変えたことで起床後のめまいやふらつきは軽減しました。しかし、倦怠感は残っていて、一度乱れた睡眠時間はなかなか元に戻りませんでした。

治療開始から1〜2ヶ月間は勉強と治療を並行していましたが、起きる時間が遅く、午後から勉強を始めるとどうしても夜まで光刺激を浴びてしまうため、なかなか睡眠時間の乱れを改善することができなくなっていました。

夏休みに入っても症状が改善する見込みがなく、本人も受験勉強に対する意欲が低下していたため、一旦勉強は完全に中止し、治療に専念するように指示しました。しかし、勉強をしなくなっても睡眠時間はあまり変わりませんでした。

そこで治療開始から3ヶ月が経過した頃に光療法に踏み切りました。光療法とは、特殊な機械を用いて体に太陽光に似た光を照射し、体内に光刺激を与える治療法です。光刺激によって体内ではセロトニンというホルモンが分泌されます。

実はこのセロトニン、夜間になると眠気を誘発する睡眠ホルモン、メラトニンの原料になるため、日中に光を浴びておくことで夜間の自然な眠気を誘発してくれるわけです。

光療法実施から2ヶ月経過し、徐々に効果が出始めて就寝時間のずれ込みが改善し始めました。就寝時間が改善すると早起きできるため朝食も食べられるようになり、生活全体が規則正しく変わっていきました。

最終的には、治療開始から約半年で通学を再開し、治療も終了となりました。進学校への受験はせず、話し合いの予定通り通信制の学校に通うことになりました。

効果があった対策

A.Bさんの場合、光療法がODの治療において非常に有効なテコ入れとなりました。光療法を実施する前はどうしても睡眠時間の乱れを改善できず、食生活も乱れてしまっていたため、自律神経の乱れを元に戻すことが難しい印象でした。

そこで、光療法の導入に踏み切ったことで、生活リズムを整えることができ、自律神経の乱れを整えることができたため、非常にいい治療であったと感じています。

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まとめ

今回は、筆者が診療させていただいたODのA.Bさんについてご紹介しました。

A.Bさんの場合、睡眠障害が強く、また睡眠障害がODの症状全体に悪く影響していました。そこで、光療法を導入したことが改善のきっかけになったことは間違いありません。

とはいえ、受験期を逃してしまいA.Bさんの人生になんらかの影響を与えてしまったのも事実です。もう少し早く導入していればさらに良い結果が得られた可能性も否定できません。

ODは症状や経過が人によって異なるため、多くの体験談を知ることがみなさんの治療の糸口になるやもしれません。下記記事では他の体験談についてよくまとめられています。是非参考にして見てください。

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