「不眠症に効果的な光療法とはどんな治療?」「光を浴びるだけで乱れた睡眠リズムが正常化するって本当?」このような悩みや疑問をお持ちの方も少なくないでしょう。
光療法とは、目から強い光を取り込むことで脳を刺激し、乱れた体内時計をリセットしたり、夜に自然と眠くなるホルモンの分泌を促す不眠治療の1つです。
乱れた睡眠相(就寝時間と起床時間)を正常化し、睡眠や起床時の覚醒の質を向上させる効果が期待できます。これまでさまざまなセルフケアでも不眠症を改善できなかった方は、新たな治療の選択肢としてぜひ知っておくべきです。
本記事では光療法の概要や期待できる効果について、医師である筆者が医学的観点から解説します。この記事を読むことで、光療法の効果や適応となる病気、具体的な方法などについて知ることができます。ぜひご一読ください。
光療法とは?どんな治療法?
光治療(高照度光療法とも呼ばれる)は、高照度光療法器具を用いて2500ルクス以上の高照度の光を1〜2時間ほど目から取り入れ、乱れた体内時計をリセットする睡眠障害の治療法です。
1日が24時間周期であるのに対して、ヒトの体内に存在する体内時計(サーカディアンリズムともいう)は1日24〜25時間で時を刻んでいます。
そのため、仮に体内時計が1日25時間周期であった場合、朝自然に目覚める時間や夜入眠する時間は毎日1時間ずつ後ろにずれていく計算になります。
しかし、実際には毎日同じような時間に起きて、同じような時間に寝ることができており、これは体内時計と現実世界の時間のズレが太陽光によってリセットされているためです。
不規則な生活習慣の方の場合、日中の活動時間が少なくなることで体内時計のズレを修正することができなくなり、睡眠障害が進行していきます。
そこで、太陽光の代わりに高照度光療法器具を用いて光刺激を与えることで、体内時計のズレをリセットして睡眠障害を改善するわけです。
光療法で期待できる効果
光療法で期待できる効果は、上記で説明したような体内時計のリセットと、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌増加です。
日中に光刺激を浴びると、体内ではトリプトファンと呼ばれる必須アミノ酸からセロトニンの分泌が増加します。
このセロトニンこそが、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料となることが知られており、光刺激が少なくなった夜間になると脳の松果体にセロトニンが取り込まれ、メラトニンが産生されます。
逆に、光刺激があるうちはメラトニンが分泌されにくいため、朝や午前中に光療法を行うことでメラトニン分泌量を低下させ、昼夜のメリハリをつける効果も得ることができるわけです。
光療法は効果がないと言われる理由
光療法は現在、睡眠障害やそのほかの症状に対して広く適用されている治療法ですが、その一方で効果がないという声もあります。
光療法は効果がないと言われる理由は主に2つ考えられます。
- 保険適応されていない
- 照射には正しい距離・時間・照度を要する
光療法は保険適応されていないため、実施している医療機関がほとんどなく、その効果が世間に伝わりにくいです。
また、光療法の照射には正しい距離・時間・照度を要します。
これまでの研究から、2500ルクス以上の高照度の光を1〜2時間以上照射する必要があることがわかっており、実臨床では5000〜10000ルクスでの治療が一般的です。
そのため、十分な照度や照射時間を確保できないと思っているような効果は得られません。
次に、光療法の効果を得るためにはただ光を浴びるのではなく、目の奥の網膜にまで光刺激を与え、脳の視床下部という部位に刺激を届ける必要があります。
光源からの距離が離れすぎると急速にその効果も弱まるため、出来るだけ短い距離で照射することで照射時間を短縮できます。
これらの知識が不足している場合は、せっかく光療法を行っても思っているような効果は得られないでしょう。
光療法はどんな病気に効果がある?
光療法が効果的と言われる病気をいくつかご紹介します。
起立性調節障害
起立性調節障害に対しては光療法が効果的です。
起立性調節障害は身体が急速に成長する小学生高学年〜中学生頃に発症しやすい身体疾患で、自律神経が乱れることによってさまざまな症状が出現する病気です。
自律神経とは交感神経と副交感神経の総称で、体温や睡眠・排尿や排便などさまざまな生理機能を調節している神経のため、自律神経が乱れることで睡眠障害も出現します。
特に、午前中に交感神経がうまく活性化しないため、メリハリのある覚醒を得られず、夕方や夜間に遅れて交感神経が活性化するため眠れなくなります。
そこで、起床時に光療法を行うことで体内時計の乱れを改善し、夜間のメラトニン分泌も増加するため、睡眠障害の改善が期待できるでしょう。
起立性調節障害では特に午前中に症状が強く、外出できない子供も多いため、高照度光療法器具による光療法は効果的でしょう。
冬季うつ病
冬季うつ病に対しては光療法が効果的です。
冬季うつ病は10〜12月頃にかけてうつ症状が現れ、3月頃になると改善し、逆に夏になると躁状態になる、つまり季節の変動で症状が変化するうつ病です。
女性に圧倒的に多い病気で、うつ気分とともに過食や眠気などの症状が出現します。
冬季うつ病の病態は、日照時間の少ない季節に体内でのセロトニン分泌が低下して脳の活動度が低下すること、さらにはメラトニンの分泌も障害されて体内時計が乱れることなどが指摘されています。
いずれの場合も、日中の光刺激が少ないことが原因であるため、午前中に光療法を行うことが効果的です。
実際に1980年代、Rosenthalらの報告では、季節性うつ病の患者に対する高照度光照射によって抑うつ症状の改善が確認されました。
睡眠相後退症候群
睡眠相後退症候群に対しては光療法が効果的です。
睡眠相後退症候群はその名の通り、就寝時間や起床時間が体内時計の乱れによって遅い時間にずれ込んでいく病気です。
原因は、夜勤などの不規則な就業時間や夜間のスマホいじりで、夜間に光刺激が入ることでうまくメラトニンが分泌されず体内時計が乱れます。
そのため、光療法を行うことで体内時計の乱れを改善させ、起床時間や就寝時間を前倒しにする効果が期待できます。
光療法のやり方
ここまで光療法の効果や適応について紹介しましたが、実際に光療法を行いたい場合はどうすればいいのか疑問をお持ちの方も多いでしょう。
ここからは、光療法のやり方を病院と病院以外に分けて紹介します。
光療法を病院でする方法
そもそも光療法を実施している医療施設が少ないため、光療法を病院で行う場合は事前にしっかりインターネットやSNSで調べておきましょう。
また、日本睡眠学会のHPには睡眠障害の治療を専門とする医療機関が一覧で掲載されているため、こちらを参考にして問い合わせるのもおすすめです。
光療法は主に起床後、午前中に毎日30分〜2時間程度、1〜2週間ほどの継続で効果を得ることができるため、医療機関によっては入院で実施している施設もあります。
光療法を自宅など病院以外でする方法
光療法を病院以外で行う場合は、高照度光療法器具を自宅に設置するべきです。
高照度光療法器具を個人向けに販売するメーカーのHPでは家庭用の高照度光療法器具を販売しているため、気になる方は一度HPを見てみるといいでしょう。
ただし、仮に光源との距離30cmという短い距離で10000ルクスの高照度を照射しても、20〜30分ほど治療には時間が必要となります。
そこで注意点としては、朝の忙しい時間の中から毎日20〜30分の時間を割くことが困難で継続できない方も少なくありません。
その場合は、やはり医療機関での光療法を検討すべきでしょう。
光療法で身体の不調を改善しよう
この記事では、光療法の概要や期待できる効果について、医師である筆者が医学的観点から解説しました。
光療法は高照度光療法器具を用いて脳に刺激を与え、乱れた体内時計のリセットや、夜間のメラトニン分泌の促進などの効果が期待できる治療法です。
一方で、光療法にはそれぞれの症状に見合った適切な照射時間・照射距離・照度があり、誤った設定で治療を行えば思ったような効果は得られないため、注意が必要です。
家庭で治療を行う場合は、効果の具合を確かめながら自分にあった設定を見つけることが重要です。
適切に治療を行うことで、これまで睡眠時無呼吸症候群や冬季うつ病、睡眠相後退症候群などによる睡眠障害で感じていた身体の不調も改善が期待できるでしょう。
不眠症は仕事や対人関係など、日常生活のさまざまなシーンで悪影響をもたらすため、ぜひ光療法での治療を検討しましょう。
【参考文献】
https://portal.lighttherapy.jp
https://amcor.asahikawa-med.ac.jp/modules/xoonips/download.php/2012009275.pdf?file_id=6329
https://www.y-koseiren.jp/column/season/3224
http://jssr.jp/data/list.html