子供の免疫能力は大人よりも未熟であり、また身体的にも精神的にも発達途上にあるため、大人と比較して体調不良を起こしやすく、様々な病気に罹患するリスクがあります。
実際に子供の体調不良に悩んだことのある親御さんも少なくないのではないでしょうか?
大切なお子さんが体調不良になった時、本人はもちろんのこと、本人と同等かそれ以上に親御さんも苦しい思いをすると思います。もちろん、病気を代わってあげることはできませんが、かと言って何もできないわけではありません。
子供は自分の状態を人に伝える能力が未熟であるため、親御さんが普段から子供の体調を気にかけ、早期から体調の変化に気づいてあげる様にしておくべきです。
また、子供が自分自身で体調不良への対処法や改善法を調べることは難しいですが、親御さんがいろいろな知見を吸収することはできるはずです。そこで今回は、子供の10%が罹患すると言われる起立性調節障害(OD)についての知見をご紹介します。
起立性調節障害は小学校高学年から中学生にかけて発症しやすい身体疾患であり、非常に多彩な症状や経過をたどるため、親御さんの頭を悩ませることの多い病気と言えます。治療の上では、他の子供の経過を参考にするのも非常に重要です。
そこで本記事では、多くの起立性調節障害の子供に対して医師として診療してきた筆者が、実際にODの治療に取り組んだ患者様を例に実体験をご紹介いたします。これによって少しでも起立性調節障害に苦しむ皆さんの一助となれば幸いです。
起立性調節障害を患っていた「H.T」さんの特徴
私が診察させていただいたH.Tさんは、当時中学1年生の男の子でした。小学校時代から友達の多いタイプではなかったそうですが、自分が好きな趣味や遊びには積極的に参加する子供だったそうです。勉強にはあまり積極的ではありませんでした。
親御さんから聞く本人の性格は、穏やかで内向的で、あまり自分の意思や感情を表に出すタイプではないとのことでした。筆者と初めて対面したときも、あまり目を合わせずに親御さんが話している影に隠れている状態でした。
生まれてからというもの大きな病気にかかった経験はなく、アレルギーや常用薬などもありませんでした。出生後の発育や発達にも異常は認めず、医学的には健康そのもので成長していました。
起立性調節障害を患ったきっかけ・症状・対策・経過等
H.Tさんが最初に症状を自覚したのは中学1年生の夏頃でした。当時は中学生活にようやく慣れ始めてきた頃でしたが、ある日朝起きた後から何の理由もなく強い倦怠感を自覚し、学校に行くのが難しいほどの症状だったそうです。
学校に体調不良の連絡をして当日は休むことにしたそうですが、午後には症状が改善してきたため、医療機関への受診は考えなかったそうです。翌日は普段通り学校に通学する予定でした。
しかし、翌朝になっても同じ様に起床後の倦怠感を認め、起き上がれなくなってしまったそうです。また同時に嘔気と嘔吐も出現し、明らかに通学が困難であると判断してその日も学校を休むことになりました。
そこで、H.Tさん親御は症状の改善した午後に近隣の内科を受診しました。しかし、すでに症状が改善していたため、近隣の内科では軽い診察のみ行われ、吐き気止めの処方をされるだけで終わってしまったそうです。
吐き気止めを内服してからも一向に症状は改善せず、翌日以降も起床後の倦怠感を認めたため、不安を感じたH.Tさん親子は、セカンドオピニオンで筆者の元に受診する運びになりました。
初めて受診された時は、H.Tさんが中学1年生の7月頃で、主な症状は午前中の倦怠感、嘔気、嘔吐でした。また症状が出始めてから1週間ほど経過しており、徐々に症状は悪化傾向にあり、午後にも倦怠感が続く様になっていました。
症状が午前中に強く午後になると比較的改善する点や、発症年齢なども考慮するとODを強く疑い、新起立試験などを実施した結果、起立時の血圧低下と脈拍の変化を認め、新たに起立性調節障害の診断を下しました。
起立性調節障害の診断を伝えた時は、今まで聞いたことのない病名に驚かれている様子でした。しかし、起立性調節障害の治療を行う上で非常に大切なことは、起立性調節障害という病気がどの様な病気で、どの様にすれば改善するかを理解することです。
起立性調節障害はあくまで身体疾患であり、肉体の成長によって脳と心臓の距離が離れてしまったことによる脳血流の低下が最大の要因であり、いかに脳への血流が低下しない様に行動するかが大切であるかを説明し理解してもらいました。
疾患に対する理解が得られたため、次に起立性調節障害に対する具体的な治療法について説明しました。起立性調節障害の治療において特別な特効薬などはなく、日常生活における非薬物療法が第一選択であることを理解していただきました。
具体的な非薬物療法の指導としては、起床時に脳血流が下がらない様にゆっくりと立ち上がること、嘔吐によって脱水になると脳への血流が低下するため積極的に飲水すること、可能であれば午後から軽い運動を行うことなどです。
また親御さんに対して、学校と連携して治療期間における学業をどうしていくのか、また通学できたとして学校内で休憩できるスペースをどう確保するのか、など打ち合わせを行う様に指導しました。
以上の非薬物療法を実施してもらいましたが、午後の運動で症状が再燃することも多く、相談の上、床に座ったままでストレッチを行う様に切り替えました。また、H.Tさんの場合、発症後すぐに夏休みに入ったため、出席に支障をきたすことなく治療に専念できました。
夏休み明けには、ご自身の症状との向き合い方や日々の過ごし方が掴めた様子で、朝起きる前に水をたくさん飲んでから1分以上かけてゆっくりと立ち上がることで1日の体調がかなり良くなることがわかったそうです。
9月中旬頃から午前中には通学できる様になり、辛い時は保健室で休憩できる様に親御さんが事前に手配していました。10月頃にはほとんど症状を認めなくなり、12月頃に完全に治療が終了しました。
効果があった対策
H.Tさんの場合、私が提案した非薬物療法に対してとても理解力が高く、積極的に治療に取り組んでくれました。また、治療していく中で自分の体にとって良いことと、良くないことを自分で判断し、私に教えてくれた点も治療を前進させた要因だと思います。
また、親御さんの前向きで協力的な姿勢も治療効果を上げたと感じています。夏休み明けの通学がスムーズにいく様、学校側とよく話し合い連携を取っていた点が非常に良かったと感じています。
改めて、起立性調節障害は子供だけでなく、親子や家族で戦う病気であることを再認識した一例でした。
まとめ
今回は、筆者が診療させていただいた起立性調節障害のH.Tさんについてご紹介しました。
H.Tさんの場合、起立性調節障害に対する特定の非薬物療法が著効したわけではありませんが、ご自身で積極的に治療の意味を理解し、前向きに非薬物療法を実践してくれたことで早期改善が得られたと感じています。
起立性調節障害の治療は子供によって長期間に及ぶこともあり、治療がマンネリ化してしまうこともあります。今一度、ご自身の治療法を再検討して、ご自身の身体に合った治療法を模索してみる必要があるかもしれません。
起立性調節障害は症状や経過が人によって異なるため、多くの体験談を知ることがみなさんの治療の糸口になるやもしれません。下記記事では他の体験談についてよくまとめられています。ぜひ参考にしてみてください。