起立性調節障害(OD)は身体が急速に成長する小学校高学年から中学生の時期に罹患しやすく、様々な症状をきたす病気です。ただでさえ大人よりも子供は体調を崩しやすいため、親御さんにとっては不安の種になりやすい病気と言えます。
実際に起立性調節障害の子供をもつ多くの親御さんは、自分の大切な子供がめまいやふらつき、嘔気や腹痛、頭痛など様々な症状に苦しむ姿を見て、どうにか助けてあげたいと思うはずです。
しかし起立性調節障害の厄介なところは、人によって症状の出方や訴えが異なる上に、症状を改善させる方法や症状の経過にもバラツキがあり、治療法やアプローチも千差万別な点です。
起立性調節障害で悩む多くの子供は、複数の病院を回ったり、なかなか診断が付かない現状に不満を感じています。そんな時にもし誤った方法で治療に取り組んでしまえば、効果がないどころか子供の体調を悪化させてしまいモチベーションの低下を誘発し兼ねません。
だからこそ、親御さんは他の起立性調節障害に罹患した子供や親御さんがどのように治療に取り組み、どういった効果が得られたのか知っておくべきだと思います。
そこで今回は多くの起立性調節障害の子供に対して医師として診療してきた筆者が、実例を元に起立性調節障害について解説します。
起立性調節障害を患っていた「E.T」さんの特徴
私が診察させて頂いたE.Tさんは、当時中学校1年生の女の子でした。小学校時代までは水泳を習っていて、何事にも熱心な明るい元気な女の子だったそうです。当時は学業も比較的優秀だったそうです。
親御さんから聞く本人の性格は、真面目で負けず嫌いで努力家、友達を大切にする子供で同級生の中でも友人が多いタイプの子供だったようです。筆者と初めて対面したときも自分のことをハキハキと話してくれる子供でした。
生まれてからというもの、病気といえば幼少期に喘息に罹患したことがあるのみで、それ以外に大きな病気に見舞われることなく健康に育ってきました。
喘息対策で始めたという水泳の効果もあってか、中学生に入ってから喘息発作になることはなく現在は治療も行なっていないとのことで、至って健康な女の子というのがE.Tさんに対する第一印象でした。
起立性調節障害を患ったきっかけ・症状・対策・経過等
<中学1年 夏>
E.Tさんが最初に症状を自覚したのは中学校1年生の夏頃でした。それまでは中学入学以降始めたバスケットボール部で毎朝のように朝練に参加し、活発に頑張っていました。
しかし、入学から4ヶ月経つとと徐々に朝練に行く時間に起きることができなくなり、無理やり起こそうとすると「全身が怠い」「めまいがする」と言って起きてこなくなってしまいました。
当時は親御さんもE.Tさんが疲れて起きてこないだけだと思っていましたが、1週間以上経っても朝なかなか起きてこない子供の姿を見て、つい叱責してしまい喧嘩になったこともあったそうです。この時、親御さんはまだ病気と思っていなかったそうです。
母子間で揉める日々が続く中、E.Tさんの学校から「E.Tさんが良く貧血で保健室で休んでいる」と連絡がきたことをきっかけに、初めて病気の可能性を考えたそうです。
そこで、親御さんは喘息の治療で通院していた小児科に受診しますが、当時初潮を迎えた直後の発症ということもあり、月経開始に伴う貧血という診断を受けていました。
しかし、定期的な血液検査でも貧血は認められず、鉄剤の内服でも症状は改善しませんでした。こういった経緯から、E.Tさん親子はセカンドオピニオンも兼ねて中学1年生の11月に筆者の元を受診する運びになりました。
<中学1年 11月>
初診時には症状はかなり悪化しており、部活の朝練どころか通学も難しい状況で、動くとめまいや倦怠感を感じるため、ほとんどの時間を自宅で過ごしてあまり動かない日々を過ごしていました。
これらの症状が特に午前中に強く午後になると改善する点や、月経中でも臨床検査で貧血を認めない点から、貧血よりもむしろ起立性調節障害を疑い、新起立試験を行いついに起立性調節障害の診断に至りました。
自分たちの病気がなんなのか分からず不安を抱えていたE.Tさん親子に、今回の診断に至った経緯や起立性調節障害がどのような病気であるかを伝えました。
E.Tさん親子の場合、本人のみならず、むしろ親御さんの方が診断結果を聞いて安心されていました。真面目な子供が学校にもいけなくなり、見えない敵と戦う不安は相当なものだったようです。
そこで起立性調節障害はある程度の期間が経過すると自然軽快することが多いと伝え、まずは薬物療法よりも非薬物療法を行い症状の変化を見るように指導させて頂きました。
本人や親御さんと相談の上、部活動や朝練に行くという高い目標設定を一旦取り下げて、朝学校に行く時間に自宅内で起きれるようにすることを目標としました。その代わり、日中可能な範囲でのストレッチや軽い運動を指示しました。
また、野菜や魚類の摂取量が少なかったため、必要なビタミンやたんぱく質の摂取量が不足していたことも症状の悪化に繋がっている可能性があり、親御さんには普段の食生活について指導させていただきました。
診断書を作成し、学校の先生や部活動の顧問にも理解を得て、非薬物療法に集中してもらえるように環境を配備しました。
<中学1年 12月頃>
治療開始から1ヶ月もしないうちに、朝学校に行く時間に自宅内で起き上がれるようになりました。E.Tさんの場合、自宅から中学までの距離が徒歩で10分程度と近かったため、朝の定時での通学を次の目標にしました。
通学当初、ある程度の歩行で若干めまいが出ることもありましたが、その都度前のめり歩行や足をクロスさせるような行動療法を実践し、徐々に定時での通学も可能になって行きました。
<中学1年 3月頃>
治療開始から4ヶ月経った頃には、朝の通学や午前中の授業にもなんの問題もなく取り組めるほどに改善し、発症以前よりも食事や睡眠にも気を使う習慣が出来ていました。
そこで、最終目標である部活動や朝練の再開のために起床時間を徐々に早め、比較的軽度な運動を少しずつスタートして行きました。そもそも運動量が低下しているため、最初から無理な強度の運動は控えました。
そこから3-4ヶ月でほとんど以前同様の運動や生活を取り戻せました。最終的には発症から1年以上が経過していましたが、無事薬物療法などを行わずに軽快したのです。
効果があった対策
今回の治療において特に効果があったと実感しているのは、親子ともに病気に対する理解が深まったことで親子間での言い争いや叱責がなくなり精神的ストレスが緩和された点です。
一番最初に診察した際に感じたのは、親子間でのコミュニケーションが上手く取れていない印象でした。しかし、お互いに倒すべき共通の起立性調節障害という敵が判明したことで、病気に対して前向きになれたように感じます。
またE.Tさんの場合、食生活の改善も非常に効果がありました。発症前は、朝練で早起きだったため朝ご飯を抜いたり、コンビニフードで済ませていたようですが、規則正しい食生活を始めたことでかなり症状が緩和した印象があります。
部活再開時には、少しでもふらつきがあればうつむいたりしゃがむことを徹底させました。また運動中の積極的な飲水も効果があったように思います。
E.Tさんの場合親御さんがしっかり部活動の顧問の先生に事前に働きかけてくれたおかげで、理解を得られていた点も大きかったと思います。
まとめ
今回は、筆者が診療させていただいた起立性調節障害のE.Tさんについてご紹介しました。
E.Tさんの場合、成長期に強度の高い運動や生活を行なったことが発症の要因になったように思います。逆に、生活習慣の改善や精神的ストレスの緩和が改善に寄与したと考えられます。
起立性調節障害は症状や経過が人によって異なるため、多くの体験談を知ることがみなさんの治療の糸口になるかもしれません。下記記事では他の体験談についてよくまとめられています。ぜひ参考にして見てください。