起立性調節障害の方の体験談

起立性調節障害を光療法で克服したK.Mさん(中学2年生 男性)の体験談

2023年2月18日

この記事の監修者

匿名(医師)

内科・小児科

一般社団法人 起立性調節障害改善協会

 

皆さんは起立性調節障害(OD)と呼ばれる病気をご存知でしょうか?

急激な肉体の成長によって心臓と脳の距離が開いてしまい、それに対して交感神経の活性化が追いつかないために起立時や起床時に脳血流が低下してしまう身体疾患です。

小学校高学年や中学生にかけて発症しやすく、全体の約10%の子供が発症すると言われており、子供の起立性調節障害に頭を悩ませているお子さんも少なくないのではないでしょうか?

めまい、嘔気、ふらつき、倦怠感などが一般的ですが、中には睡眠障害によって入眠困難や覚醒困難に悩まされる子供います。さらに起立性調節障害の厄介な点は、経過や効果のある治療が子供によって異なる点であり、様々な治療を実践していく必要があります。

本記事では、多くの起立性調節障害の子供に対して医師として診療してきた筆者が、実際に起立性調節障害の治療に取り組んだ患者様を例に実体験をご紹介させて頂きます。これによって少しでも起立性調節障害に苦しむ皆さんの一助となれば幸いです。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

起立性調節障害を患っていた「K.M」さんの特徴

私が診察させて頂いたK.Mさんは、当時中学2年生の男の子でした。小学生時代から勉強が得意な子供で、スポーツも万能な子供だったそうです。地元の中学に通い、現在はバスケットボール部で活動しています。

親御さんから聞く本人の印象は竹を割ったようなはっきりとした性格で、正直者で純粋な子供のようです。筆者と初めて対面したときの印象も親御さんの話に相違なく、ハキハキと自分の症状を伝えてくれる子供でした。

出生後の発育や発達に異常は認めませんでしたが、中学生から始めたバスケットの影響か、ここ1年で身長が20cm近く伸びている成長期だったそうです。他に、常用薬やアレルギーなどは認めていません。

起立性調節障害になったきっかけ・症状

K.Mさんが最初に症状を自覚したのは中学2年生の9月でした。夏休み明けで、日中は学校、夕方以降は部活に励む日々を過ごしていたようです。友達付き合いも多く夜遅くまで遊んで帰って来る日もあったそうです。

ある日の朝、なんの前触れもなく、ベッドから立ち上がった際に立ちくらみのようなふらつきを感じたそうです。あまり症状が強くなかったため、そのまま学校に行く準備をしていると、めまいも生じたそうです。

体調不良と考え、朝は学校に行くのを諦めてしばらくベッドで横になっていると症状が改善したそうです。結局その日は午後に通学しましたが、その際はすでに症状が改善していたため問題なく通学でき、部活を行い帰宅しました。

夜に家に帰ってきた後も症状は認めず、親御さんと相談して病院に行かずに経過を見ることになりました。しかし、翌朝になると再び症状が出現し、前日よりも程度が悪化していました。めまいやフラつきの他に、嘔気もあったそうです。

学校に向かうことは困難であると判断し、親御さんと相談の上お休みすることになりました。午前中は寝て過ごし、午後になると症状が改善したため近隣のクリニックに受診することにしました。

近隣のクリニックでは一時的な疲労や体調不良の可能性があると言われ、簡単な問診や診察、心電図検査などが実施されました。これらの結果に明らかな異常は認めず、症状も改善傾向であったため、この日は経過を見るように指示されたそうです。

いつもよりたくさん寝て過ごしていたため、夜になっても体力が余っているせいか、なかなか寝付けなかったそうです。眠れないため、つい夜中までスマホいじってしまい、翌朝は全く起きれなくなったそうです。

結局、発症から3日間で生活リズムは完全に狂ってしまい、症状が強い午前は寝て過ごし、午後から活動するような生活にシフトしてしまったそうです。もちろん、学校に行くのも難しく、多くの時間を家で過ごすような生活になっていました。

見かねた母親が、再度クリニックに連れて行き、これまでの経過を伝えたところ、「午前に強い症状」「睡眠障害の併発」などの情報から起立性調節障害を強く疑い、その後の新起立試験を経て起立性調節障害と診断されるに至りました。

この時認めていた症状は、特に起立時や起床時に強いめまい、嘔気、ふらつき、全身倦怠感などです。また睡眠リズムが完全に狂ってしまい、午前中は起床が難しいような状況が続いていました。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

治療内容・治療後の経過

まず、起立性調節障害という病気について本人や親御さんにしっかりと説明させて頂きました。起立性調節障害の治療には本人や周囲の病気に対する理解が必要不可欠であり、理解度によって治療の効果も異なるからです。

また午後になって症状が改善してくる起立性調節障害について適切な知識がないと、まるで本人が朝サボっていたり怠けているように感じてしまう点でも、周囲の正しい知識と理解が必要不可欠です。

次に、起立性調節障害に対する主たる治療法についてです。起立性調節障害には特効薬などは存在せず、唯一の治療法は非薬物療法です。つまり、薬に頼らない患者の行動指導が最も有効な治療になります。

前述したように起立性調節障害の場合、脳血流が低下することで様々な症状をきたしていると考えられています。そのため、日常生活から脳血流が低下しないように行動を気をつける必要があるのです。

実際に筆者がK.Mさんに勧めた非薬物療法としては、立ち上がり方や立ち方に注意すること、家でのスケジュールを守ること、栄養のある食事を摂取することの3つです。

K.Mさんはここ1年で急速に身長が伸びてしまったため、立ち上がると脳が高い位置にあり、重力に伴って血液が下肢方向に多く流れ込んでしまうため、脳血流が低下しやすい状態でした。

特に、急速に立ち上がってしまうと心臓や血管が急激な循環動態の変化について行けず、脳血流がより低下しやすくなってしまいます。そこで、簡易的かつ効果的に症状を抑えるには、立ち上がり方が非常に重要です。

具体的には、すぐに起き上がらず、起床後はまずはベッドで体位変換を試みること、起き上がる前に水をコップ一杯程度飲んで血液量を増やしておくこと、起き上がる時は上半身だけ起こして経過を見ることなどです。

上半身を起こしても症状が出なければ、ゆっくりと片足ずつベッドの下に降ろしていきます。その後、1分ほど時間をかけて立ち上がり、頭をなるべく前方に傾けて頭の位置が低くなるようにします。

次に、家でのスケジュールを守ることを指導しました。K.Mさんの場合は午前中に起きれなくなっていて、午後に遅れて交感神経が活性化して来るため、本来眠くなって来るはずの時間帯に身体が活性化して眠気が少ないような状態でした。

そのため、睡眠リズムは完全に狂ってしまい、自律神経のバランスも乱れてしまうため、起立性調節障害にとって良くない生活リズムでした。そこで、起床時間や朝食時間、入浴時間や就寝時間など、家でのスケジュールを大まかに設定してもらいました。

家でのスケジュールを決めて守ることで、生活習慣の乱れが改善し、自律神経のバランスが安定する効果が期待できます。ここで重要なのは、守ることが難しいような高すぎる目標設定は避けることです。

あまりにも高すぎる目標設定は実践困難なだけでなく、目標が達成できないこと自体が精神的ストレスとなり起立性調節障害の症状を悪化させてしまう可能性もあるからです。

次に、栄養のある食事を摂取するように指導しました、これまでK.Mさんは部活動や友人との交友関係もあって夜遅くに帰って来ることも珍しくありませんでした。成長期にも関わらず、ファストフードやコンビニフードを食べる機会も多かったそうです。

こういった乱れた食生活によって栄養バランスに偏りが生じてしまうと、自律神経の成長に必要不可欠な栄養が不足してしまいODが悪化している可能性もあるのです。そこで、高タンパクで脂質や糖質を控え、野菜やミネラルの豊富な食事を取るように指導しました。

K.Mさんにはこれらの非薬物療法を実践してもらい、立ち上がり方を気をつけたことで比較的早期に起立時や起床時のめまいやふらつきは改善しました。食事内容についても、親御さんの全面的な協力もあり早期に改善したようです。

しかし、午前中に症状が強いせいで生活リズムが元に戻らず、夜間不眠や朝の起床困難などの睡眠障害は改善しませんでした。そこで、治療開始から2ヶ月が経過した頃に光療法を取り入れることにしました。

光療法では日中に光刺激を浴びてもらうことで、体内でセロトニンというホルモンの分泌を促します。実はこのセロトニンが夜になると睡眠ホルモンであるメラトニンというホルモンの原料になる為、日中の光刺激を浴びることが睡眠のためには非常に重要なのです。

K.Mさんには専用の機器を用いて、午前中にベッド上でも光刺激を与えるように治療しました。使用から1ヶ月が経過した頃には、乱れた睡眠リズムが徐々に戻って行きました。

11月頃には、家でのスケジュールを守れるようになり、就寝時間も安定しました。また、それによって自律神経が安定したからか、起立性調節障害の症状もかなり改善した為、12月には通学を再開できました。

通学再開当初は長時間の立位で多少の症状を認めることもありましたが、その後の経過に大きな支障は認めず、年が明けた頃には当院への受診も終了となりました。

効果があった対策

K.Mさんの場合、立ち上がり方の指導や食事療法には一定の効果を感じました。しかし、家でのスケジュールを守ることは難しく、光療法が治療の上で良いテコ入れになったと感じています。

むしろ、光療法をさらに早期に導入していればより早期の症状改善が期待できた為、治療開始から2ヶ月待たずに導入を検討しても良かったと感じるほど効果的でした。

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まとめ

今回は、筆者が診療させていただいた起立性調節障害のK.Mさんについてご紹介しました。

K.Mさんの場合、非薬物療法が比較的早期に効果を示したため、めまいなどの症状はすぐに軽減しましたが、自律神経の乱れはなかなか改善せず睡眠の時間帯は乱れたままでした。

そういった場合、光療法を早期に導入するのは1つの良い選択肢です。K.Mさんの場合、症状の中でも難治であった睡眠障害を治すためには光療法が必要であったと感じています。

睡眠障害はなかなか非薬物療法のみで改善が難しいため、起立性調節障害の中でも睡眠障害に悩まれている方がいれば、ぜひ一度光療法を検討してみても良いかもしれません。

起立性調節障害は症状や経過が人によって異なるため、多くの体験談を知ることがみなさんの治療の糸口になるやもしれません。下記記事では他の体験談についてよくまとめられています。ぜひ参考にして見てください。

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光を活用せずに起立性調節障害を改善に導くのは難しい
https://odod.or.jp/kiritsusei-toha/od-5193/
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