- 最近子供の様子がおかしく、集中力がなくなって落ち着かない様子が散見される
- 子供が一人でいる時に誰かと話していることがあるけど、これって病気?
このような子供の症状にお悩みの親御さんも少なくないでしょう。
思春期の子供にこのような症状を認める場合、統合失調症の可能性があるため注意が必要です。統合失調症とは、幻覚や妄想・認知機能障害・感情の平坦化、またそれに伴う社会的機能障害などを主な症状とする精神疾患です。
主に20歳代前半から半ばで発症することが多い病気ですが、10代前半で発症することも稀ではなく、特に男児では発症しやすいことが知られています。以前までは精神分裂病と呼ばれていましたが、徐々にその病態が解明され、歴とした病気として認識されるようになりました。
病気である以上、放置すれば症状は悪化していくため、早期から適切な対処を行うことが重要です。この記事では、特に思春期における統合失調症の症状や原因・対処法について詳しく解説します。
思春期の統合失調症の特徴とは?どんな症状が出る?
思春期における統合失調症の場合、その症状や特徴は一般成人で発症する統合失調症と類似しています。また症状の出方には個人差も大きく、必ずしも典型的なパターンで経過するとは限りません。
一般的には、前駆期・急性期・回復期・慢性寛解期の4つの段階を追って経過していくことが知られており、それぞれの時期で症状や期間も異なります。また、最近の研究ではいかに早期に治療介入するかが、その後の社会性の維持に重要であることが知られています。
ここでは、それぞれの時期における症状や経過を解説します。より早期に統合失調症を発見できるように、各時期の症状をチェックしておきましょう。
前駆期
前駆期とは、わかりやすく激しい精神症状をきたす急性期の手前で、さまざまな非特異的な前駆症状をきたす期間です。症状が非特異的であり、本人や家族も含めて最初は誰も精神疾患とは思わないため、内科を受診することが多いです。
具体的な症状としては、落ち着かない・不安や焦燥・集中力の低下・抑うつ気分・不眠などです。また、この時期には短期間もしくは間欠的に、急性期で生じるような妄想や幻覚、支離滅裂な思考などが軽度に生じることもあります。
後から考えれば、この時期の症状が統合失調症の前駆期であったと認識できますが、この時点で統合失調症を強く疑うのは困難です。また、再発する時にも前駆期の症状が出現するため、知っておくことで予防に有用です。
急性期
前駆期で症状が自然軽快する事も多いですが、うまく対処できずに症状が悪化していくと急性期に入ります。急性期に移行する段階では引きこもりや孤立、異常な思考などの症状が出ますが、さらに進行して急性期に完全に移行すると陽性症状が主となります。
陽性症状とは、正常な精神機能に歪みが生じる症状のことで、幻覚や妄想など、周囲から見ても異変がわかりやすい症状です。幻覚の中でも多い症状は幻聴であり、自分の言動に対する意見や批判が頭の中で聞こえることが多いです。
妄想とは、現実に起きている事象に対する、いわゆる思い込みや勘違いのことで、間違いを指摘してもその認識を止めようとしなくなります。
統合失調症で多い妄想には、誰かに見張られている、騙されているなどの被害妄想や、本や歌詞の一節が自分のことを指しているかのように感じてしまう関係妄想が挙げられます。
他にも、自分の頭の中が誰かに覗かれて思考が奪われていると感じる妄想(思考奪取)や、他者の考えが自分の頭の中に吹き込まれているという妄想(思考吹入)が代表的です。
これらの症状を患者自身が異常と思えない点もこの病気の厄介な点であり、その結果、他者とのコミュニケーションに重大な支障をきたし、思春期の子供の場合、通常通りの学校生活はまず送れなくなります。
回復期
急性期に医療機関を受診し、適切な治療を行なった場合、徐々に陽性症状は緩和されていきますが、その代わり陰性症状が強くなっていく時期です。陰性症状とは、陽性症状とは反対に、感情的・社会的機能が低下したり、失われる症状です。
具体的には、顔の表情の豊かさがなくなって感情が見られなくなる感情鈍麻、以前まで興味のあったことに興味を失う快感消失、他者との関わりが希薄化する非社交性などが挙げられます。
他にも、記憶力や注意力、遂行機能などの認知機能も軒並み低下するため、社会生活に大きな支障を及ぼします。特に陰性症状の程度が重いほど、社会機能が低下しやすいことがわかっており、予後の評価にも重要な指標です。
慢性寛解期
回復期を経て、病前とほぼ同程度まで回復するか、何らかの後遺症を残すものの病状が固定化される時期を慢性寛解期といいます。
この時期、発症した患者の1/3は大きな改善が得られ、もう1/3は幾らかの改善は見られるものの、再発したり後遺症を残します。残りの1/3では重度かつ永続的な無気力状態となり、回復できなくなってしまうため注意が必要です。
思春期の統合失調症の原因とは?
では、なぜ統合失調症という病気を発症してしまうのでしょうか?結論から言えば、統合失調症の原因は現在の医療技術を持ってしても解明されていません。
しかしながら、徐々にその病態も解明されつつあり、元来の統合失調症にかかりやすい体質(これを脆弱性と呼ぶ)と、そこに加えて何らかの環境要因が加わることで発症すると考えられています。
ここでは、思春期の統合失調症の原因について詳しく解説します。
ドーパミンの過剰放出
脳内部における神経伝達物質、ドーパミンの放出を調整する抗精神病薬が統合失調症に有効であることから、統合失調症にはドーパミンが関与していると考えられてきました。
近年の医療技術の進歩によって、脳の線条体と呼ばれる部位においてドーパミンの過活性を認めたことから、この仮説は立証されましたが、なぜそのような反応が生じるかの原因は依然として不明です。
遺伝的要因
統合失調症の発症には少なからず遺伝的要因が関与していると考えられています。一般の人の統合失調症の発症率は約1%であるのに対し、両親や兄妹が統合失調症を発症している人の発症率は10%と高いことからも遺伝的要因が強く示唆されます。
さらに、一卵性双生児の場合は50%と高い発症率を示すため、注意が必要です。この背景には脳の脆弱性に関わる遺伝子が存在すると考えられており、数多くの研究が行われていますが、依然として発見できていないのが現状です。
妊娠や出産時のストレス
統合失調症の発症には、妊娠中や出産時におけるストレスが関わっていると考えられています。特に、妊娠中期の母親のインフルエンザ感染や分娩中の低酸素、低体重での出生、母体と胎児の血液型不適合など、周産期に関わるトラブルが発症リスクを増大させると考えられています。
一方で、産後の子育てや家庭環境が発症に関与しているという根拠は得られておりません。
外部からのストレス
上記で示したような要因によって統合失調症に対する脆弱性を持つ人が、何らかの外部ストレスを与えられることでより発症・再発しやすくなると考えられています。
統合失調症の発症リスクとなる代表的な外部ストレスは、10代前半での大麻(マリファナ)の使用です。他にも、貧困や家庭環境の崩壊、転校などのストレスがきっかけで発症する可能性があるため、注意が必要です。
思春期の統合失調症の対処法とは?
思春期の統合失調症に対してはいかに早期に適切な対処を行うかが、予後にとって非常に重要であることが知られています。
また、治療の目的は症状の改善はもちろんのこと、社会性の維持・再発予防・日常生活機能(ADL)の改善など、さまざまです。ここでは、思春期の統合失調症の対処法を4つ紹介します。
ストレスからの逃避
特に前駆期のような発症早期の段階で統合失調症と気付けた場合、ストレスから逃避することで症状の悪化を未然に防ぐことができ、急性期に至らずに回復する可能性があります。
統合失調症と診断されていない場合でも、心身に何らかの不調が出ている時は、ストレスになるような要因は遠ざけるべきでしょう。
薬物療法
統合失調症は歴とした精神疾患であり、努力や根性でどうにかなるような病気ではありません。そのため、特に急性期に進行すると出現する陽性症状の改善のためには薬物療法が必要不可欠です。
先述したように、統合失調症の陽性症状にはドーパミンの過剰放出が関わっているため、主に使用する薬剤はドーパミンの産生を抑えるリスペリドン、オランザピン、ペロスピロン、アリピプラゾー/レ、ブロナンセリンなどの非定型抗精神病薬です。
症状改善はもちろんのこと、継続して内服することで再発予防にもなります。一方で、ドーパミンの機能を抑制しすぎると、ドーパミンの分泌不全であるパーキンソン病で出現しやすい震え、筋硬直、不随意運動などの錐体外路症状が出現する可能性があるため注意が必要です。
専門である精神科医の指示した用法用量を守って治療継続していくことが重要です。
精神療法
精神療法とは、患者が治療中に感じる症状への不安を少しでも軽減し、精神安定を目指す治療のことです。薬物療法と違い、直接的に症状を改善する効果は認めませんが、本人が自信を持って薬物療法に取り組めるようになります。
また、医師がしっかり患者の話を聞いて不安を軽減することで、治療に対する積極性を向上させる効果も期待できるため、抗精神病薬との併用が効果的です。
リハビリテーション
思春期の統合失調症に対しては心理的・もしくは身体的なリハビリテーションも重要です。心理的リハビリテーションでは、患者の病気に対する理解を深めることで、抗精神病の用法用量を守ることの重要性や、ストレスから回避することの重要性などを理解してもらいます。
身体的なリハビリテーションとしては、社会や家庭に復帰する上で必要な日常生活動作の改善や、集中力・作業能力の回復を目指す作業療法などを行います。これらの治療は抗精神病薬と併用することで高い効果を発揮することが知られています。
もしかしたら起立性調節障害かも
思春期の子供がやる気がなくなったり、学校生活に支障をきたした場合、統合失調症ではなく起立性調節障害の可能性もあるため、注意が必要です。
起立性調節障害とは、身体の急激な成長に対して自律神経の成長が追いつかず、自律神経のバランスが乱れることでさまざまな症状をきたす疾患です。
特に、身体の成長著しい小学生高学年〜中学生で発症しやすく、まさに思春期で発症しやすい病気です。特に午前中に症状が強く、めまい・立ちくらみ・腹痛・嘔吐・起床困難などの症状をきたし、午前中は学校に行けない子供も少なくありません。
統合失調症の、特に前駆期の症状と類似点が多く誤認されやすいため、注意が必要です。一方で、相違点としては、起立性調節障害の場合は午後や夕方になると症状が改善するという日内変動があります。
基本的には自然軽快する病気ですが、人によっては重症化し、通学どころか進級や進学にも支障をきたす可能性があるため、注意が必要です。
統合失調症であっても、起立性調節障害であっても、やはり早期に適切な診断を行い、早期から治療介入することが肝要です。
統合失調症では本記事で解説しましたが、下記の記事では、子どもにおける起立性調節障害のセルフチェック方法を詳しく紹介しているため、気になる方はぜひ一度チェックしてみましょう。