なかなか朝起きてこない子供に対し、叱った経験がある親御さんも少なくないのではないでしょうか?
特に、中学生くらいの子供は夜のスマホいじりや受験勉強などで夜更かしする機会が増え、なかなか朝起きてこないことも少なくありません。
しかし、単純に眠いから起きられないだけでなく、中にはなんらかの病気の影響で朝起きることが困難となる子供もいます。
病気が原因の場合、起きてこないことを叱責しても改善は見込めず、むしろストレスとなり病状を悪化させる可能性もあります。
さらに、中学生で朝起きれない場合は通学に支障をきたし、周囲と比較して学業で遅れを取ってしまう可能性もあります。そのため、早期に原因を解明し、適切な対応を取る必要があります。
そこで、本記事では中学生が朝起きれない場合の原因や病気について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、朝起きれない状態に対する適切な対処法を知っていただければ幸いです。
中学生が朝起きれない原因
中学生が朝起きれない原因を理解するためには、睡眠と覚醒のメカニズムを知る必要があります。ヒトの睡眠には2つのメカニズムが関与しています。
まず1つ目のメカニズムは、睡眠欲求の増減です。日中の疲労蓄積によって睡眠欲求が増加し、ある程度の段階で眠りに入ると睡眠欲求は急速に減少します。十分な睡眠によって睡眠欲求が消失すると覚醒に至ります。
2つ目のメカニズムは、サーカディアンリズムです。ヒトの体内にはサーカディアンリズムと呼ばれる体内時計が存在し、1日25時間周期でまわってます。
朝になるとサーカディアンリズムによって交感神経の活性化、覚醒作用のあるホルモンの分泌、深部体温の上昇などが生じ、覚醒に向かいます。
サーカディアンリズムによる覚醒力が、1つ目で解説した睡眠欲求を上回ると覚醒に至ります。
実際の世界は1日24時間であるため、本来であれば毎日1時間ずつ体内時計と日常の時間はずれ込み、就寝時間や起床時間も1時間ずつ後ろにずれ込んでいくはずです。しかし、多くの人は毎日同じような時間に就寝し、起床しています。
これは、サーカディアンリズムのズレを日常の様々な行動(太陽光を浴びる・通勤や通学などのルーティンワーク・規則正しい食事摂取など)で日々リセットしているからです。
だからこそ、日中に外出せず家にいると夜なかなか寝付けなくなり、朝も起きられなくなります。
他にも、睡眠や覚醒にはメラトニンと呼ばれるホルモンが深く関わっています。日中に太陽光を浴びることで体内ではセロトニンと呼ばれるホルモンが分泌されます。このセロトニンは、夜間光刺激が少なくなると体内でメラトニンの原料となります。
メラトニンは自然な睡眠を誘うホルモンであるため、日中のセロトニン分泌量が多いほど、夜間眠りやすく、朝も起きやすくなります。
これらの複数のメカニズムが複雑に関与して夜の入眠や朝の覚醒は成り立っているため、いずれかになんらかの問題が生じることで朝起きれなくなります。では、具体的にどのような病気が考えられるのでしょうか?
中学生で朝起きれない場合に考えられる病気
中学生で朝起きれない場合に考えらえる病気として、感染症・電解質異常・低血糖・脱水など全身状態が悪化するような疾患が挙げられます。しかし、これらの疾患は朝に限らず日中や夜間も倦怠感を伴い起き上がれなくなるような疾患です。
一方で、朝の覚醒が困難となり起きられなくなる病気としては、睡眠相後退症候群・睡眠時無呼吸症候群・レム睡眠行動障害・適応障害やうつ病などが挙げられます。それぞれについて解説します。
睡眠相後退症候群
中学生で朝起きれない原因として睡眠相後退症候群が挙げられます。睡眠相後退症候群とは、就寝から覚醒までの時間帯(睡眠相)が徐々に後ろの時間帯にずれ込んでいく病気です。
前述したように、夜間眠くなるためには日中に太陽光を浴びて体内でセロトニンが分泌される必要があります。セロトニンは、夜間に光刺激が減ってくると体内の松果体でメラトニンの原料となり、自然な眠気を誘います。
日中に家の中に閉じこもって太陽光を浴びないとセロトニンの分泌が減少し、さらに夜間のスマホいじり、テレビ視聴、オンラインゲームなどを行っていると、光刺激によってうまくメラトニンが産生されず、睡眠相が後退していきます。
比較的若年層に多い睡眠障害の一種であり、スマホを持ち始める中学生くらいの年代では要注意です。
睡眠時無呼吸症候群
中学生で朝起きれない原因として睡眠時無呼吸症候群が挙げられます。睡眠時無呼吸症候群とは、その名の通り睡眠中に呼吸が弱くなる、もしくは一時的に停止する病気です。
巨舌、小鰐、短頸、肥満、アデノイド、扁桃肥大などを認める子供の場合、口腔内や咽頭内のスペースが狭く、空気の通り道が生理的に狭くなっている状態です。さらに、睡眠中は舌の筋肉が弛緩するため舌根が後方に垂れ込み、さらに気道は狭くなります。
気道の狭窄に伴い睡眠中に取り込める酸素の量が低下すると、脳に十分な栄養を届けることができず睡眠の質が低下することが知られています。また、自分のいびきによって睡眠途中で覚醒してしまうため、総睡眠時間も短縮する傾向にあります。
そのため、睡眠の質・量ともに低下し、朝起きれない原因となります。いびきを本人が自覚することは困難であるため、親御さんがしっかりと子供のいびきをチェックするようにしましょう。
レム睡眠行動障害
中学生で朝起きれない原因としてレム睡眠行動障害が挙げられます。レム睡眠行動障害とは、本来であれば体が動くことのないレム睡眠時になんらかの行動障害が出現する病気です。
睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠の2つの相に分類され、レム睡眠では身体を休ませる代わりに記憶や情報の処理のために脳が働き、夢を見る睡眠相です。
一方で、ノンレム睡眠は脳を優先的に休ませる睡眠相であり、身体は動けるため寝返りを打ったり寝相の悪くなる睡眠相です。
レム睡眠行動障害を発症すると、レム睡眠にも関わらず発声や体動が生じます。睡眠時間の割に身体の疲れが取れなくなってしまうため、睡眠の質が低下して朝起きれなくなります。
適応障害・うつ病
中学生で朝起きれない原因として適応障害・うつ病が挙げられます。適応障害やうつ病は、中学生でも発症する可能性のある精神疾患であり、特に適応障害ではストレスの原因がはっきりしていることが多いです。
どちらの疾患も不眠症状が生じて朝起きれない原因となります。どちらも発症のきっかけとなる物事から離れることで症状の改善が期待できます。
しかし、うつ病は脳内におけるノルアドレナリンやセロトニンの分泌低下という器質的原因が存在するため、ストレスの原因から離れても症状はそこまで改善しにくい病気です。
中学生で朝起きれない場合の治し方
ここからは、原因となる病気それぞれの治し方を解説します。
睡眠相後退症候群
睡眠相後退症候群を治すためには、まず生活習慣を見直しましょう。特に中学生であれば、夜更かしが原因となることが多いです。少なくとも就寝2時間前以降のスマホいじり、テレビ視聴などは控えましょう。
朝起きた後は可能な限り太陽光を浴びるように屋外へ出て、運動を行えればより良いでしょう。また就寝前のカフェイン摂取や、就寝直前の運動・入浴はかえって逆効果のため控えるべきです。
それでも改善が見込めない場合は、医療機関で薬物療法や光療法を行う必要があるため、早期に医療機関を受診しましょう。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群の発症初期は朝や日中の眠気が主ですが、進行すると持続的な低酸素状態がストレスとなり、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の原因となり、いずれは心臓や脳の病気にも進行します。
そのため早期介入が必要であり、原因に応じた対処を行う必要があります。例えば、肥満を認める場合はダイエットや横向きでの睡眠が効果的です。横向きでの睡眠は仰向けよりも気道狭窄のリスクが低いためです。
一方で、巨舌、小鰐、短頸、アデノイド、扁桃肥大などの解剖学的な問題は、マウスピースの装着や外科的手術など専門的治療を要する可能性もあるため、医療機関への受診をお勧めします。
レム睡眠行動障害
レム睡眠行動障害の治療法は、生活環境や就寝環境の見直しが第一ですが、場合によっては医療機関での薬物療法が必要となります。
通常、脳の変性が進む中年以降での発症が多いですが、若年者でも軽度のてんかんなどによって発症する可能性があり、注意が必要です。
適応障害・うつ病
適応障害やうつ病の治療法は、ストレスの原因となる物事から離れ、休息する必要があります。前述したように、うつ病は休養のみでは改善しない可能性も高く、精神科での薬物療法や心理カウンセリングが必要となります。
すぐにできる対処法
朝起きられない場合、まずは生活習慣の見直しが必要となります。就寝直前までスマホいじりを控え、規則正しい食生活や日中の適度な運動でサーカディアンリズムを整えます。
規則正しい生活習慣は肥満予防にもなり、睡眠時無呼吸症候群やレム睡眠行動障害のリスクも軽減できます。親御さんは、朝には子供の寝ている部屋のカーテンを開け、太陽光を部屋に入れるようにしましょう。
なんらかの原因によるストレスで精神疾患を発症している場合は、起きてこない子供に対しての叱責は避けるべきであり、普段から子供とよく会話し、ストレス状態を把握することも大切です。
もしかしたら起立性調節障害かも
中学生が朝起きれない原因として、起立性調節障害(OD)の可能性もあります。
成長期の子供の身体が急激に成長するのに対して、自律神経の成長が追い付かないため、自律神経のバランスが乱れてさまざまな症状が出現する病気です。
特に、起床時は本来起こるべき交感神経の活性化を認めず、脳血流が低下するため起き上がることができなくなります。また症状は午後や夕方になると改善し、夜間は元気が出て眠くならないため、睡眠相が後退するという特徴もあります。
症状が進行すれば長期間通学に支障をきたす可能性もあるため、疑わしい場合は早期に医療機関を受診しましょう。
ODには他にも様々な特徴や症状があり、医療機関に受診する前に自宅でも簡単にセルフチェックすることができます。
下記記事では起立性調節障害の子どもでも自宅できるセルフチェック法について解説されていますので、ぜひ参考にしてください。
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