みなさんは起立性調節障害(OD)という病気をご存知でしょうか?
この病気は決して珍しい病気ではなく、小学校高学年から中学生にかけて約10%の子供が発症すると言われています。
急激な肉体の成長によって脳と心臓の距離が急速に離れてしまい、心臓から駆出された血液が脳に到達しずらくなり脳の血流が低下してしまうことで、ふらつきやめまい、嘔気、嘔吐、腹痛など多彩な症状をきたす身体的な病気です。
本来であれば、脳血流が低下しないように交感神経や副交感神経などの自律神経が自動で活性化して脳血流を維持していますが、肉体の成長に自律神経が追いつけなくなると起立性調節障害を発症するため、起立性調節障害は身体疾患と言えます。
しかし、一般的な検査ではなかなか異常所見を認めず、出現する症状も多彩であるため、似たような症状をきたす鉄欠乏性貧血や適応障害、うつ病、甲状腺機能低下症などと誤診される事も少なくありません。
そこで起立性調節障害に対しての確定診断を行うためには、一般的な検査(血液検査や心電図検査、問診や身体診察)以外に「新起立試験」と呼ばれる少し特殊な検査を行う必要があります。
そこで本記事では、新起立試験の具体的なやり方や手順、さらには保険点数や他の検査(起立試験やシェロングテストなど)との違いなどを詳しく解説させていただきます。これによって少しでも起立性調節障害に苦しむ皆さんの一助となれば幸いです。
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新起立試験のやり方とは?手順を解説
そもそも起立性調節障害の診断をつけるためには、ガイドラインを基に新起立試験を実施する必要があります。
具体的には、医療機関での問診、身体診察、心電図検査、レントゲン検査、血液検査などを行い、そのほかの疾患の可能性を否定してから行うことになります。
これらの検査を行い、可能性のある疾患が否定された後は起立性調節障害の診断のために、専門性の高い「新起立試験」を行い確定診断を付けるわけです。
実際に新起立試験を行っている医療機関は多くないため、ここではその方法をご紹介します。
まず新起立試験を行う上では、体の不調が顕著となる時間帯である早朝や午前中に検査を受ける必要があるため、医療機関によっては前泊入院して早朝に検査を行う施設もあります。
実際の検査では、患者の体に心電図と血圧計を装着し、モニタリングしながら10分間ベッドの上で安静にしながら仰向けで寝てもらいます。この間、心拍数と血圧を3回測定します。
その後、患者自身に立ち上がってもらい10分間起立を維持してもらいます。起立後数分おきに血圧と心電図を測定し、一時的に低下した血圧がどれくらいの時間で元に戻るのかチェックします。起立後10分で心電図測定を終了します。
この時の血圧と心拍数の変化を元にODの確定診断を行うと同時に、大まかに4つのサブタイプに分類します。
では、具体的に起立性調節障害の診断と4つのサブタイプについて血圧回復時間も含めて解説します。
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新起立試験の血圧回復時間
起立によって一時的に低下した血圧が再び安静時の血圧に戻るまでの時間を、起立後血圧回復時間と言います。通常、自律神経の働きに以上がない方は20秒未満で安静時血圧に戻ると言われています。
しかし、起立後血圧回復時間が25秒以上かかる場合、もしくは起立後血圧回復時間が20秒以上かつ起立による平均血圧の低下率が60%以上の場合、起立性調節障害の中でも最も多いサブタイプである起立直後性低血圧と診断されます。
また起立性調節障害の厄介な点は、他にも多くのサブタイプが存在し、血圧や脈拍の変化のパターンも多彩な点です。例えば、サブタイプの1つである体位性頻脈症候群では起立直後の血圧低下は認めません。
しかし、脈拍に変化をきたし、具体的には起立後3分以降の心拍数が115回/分以上、もしくは起立中の心拍数増加が35回/分以上とされています。
他にも、失神を伴う血管迷走神経性失神や、起立後3-10分以降に収縮期血圧が起立前より15%以上(もしくは20mmHg以上)低下する遷延性起立性低血圧などが挙げられます。
新起立試験の保険点数
上記のように新起立試験を行う事で、サブタイプや重症度を含めた起立性調節障害の診断をつけることができます。逆に言えば、新起立試験はた起立性調節障害の確定診断には必須な検査と言えます。
そこで気になるのは、検査の費用や保険点数です。実は新起立試験自体は保険診療の算定項目に存在しないため、一般的な心電図検査や血圧測定と同様の保険点数として算定されます。
しかし、新起立試験に加えて、専用の器具を用いたHead-up Tilt試験と呼ばれる検査を行った場合のみ保険点数として1030点が追加で算定可能です。
このHead-up Tilt試験とは、専用のベッドに寝てもらい、ベッドに自動で傾斜をつけて血圧や脈拍の測定を行う検査です。保険点数加算のためには、失神の既往がある必要があります。
これらを踏まえると、新起立試験自体は入院費用次第ですが一般的に15,000-20,000円前後、それに加えHead-up Tilt試験を行う場合、追加で3,000円ほどが患者さんの自己負担額となります。
起立試験と新起立試験の違い
従来の起立試験と新起立試験の違いは、評価項目に起立後血圧回復時間があるか否かです。起立後血圧回復時間を評価することで、より厳密な診断が可能となります。
従来の起立試験では、仰向けから立位への体位変換時の血圧と脈拍の変化しか観察していないため、新起立試験の簡易版という位置付けです。
従来の起立試験には、患者自身が自分の足で立ち上がるシェロングテストと、専門の器具を使って強制的に立位状態を作り出すHead-up Tilt試験の2つの方法があります。
シェロングテストとは
上記で説明したように、シェロングテストは一言でいえば起立試験の中でも患者が能動的に起立する検査のことです。
もともとシェロング医師が起立性低血圧患者の状態把握のために生み出した検査方法であり、今日でも簡易的な起立性調節障害の検査として行われています。
これらの検査を受ける患者の中には、立位への体位変換によって急速に脳血流が低下し、場合によっては失神する患者も少なくありません。そこで、シェロングテストは患者自身で起立してもらうため、低負荷な検査と言えます。
それに対し、前述したHead-up Tilt試験では専用のベッドで強制的に仰臥位から傾斜をつけて立位の状態を作り出すため、シェロングテストと比較してより高負荷な検査と言えるでしょう。
シェロングテストの手順
実際のシェロングテストの手順は、まず仰向けで15分間安静になってもらいます。その後、1分ごとに2分間血圧と脈拍を測定します。その後、自分で立位を取ってもらい起立直後から1分おきに、1分後、2分後、3分後と血圧や脈拍の変化を測定していきます。
評価項目に起立後血圧回復時間がないため、起立性調節障害のサブタイプである起立直後性低血圧の診断はできないことになります。
まとめ
今回は、起立性調節障害に対する検査として新起立試験を中心に、同じような検査として起立試験(シェロングテストやHead-up Tilt試験)について解説させていただきました。
起立性調節障害が疑わしい場合、ガイドラインに従って各種診察や検査を行い、最終的に新起立試験を行って確定診断を付けます。また、施設によってはシェロングテストやHead-up Tilt試験によって簡易的に診断を行っているところもあります。
新起立試験は、特に症状の強い午前中に検査を行う必要があり、医療機関によっては前泊入院して実施している施設もあるため、親御さんはそれぞれの医療機関に事前に費用や検査方法を確認しておく必要があります。
また、起立性調節障害の子供を持つ親御さんには他にもやるべきこと、できることがたくさんあります。下記記事では、「起立性調節障害の治し方・子どもに対して親ができること」が非常によくまとまっていますので、ぜひ参考にしてください。
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【参考資料】
起立性調節障害(OD) 朝起きられない子どもの病気がわかる本/田中 大介
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)
起立性調節障害(OD)ドクターズファイル