「昨晩たくさん眠ったはずなのに日中に強い眠気に襲われる」「運転中や作業中など、本来眠気を感じないシチュエーションでも異様に眠くなる」
このような症状にお悩みの方は注意が必要です。慢性的な睡眠不足がないにも関わらず、日中に強い眠気に襲われる状態を過眠症と呼びます。
昼食後の誰でも眠くなる時間帯に寝てしまうのとは別で、眠ってはいけない場面や、通常であれば眠るようなことのない緊張場面においても眠ってしまうような、病的な眠気を慢性的にきたす疾患です。
突如の眠気によって事故や怪我を負う可能性や学業が遅れる可能性もあるため、早期に判断し、早期から適切な取り組みや治療が必要です。自己判断で誤った対応を行うとより悪化してしまう可能性もあるため、正しいアプローチで介入しましょう。
そこでこの記事では、過眠症を自力や病院で治す方法や、治療する上での注意点について解説します。これを機に正しい睡眠習慣を手に入れ、規則正しい生活を取り戻しましょう。
過眠症を自力で治す方法
過眠症を疑った場合は、まずは自力での改善を試みましょう。
過眠症は睡眠不足が背景にないのが前提ですが、実は本人の自覚もなく睡眠不足に陥ってる可能性があるため、睡眠の時間や質を見直すことで日中の眠気を改善できる可能性があります。
ここでは、過眠症を自力で治す方法を4つ紹介します。
薬物使用の有無を確認する
過眠症を自力で治すためにまず行うべきは、自身の薬物使用の有無を確認することです。眠気を誘発するような薬を使用している場合、過眠症かどうか疑う以前に、その薬が原因で過眠症状が出現している可能性が高いためです。
具体的には抗うつ剤、抗不安薬、睡眠導入剤、抗精神病薬などを服用している場合は、それが原因となっている可能性があります。また、花粉症などのアレルギー性疾患に対して処方される抗ヒスタミン剤も眠気を誘うため、注意が必要です。
これらの薬物は量や投与時刻によっては、日中に発作的な眠気が生じ、昼寝をしても一向に眠気が解消されないため、特にこれらを内服する可能性の高い高齢者では確認しておくと良いでしょう。
睡眠時間の確保
特に疑わしい薬物を使用していない場合は、睡眠時間の確保に努めましょう。適切な睡眠時間には個人差があり、自分では十分だと思っていても実は睡眠不足に陥っている可能性があるためです。
現代では朝起きる時間は早いにも関わらず、働き方が夜型化している傾向にあり、身体にとって必要な睡眠時間を確保できないケースが増えています。
このような状態が慢性的に続けば、日中の強い眠気とともに、倦怠感や易疲労感、 頭重感などさまざまな心身の症状が出現する睡眠不足症候群に陥ります。
睡眠不足症候群の解消のためには、1~2日間の寝溜めでは効果がなく、2週間近くしっかり睡眠できる時間と環境を確保することが重要です。
睡眠の質の向上
睡眠時間を確保できていても過眠症状を認める場合、睡眠の質が低下している可能性があります。睡眠の質の低下は自身では評価しにくく、気付かぬうちに脳や身体にダメージを与えている可能性があるため、注意が必要です。
高温多湿や寒冷乾燥、夜間に明るい部屋、騒音、振動など、不適切な就寝環境は睡眠の質の低下を招きます。また、不適切な高さの枕、不適切な硬さのマットレスなど、寝具の質も睡眠にとって重要です。
睡眠に良かれと思って就寝直前に入浴や運動を行うと、身体の深部体温が上昇してしまい、その後の睡眠の質を低下させることも知られています。睡眠の質を上げるためにも今一度睡眠の質をチェックしましょう。
生活習慣の改善
最後に、生活習慣の改善も過眠症対策の1つです。生活習慣の乱れは睡眠の質の低下につながり、結果として過眠症の原因となるためです。
特に、就寝直前の暴飲暴食は肥満の原因となり、肥満に陥ると首回りに脂肪が多く付着するため、咽頭部の空気の通り道(気道)が狭くなります。特に睡眠中は舌根が後方に落ち込み、さらに気道が狭くなることで取り込める酸素の量が低下します。
他にも、就寝直前のアルコールや喫煙は気道の浮腫を招くため、同様に気道の狭窄を招くため控えるべきです。取り込める酸素量の低下によって脳が十分に休めなくなり、過眠症の原因となるため、これらの生活習慣は是正すべきです。
過眠症を病院で治す方法
特に原因がはっきりとしない過眠症に対して、中にはうつ病やナルコレプシー、むずむず脚症候群、クライネーレビン症候群などの疾患が背景に隠れている可能性もあります。
これらの疾患に対しては、自力での改善は困難であり、医療機関での専門的な診断や治療が必要となります。ここでは過眠症を病院で治す方法について詳しく解説します。
まずは適切な診断を行う
過眠症を病院で治す場合、まずは適切な診断を行うことが重要です。過眠症の原因がそもそも病気なのか、病気でないのか、病気であるならどのような病気なのかによって、行うべき治療も異なるためです。
うつ病による過眠症であれば抗うつ剤が適切ですが、ナルコレプシーが原因であれば中枢神経刺激薬と呼ばれる薬が必要になります。
また、病気が背景にない場合にこれらの薬剤を使用すると症状が悪化する可能性もあるため、やはり適切な診断が必要です。そのためには、睡眠状態の把握や問診、睡眠中の脳波検査が非常に重要です。
眠気を改善する薬を使う
過眠症に伴う日中の眠気に対しては、塩酸メチルフェニデートと呼ばれる中枢神経刺激薬が良く用いられます。塩酸メチルフェニデートは中枢神経系に作用し、覚醒作用を持つため、日中の眠気を緩和させる効果があります。
特に、原因がナルコレプシーの場合は効果が高く、第一選択薬です。ナルコレプシーによって運転中に寝てしまい、不幸な事故を起こしてしまう事例もこれまで散見されるため、日中の眠気に対する対策として使用すべきです。
基礎疾患の治療を行う
過眠症の原因は、特発性・ナルコレプシー・むずむず脚症候群などさまざまですが、中には脳器質性疾患(脳腫瘍や脳梗塞、頭部外傷後など)や神経変性疾患、中枢性脱髄疾患(多発性硬化症とその近縁疾患)などに伴って過眠症状が生じる場合があります。
基礎疾患の治療をすることで過眠症状が改善する可能性があるため、まずは基礎疾患の治療を先行させることが重要です。
ただし、多発性硬化症などの進行性の変性疾患の場合は改善が困難な場合もあるため、基礎疾患がどのような疾患であるかによって経過も異なります。
過眠症を治す上で注意するべき点
過眠症を治す上では、いくつか注意すべき点があります。
自己判断で誤った行動を行うとより症状が悪化してしまう可能性もあるため、事前に注意点を把握しておきましょう。
診断を誤る
過眠症を治す上で注意するべき点として、診断を誤る可能性がある点です。先述したように、過眠症の原因となる病気は多岐にわたり、その原因によっても対処法や治療法は異なります。
例えば、就寝環境が劣悪で睡眠の質が低下しているのが原因の場合、その環境でどんなに睡眠時間を増やしても思ったような効果は得られません。
背景に脳腫瘍などがあって過眠症に陥っている場合、必要なのは手術などの治療であり、中枢神経刺激薬で改善することは不可能です。症状改善のためには適切な診断が必要となることは覚えておきましょう。
自己判断で対処する
自己判断で誤った対処を行うと、症状がより悪化する可能性があるため、注意が必要です。
日中の強い眠気に対して、カフェインの過剰摂取で対応しようとする方も少なくありませんが、カフェインの過剰摂取は中毒になる可能性もあり、効果も薄いため勧めません。
また、夜になかなか眠れない方はアルコールやニコチンに頼って入眠する方もいますが、これも睡眠の質を低下させるだけでなく、依存による精神不安を引き起こす可能性もあるため、控えるべきです。
重要なのは、睡眠時間の確保と質の向上、規則正しい生活習慣です。自己判断で誤った方法で睡眠に介入するのは控えましょう。
他の病気の可能性を疑う
日中に強い眠気を感じた際は、他の病気の可能性も疑いましょう。
特に注意すべきは睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群は小顎・巨舌・アデノイド・扁桃肥大などを理由に、気道が狭窄化して睡眠中に無呼吸に陥る病気です。
睡眠の質が著しく低下し、睡眠時間を確保しても朝にスッキリ目覚められず、日中に眠くなります。いびきをかく人はリスクが高いため、家族や友人にいびきの有無を確認しましょう。
診断には専門的な検査が必要で、治療も専門的な装具が必要となることもあるため、まずは医療機関への受診を勧めます。
もしかしたら起立性調節障害かも
過眠症のような症状が出ている場合、もしかしたら起立性調節障害の可能性もあります。起立性調節障害は過眠症と同様に、睡眠リズムが乱れることで日中、特に午前中に眠気が強く、社会生活にさまざまな支障をきたす疾患です。
特に、小学生高学年から中学生にかけて、身体が急速に発達するのに対して自律神経の成長が追いつかず、自律神経のバランスが乱れてしまうことで睡眠にも影響を及ぼします。
起立性調節障害の場合、睡眠・呼吸・血圧・体温・脈拍・排尿・排便などさまざまな生理機能を担う自律神経の乱れが原因であるため、過眠症状以外にも、めまい・ふらつき・全身倦怠感・腹痛・嘔気など、出現する症状もさまざまです。
過眠症と若干異なる点としては、起立性調節障害の場合は、特に午前中や起床時に症状が強く出る傾向にある点です。
放置すると症状は悪化してしまう可能性もあるため、早期発見・早期治療が肝要です。まずは下記の記事を参考に、起立性調節障害のセルフチェックを行いましょう。
関連記事:起立性調節障害のセルフチェックリスト(子ども)|すぐにできる診断テスト
通常は子供に多い病気ですが、起立性調節障害は大人でも発症しうる病気です。
大人で発症すると仕事に影響が出て、収入や生活にも影響が出てしまうため、やはり早期発見に務めるべきです。下記の記事で大人の方もセルフチェックしてみましょう。