小学生から中学生に進学することは、親御さんが思っている以上に子供にとってストレスがかかっているかもしれません。
慣れない通学路や見知らぬ同級生、部活の選択など畳み掛けるように環境の変化が襲ってきます。さらに学年が上がれば数年後には高校への進学や進路も考えなくてはなりません。
年齢を追うごとに自我が成長していくため、そのストレスを強く感じやすい年齢でもあります。そんな時、急に朝起きれなくなったり起立時にふらついたりしたら、その症状は起立性調節障害(OD)の可能性があります。
特に急激に肉体が成長する成長期に差し掛かる中学生には、肉体の成長に自律神経の発達がついていけないため起立性調節障害を発症しやすい時期なのです。決して稀な疾患ではなくどのご家庭にも起こりうる問題であり、親御さんも疾患への理解と知識を持ち子供の支えになる必要があります。
そこで本記事では、起立性調節障害の症状や生活への影響、それに対する対応方法を解説していきます。
中学生が起立性調節障害を患う原因
一般的に起立性調節障害は小学生では約5%が、中学生になれば約10%程度が罹患する疾患であり、決して稀な疾患ではありません。
起立性調節障害は交感神経や副交感神経という自律神経のバランスが乱れることが原因です。自律神経は血圧や血糖値、ホルモンや睡眠、排泄など多くの機能に関わり、その時の肉体に合わせて自動調整しています。
起立性調節障害に罹患すると、起床後に交感神経が適切に反応しないため立ち上がると脳への血流が不足してしまい様々な症状が出現します。
特に中学生の場合、自律神経のバランスが乱れる原因が多く存在します。急激な肉体の成長により心臓と脳の距離が開くため脳血流が低下しやすくなることや、女性であれば月経開始に伴うホルモンバランスの変化が自律神経にも影響することが挙げられます。
また、中学生は精神的に成熟していないため、環境の変化に伴うストレスが成人よりも大きく、自律神経のバランスに影響が出やすいのです。中学への入学、部活動、高校進学への受験勉強などストレスの火種は多く、ストレスは交感神経に大きな影響を与えてしまうため起立性調節障害の発症を誘発しやすいのです。
中学生に多い起立性調節障害の主な症状
起立性調節障害の症状は、起立時のふらつきや体調不良、全身倦怠感、頭痛、吐き気など多岐に渡り、貧血と似たような症状が多いです。
特に中学生の起立性調節障害の子供にとって問題になるのは、起床時のふらつきによる通学困難であったり、周囲と同じようには体育の授業などに参加できない可能性が高いということです。
中学生の場合、起立性調節障害で苦しむ同年代の子供に対して適切な理解や共感を持つことができない可能性があります。起立性調節障害に罹患した子供は起きたくても起きられない、運動したくても動けない状態ですが、周囲からはただサボっているだけだと誤認される可能性があります。
さらに厄介なことに、起立性調節障害は午後になると交感神経が活性化し始めるため症状が緩和され徐々に活動的になります。症状が緩和されることは本来良いことですが、午後だけ授業に出たり夕方の部活にだけ参加するような複雑な状況を周囲の子供がどこまで理解できるかが課題になります。
周囲の理解が得られないとさらにストレスがかかり、その結果ストレスにより起立性調節障害の症状が悪化する可能性もあるため注意が必要です。
中学生が起立性調節障害を患った場合どうなる
中学生が起立性調節障害になるとまず問題になるのは一般的な学校生活が送れなくなることです。また、体育の授業や部活動などで行うスポーツも起立性調節障害の症状を悪化させる可能性が高く、人によっては参加できなくなります。
授業や部活動は人間関係の構築や自身の人格形成にも大きく影響するため、中学生にとって大きな機会損失になってしまうかもしれません。
さらに、中学校高学年になれば、その後の進学についても考えなくてはなりません。仮にそのまま定時制の高校に進学したとしても、症状が改善しなければその後3年間継続して通学することは難しくなってしまうため慎重な判断が必要になります。
起立性調節障害の治療法
起立性調節障害の治療には、非薬物療法と薬物療法があります。主に非薬物療法を行っていくことがメインです。
非薬物療法には下記のような対策が挙げられます。
- 飲水療法
- 食事療法
- 運動療法
- 光療法
それぞれの治療法の詳細や、起立性調節障害の治し方・子供に親ができることは下記で紹介していますので、ぜひご覧ください。
起立性調節障害の子供が不登校になった場合の対応
中学生の場合は義務教育ですので学業成績がどうであれ進学は可能です。親御さんは子供の学業の遅れへの対策を考え、学校と連携して相談して行く必要性があります。
また、最も重要なのは子供の症状の改善を図ることです。学業の遅れに焦って親御さんが子供を急かしても症状は良くなりません。どうしても通学が難しい場合は、無理をさせずに体調回復を最優先に考えましょう。
通信制の高校も選択肢に
症状の改善していない起立性調節障害の子供をもつ親御さんにとって、定時制高校に進んでも卒業まで通学できるか分からない以上高校進学は悩ましい問題だと思います。
しかし、定時制高校以外にも選択肢はあります。例えば通信制の高校では、自宅や学習支援を行う施設での学習が中心であり、決まった時間での通学などは必要ありません。
レポート作成やテストを受けることで単位を取得し卒業を目指します。週に何回かだけ通学する学校や、自由な時間に通学できる学校など多くのスタイルがあります。
選択肢が多いことは子供や親御さんにとってメリットですので、もし定時制高校への進学に不安があれば通信制高校を検討しても良いと思います。
再発の可能性について
自律神経は成長とともに安定化していくため、起立性調節障害患者の約8割は発症から数年で自然回復すると言われています。しかし自然回復した後数年で再発する人も少なくありません。気温や気圧が変化するだけでも、自律神経に影響が出て起立性調節障害が再発する可能性があります。
起立性調節障害が改善した人の中では約4割程度の人は再発するというデータもありますので、小学生で起立性調節障害が改善したからといって中学生で再発しないとは限りません。
中学生は非常に多感な時期であり、高校受験や友人関係によって精神的に負担がかかりやすい時期ですので再発する可能性が高い時期と言えます。
うつ病と起立性調節障害の違い
うつ病と起立性調節障害は意欲や集中力の低下、食欲低下など症状が類似していますが、起立性調節障害の場合午後や夕方になるにつれて症状が緩和していきます。
うつ病ではそういった日内変動が少ない点で異なりますが、同様の傾向があります。また、起立性調節障害により自尊心や自己肯定感が低下して、うつ病を併発する場合もあります。疑わしい場合は医療機関で診察を受けましょう。
実際にもし中学生で起立性調節障害を疑った場合に何科に受診すべきか、どう対応すべきかなどを下記記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
【参考】
田中大介 監修『起立性調節障害(OD)朝起きられない子どもの病気がわかる本』 講談社
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)