・しっかり睡眠をとったはずなのに日中に堪え難い眠気に襲われる
・ネットで調べるとナルコレプシー が疑われるようだけどその原因は?
上記のようなお悩みや疑問をお持ちの方はナルコレプシーの可能性があります。
睡眠時間に関わらず日中に強い眠気に襲われることで学業や仕事に支障をきたすため、年齢に関わらず厄介な病気です。
これまでその患者数の少なさからはっきりとした原因は解明されていませんでしたが、近年では医学の進歩もあって徐々にナルコレプシーの原因が解明されつつあります。
そこで、この記事ではナルコレプシーの原因について、大人・子どもに分けて解説します。ぜひ原因を把握して、ナルコレプシーに対する疑問を解消しましょう。
ナルコレプシーの原因とは?子ども・大人別に解説
ナルコレプシーは、およそ350年前にイギリス人の医師であるThomas Willisによって最初の報告がなされ、1880年にフランス人の医師であるGélineauによって名付けられました。
しかし、現代に至るまでその原因は謎とされ、いまでもはっきりとした原因は解明されていないのが現状です。一方で、1998年には視床下部から分泌される神経ペプチド「オレ キシン」が発見され、その研究が飛躍的に進むこととなりました。
ここでは、ナルコレプシーの原因について、子どもと大人に分けて詳しく解説します。
子どもの場合
ナルコレプシーは小児で発症しやすい病気であり、特に15歳前後では注意が必要です。この年代は、受験勉強やインターネットサーフィン、スマホいじりなどで夜更かしが増える時期であり、日中に居眠りする子供も少なくありません。
そのため、一見するとただ怠けているだけと評価されてしまう可能性もありますが、実はナルコレプシーを発症している可能性もあります。また、小児は成人と比較して重症化する傾向にあるようであり、注意が必要です。
子どもにおけるナルコレプシーの原因として主に下記の3つが挙げられます。
オレキシンの欠乏
子どものナルコレプシーの発症には成人と同様にオレキシンの欠乏が大きく関わっていることが報告されています。
例えば、Tsukamotoらによれば、8歳で発症したナルコレプシー 患者の髄液中オレキシン濃度は40pg/ml以下と測定限界以下であることが報告されています。
Hujiiらの6歳で発症したナルコレプシー 患者の髄液中オレキシン濃度も測定限界以下であり、オレキシンが関与している可能性が非常に高いです。
自己免疫
子どものナルコレプシーの発症には、自己免疫が強く関わっている可能性が示唆されています。自己免疫とは、本来体内に侵入した病原菌などの異物を攻撃するはずの免疫細胞が、誤って自身の正常な細胞を異物と認識してしまい攻撃してしまう状態です。
2009年に中国で新型インフルエンザが蔓延した後や、欧州でこの新型インフルエンザウイルスの断片を含む「Pandemrix」というワクチンを接種した後、ナルコレプシーを発症する子供が急増しました。
この奇怪な現象に対して、1つの答えとして自己免疫の関与が疑われており、自己免疫によってオレキシンに関わる脳細胞が破壊されていると考えられています。子どもは成人よりも感染症を引き起こしやすいため、より注意が必要です。
遺伝的要因
子どものナルコレプシーの発症には、遺伝的要因の関与が示唆されています。一卵性双生児の間で二人ともナルコレプシーになる割合は25~32%、第一度親族におけるナルコレプシーの有病率は1~2%とされ、少なからず遺伝的要因が関与していると考えられます。
一方で、ヒトのナルコレプシー患者の大半は孤発例であり、遺伝性は約5%に過ぎないとも報告されており、非常に限定的な要因である可能性が高いです。
実際に、家族歴のあるナルコレプシー患者77例を対象に、原因となる遺伝子を検索した研究では、異常遺伝子が見出されたのはたったの1例のみでした。
また、この1例にはプレプロオレキシン遺伝子をコードする部分に変異が 認められましたが、この患者は生後6ヶ月でカタプレキシーを認め、特殊と言わざるを得ない症例でした。
今後、遺伝子解析の技術向上に伴って新たな原因遺伝子を認める可能性もありますが、現時点では遺伝的要因は非常に限定的であると言わざるを得ないのが現状です。
大人の場合
ナルコレプシーは通常、思春期にあたる15歳前後の時期に発症することが多い病気ですが、大人でも発症することがあります。
大人で発症すると日中の仕事中に激しい眠気に襲われ仕事が手につかなくなったり、運転中に居眠りしてしまい不幸な事故を招く可能性もあるため、注意が必要です。
大人におけるナルコレプシーの原因として主に下記の3つが挙げられます。
オレキシンの欠乏
大人のナルコレプシーの発症にはオレキシンの欠乏が大きく関わっていることが報告されています。オレキシンとは1998年に発見された神経ペプチドの1種で、発見当初は食欲に関与していると考えられていました。
しかし、その後の研究でオレキシンは食欲以外にもさまざまな神経機能の制御に関与している可能性が示唆され、オレキシンの機能に関する研究が進みます。
1999年にはイヌのナルコレプシーの原因遺伝子がOX2R(オレキシンの受容体のうちのひとつ)をコードする遺伝子であること、さらにはオレキシンの前駆体であるプレプロオレキシンをノックアウトしたマウスでナルコレプシーに類似した症状を呈することが同時に報告されました。
ナルコレプシーとオレキシンの関与が徐々に明らかとなり、その後の研究ではヒトの髄液中のオレキシン濃度の低下がナルコレプシー患者で確認され、またヒトのナルコレプシーの死後脳において、オレキシン含有細胞の減少が報告されました。
以上の研究結果から、ヒトのナルコレプシーにおいては、オレキシン含有細胞の後天的な脱落が病態に関連していると考えられています。ただし、なぜオレキシン含有細胞の後天的な脱落が生じるか、に関してはいまだに解明されていません。
夜勤などの多様な働き方
大人のナルコレプシーの発症には夜勤などの多様な働き方による睡眠リズムの乱れが関与していると考えられます。現代社会では働き方が多様になった反面で、夜勤などの影響で睡眠リズムが崩れてしまう方もいます。
ナルコレプシーの主な症状は「睡眠時間に関わらず生じる日中の眠気」ですが、睡眠リズムが乱れていると症状が悪化する可能性があるため、極力、睡眠リズムを整えることが重要です。
夜は十分な睡眠時間を確保し、毎日同じ時間に起床し、日中は30分未満の短い仮眠をとると良いでしょう。仕事だけでなく、ネットサーフィンなどで生活リズムを崩してしまう現代人も多いため、規則正しい生活習慣を意識することが重要です。
精神的・身体的ストレス
大人のナルコレプシーの発症には精神的・身体的ストレスが関与していると考えられます。完全に解明されているわけではありませんが、なんらかのストレスを契機にナルコレプシーを発症する可能性が示唆されています。
具体的には、なんらかの頭部外傷や感染などの身体的ストレス、もしくは、転職や離婚など、仕事や家庭における精神的ストレスでも発症する可能性があり、注意が必要です。
また、ストレスなどの感情の高ぶりを契機に、全身の筋肉の力が発作的に抜ける情動脱力発作(カタプレキシー)という症状もナルコレプシーの特徴であり、状況によっては大きな危険を伴うため、発症の予防・症状の改善のためにもストレスはうまく発散することが重要です。
もしかしたら起立性調節障害かも
睡眠時間に関わらず、日中に起きれないときは、もしかしたら起立性調節障害かもしれません。
起立性調節障害とは特に小学生高学年から中学生で発症しやすい身体疾患であり、身体の急激な成長に自律神経の発達が追いつかないことでさまざまな症状をきたす疾患です。
特に、午前中は本来活性化すべき交感神経がうまく活性化しなくなるため、症状が午前中に強く出やすい特徴があります。めまいやふらつき・腹痛・体動困難などの症状が強く、朝起きてこれなくなることもあります。
基本的には自然経過で改善することが多いですが、中には重症化してしまうケースもあるため、早期発見・早期治療が肝要です。
子どもの場合、午前中に倦怠感が強く授業中寝てしまったり、起きていても授業が身に入らずに学業が遅れてしまう可能性があります。まずは下記の記事からセルフチェックを行いましょう。
関連記事:起立性調節障害のセルフチェックリスト(子ども)|すぐにできる診断テスト
また、起立性調節障害は大人でも発症しうる病気です。大人で発症すると仕事や家庭での生活にも支障をきたすため、やはり重症化する前に早期発見・早期治療することが肝要です。まずは下記の記事からセルフチェックを行いましょう。