思春期は、心身の変化に加えて、学校生活や人間関係など生活環境も大きく変わる時期です。この時期には、腹痛と便通異常を繰り返す「過敏性腸症候群(IBS)」や、朝起きられない、立ちくらみ、倦怠感などがみられる「起立性調節障害(OD)」を発症することがあります。
IBSとODは異なる病気ですが、腹痛や吐き気など共通する症状があり、同時に関係している可能性もあります。また、心理社会的な負担が、それぞれの症状に影響することもあります。
症状を「ストレスのせい」「気持ちの問題」と決めつけず、腹痛の起こり方や便通、朝の体調、立ちくらみなどを整理することが大切です。
本記事では、思春期にみられる過敏性腸症候群と、起立性調節障害との違いや関係、受診の目安についてわかりやすく解説します。
子どもに腹痛が続き、朝起きられない症状や立ちくらみ、倦怠感なども伴う場合は、起立性調節障害が関係していることがあります。
気になる症状を整理したい方は、起立性調節障害のセルフチェックも参考にしてください。
思春期に過敏性腸症候群(IBS)が増えやすい理由
まずは、思春期に過敏性腸症候群が増えやすい理由や症状について解説します。
思春期はホルモン変化によって自律神経が乱れやすい
思春期は、身長や体つきの変化だけでなく、体内では大きなホルモン変化が起こる時期です。第二次性徴に伴い、女性ホルモンや男性ホルモンの分泌が増えることで、自律神経のバランスが不安定になりやすくなります。
自律神経は、心拍や血圧、体温だけでなく、腸の動きもコントロールしているため、その乱れは腹痛や下痢、便秘などの症状につながります。
特に腸は「第二の脳」と呼ばれるほどストレスや自律神経の影響を受けやすい臓器です。そのため、学校生活や人間関係による精神的ストレスだけでなく、成長期そのものの身体的変化もIBS発症の背景になります。
また、朝は自律神経が切り替わる時間帯であるため、登校前に腹痛や便意が強く出やすいことも特徴の一つです。
「学校前の腹痛」は思春期IBSでよくみられる症状
思春期の過敏性腸症候群では、「学校へ行こうとするとお腹が痛くなる」という症状がよくみられます。朝起きた直後は問題なくても、登校時間が近づくにつれて腹痛や下痢が出現し、トイレから離れられなくなることがあります。
これは、学校生活への緊張や不安によって自律神経が刺激され、腸が過敏に反応するためです。特に、授業中にトイレへ行けない不安や、通学中に症状が出る恐怖感が症状を悪化させることもあります。
一方で、休日や長期休暇中には症状が軽くなるケースも多く、「学校が原因では」と考えられがちです。しかし、実際には単なる気持ちの問題ではなく、自律神経や腸の働きの変化が関係しています。本人も「怠けているわけではないのに理解されない」と悩みやすく、周囲の理解が重要です。
腹痛だけでなく頭痛やめまいを伴うケースもある
思春期のIBSでは、腹痛や下痢だけでなく、頭痛やめまい、吐き気、強い倦怠感などを伴うことがあります。これは、腸だけの問題ではなく、自律神経全体のバランスが乱れているためです。
特に、朝起きづらい、立ちくらみが多い、長時間立っていると気分が悪くなるといった症状がみられる場合は、起立性調節障害(OD)が関係していることもあります。
IBSとODはどちらも思春期に増えやすく、自律神経の不安定さという共通点があります。そのため、「お腹の症状」と「全身症状」が同時に現れるケースは少なくありません。症状が複数重なることで学校生活に支障をきたしやすく、周囲からは“体調不良が多い子”と誤解されることもあります。体だけでなく生活背景も含めて総合的に考えることが大切です。
思春期の腹痛には起立性調節障害(OD)が隠れていることもある
ここでは、思春期に多い「起立性調節障害(OD)」について解説します。
思春期に多い「起立性調節障害(OD)」とは?
ODは、思春期に多くみられる自律神経の病気です。成長期の体の変化に対して自律神経の働きが追いつかず、立ち上がった時の血圧や心拍の調整がうまくできなくなることで、さまざまな症状が現れます。特に中学生から高校生に多く、朝に症状が強く出やすいことが特徴です。
また、ODは単に「立ちくらみ」の病気ではなく、胃腸の働きにも影響するため、腹痛や吐き気、食欲不振など消化器症状が前面に出ることもあります。
ODの主な症状は以下の通りです。
腹痛に加えて、起床困難や立ちくらみなどが続く場合は、起立性調節障害も考慮して医療機関へ相談しましょう。
起立性調節障害の主な症状については、下記の記事も参考にしてみてください。
朝の腹痛に起立性調節障害が関係することもある
起立性調節障害では、朝の起床困難や立ちくらみなどに加えて、腹痛や吐き気、食欲低下がみられることがあります。起床後から午前中に症状が強く、午後になると軽くなる傾向もあります。
ただし、朝や学校へ行く前の腹痛・下痢が、すべて起立性調節障害によるものとは限りません。IBSや感染性胃腸炎、炎症性腸疾患、食物不耐症など、ほかの原因も考えられます。
IBSでは腹痛と排便の関係や便の変化が、起立性調節障害では起床困難、立ちくらみ、起立時の症状などが判断の手がかりになります。
起立性調節障害で腹痛が起こる場合の特徴や対処法について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
IBSと思っていたらODが関係していたケースもある
腹痛や下痢が続くため「IBS」と診断され治療を受けていたものの、なかなか改善せず、後からODが関係していることが分かるケースもあります。特に、「朝起きられない」「立ちくらみが多い」「頭痛が続く」「午前中に動けない」といった症状が後から明らかになることは珍しくありません。
実際には、IBSとODが別々に存在するのではなく、自律神経の乱れを背景に両方を併発しているケースもあります。その場合、腸の治療だけでは十分な改善が得られず、生活リズムや睡眠、血流、自律神経への対応も必要になります。
また、周囲から「学校が嫌なのでは」と誤解されることで、本人がさらに追い詰められてしまうこともあります。思春期の腹痛を考える際には、「腸だけの問題」と決めつけず、自律神経全体の状態を含めて評価することが重要です。
思春期の腹痛で起立性調節障害(OD)が疑われるサイン
ここでは、思春期の腹痛で起立性調節障害(OD)が疑われるサインについて解説します。
「腹痛+朝起きられない」症状が続く場合
思春期の腹痛で注意したいのが、「朝起きられない」という症状を伴っているケースです。ODでは、自律神経の働きが不安定になることで、朝に血圧や血流の調整がうまくできず、強いだるさや起床困難が起こります。さらに、胃腸の働きも影響を受けるため、腹痛や吐き気、下痢が同時に現れることがあります。
特徴的なのは、午前中に症状が強く、午後になると少しずつ改善していく点です。そのため、夕方以降は比較的元気に見えることもあり、「夜は普通なのに、なぜ朝だけ?」と周囲から誤解されやすい病気でもあります。
本人も「怠けていると思われる」「説明しても理解されない」と悩みやすく、精神的負担を抱えてしまうことがあります。腹痛だけでなく、生活リズムや一日の症状の変化にも注目することが大切です。
腹痛に加えて頭痛やめまいがある場合
腹痛に加えて、頭痛やめまい、立ちくらみ、動悸、吐き気などがある場合は、腹部だけでなく全身の状態を確認することが大切です。
起立性調節障害では、朝の体調不良や、立ったとき・長時間立っているときに症状が強くなる傾向があります。ただし、頭痛やめまいは貧血や片頭痛、脱水などでも起こります。
症状の種類が多いことだけで起立性調節障害とは判断できません。いつ、どのような姿勢で症状が出るのか、横になると軽くなるのかなどを記録しておくと、受診時の参考になります。
過敏性腸症候群(IBS)の治療で改善しない場合
IBSと診断されて治療を受けても症状が改善しない場合は、薬を自己判断で増減せず、医療機関で症状や診断を見直してもらいましょう。
朝起きられない、立ちくらみ、頭痛、午前中の強い倦怠感などがあれば、起立性調節障害が関係している可能性もあります。一方で、血便、体重減少、発熱、夜中に目が覚めるほどの腹痛や下痢などがある場合は、炎症性腸疾患など別の消化器疾患も考える必要があります。
まずは小児科や小児消化器科などへ相談し、腹部症状と全身症状をまとめて伝えましょう。必要に応じて新起立試験や血液検査、便検査などが検討されます。
思春期のIBSやODによる腹痛を改善するための対処法
思春期の過敏性腸症候群(IBS)や起立性調節障害(OD)では、薬による治療だけでなく、生活習慣を整えることも重要です。
ただし、「生活を改善すればすぐ治る」という単純なものではなく、症状によっては医療機関での診察や継続的なサポートが必要になります。ここでは、受診を前提としながら、自宅でできるセルフケアや、家族・学校ができる支援について紹介します。
生活リズムを整える
IBSやODでは、自律神経のバランスを整えるために規則正しい生活が大切です。特に重要なのが、「毎朝できるだけ同じ時間に起きる」ことです。休日に昼近くまで寝てしまうと体内時計が乱れ、月曜日の朝に強い不調が出やすくなります。
また、起床後に朝日を浴びることで脳の体内時計がリセットされ、自律神経が整いやすくなります。反対に、夜更かしやスマートフォンの長時間使用は睡眠の質を低下させ、朝の腹痛や倦怠感を悪化させる原因になります。
思春期は生活リズムが崩れやすい時期ですが、無理のない範囲で少しずつ整えていく姿勢が大切です。
食事や水分の摂り方を見直す
腹痛や吐き気があると食事をとりにくくなるため、無理に通常量を食べさせる必要はありません。食べられる場合は、本人が負担に感じにくいものを少量ずつ取り入れましょう。
IBSでは、脂っこい食事やカフェインなど、特定の食品によって症状が強くなる人もいます。ただし、影響する食品には個人差があります。過度な食事制限は避け、食事と症状を記録しながら医師や管理栄養士へ相談しましょう。
起立性調節障害と診断された場合は、非薬物療法の一つとして水分や塩分の摂取を勧められることがあります。必要量は体格や健康状態によって異なるため、医師の指示に従ってください。
周囲の理解とサポートを得る
IBSやODは、外見では分かりにくいため、「怠けている」「気持ちの問題では」と誤解されやすい病気です。特に、朝だけ症状が強く、午後には比較的元気になる場合、「本当に病気なの?」と思われてしまうこともあります。
しかし本人は、腹痛や頭痛、めまい、強い倦怠感などで大きな負担を抱えています。そのため、保護者や学校が病気への理解を深め、必要に応じて情報共有することが重要です。無理に登校を迫ったり、「頑張れば行ける」とプレッシャーをかけたりすることで、症状や不安がさらに悪化してしまうケースもあります。
まずは本人のつらさを理解し、「どうすれば少し楽に過ごせるか」を一緒に考える姿勢が大切です。安心できる環境が、自律神経の安定につながることも少なくありません。
起立性調節障害と不登校の関係や、家庭・学校での対応について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
思春期の腹痛が続く場合は起立性調節障害(OD)にも注意
思春期の子どもに、腹痛と便通の変化が繰り返しみられる場合は、過敏性腸症候群が関係している可能性があります。IBSには脳腸相関や消化管運動、腸の知覚過敏、心理社会的な負担など、さまざまな要因が関与すると考えられています。
一方、腹痛に加えて、朝起きられない、立ちくらみ、頭痛、強い倦怠感などがあり、午前中に症状が強い場合は、起立性調節障害も考慮する必要があります。
ただし、IBSと起立性調節障害は症状だけで見分けることが難しく、両方が関係している可能性もあります。また、血便、体重減少、成長の遅れ、発熱、繰り返す嘔吐、夜間にも続く腹痛や下痢などがある場合は、ほかの消化器疾患も考えられます。
思春期の腹痛を「ストレスのせい」「学校へ行きたくないだけ」と決めつけず、症状が続く場合や学校生活に支障が出ている場合は、まず小児科へ相談しましょう。必要に応じて小児消化器科などで詳しい検査を行います。
下記の記事では、起立性調節障害のセルフチェックについて解説しておりますので、是非ご一読ください。








