- 夜になかなか眠れず、朝も起きれない
- 明日早起きしないといけないと思うと焦って目が冴える
誰しも一度はこのような経験をしたことがあるのではないでしょうか?
夜寝れない、もしくは朝起きれない場合、まずは自身の生活習慣や就寝環境を見直しましょう。
生活習慣が不適切であったり、就寝環境が劣悪であることから質の高い睡眠が得られていないことが多い一方で、これらが原因であればセルフケアも可能です。
中にはセルフケアでは改善することのできない病気が隠れていることもあり、放置すれば命に関わる危険性もあるため、早期発見・早期治療が肝要です。
本記事では、医師である筆者の経験を基に、夜寝れない、もしくは朝起きれない方に向けて、原因や対策について詳しく解説します。
夜寝れない・朝起きれない原因
個人差もありますが、夜寝れない・朝起きれない方の多くは身体の不調などではなく、良質な睡眠を得るための準備不足・知識不足が原因です。
ちょっとしたことが原因で容易に睡眠の質は下がる可能性があり、具体的に下記のような原因に注意しましょう。
- ストレス
- 不適切な就寝環境
- 不適切な生活習慣
それぞれ解説します。
ストレス
夜寝れない・朝起きれない場合、ストレスが蓄積している可能性があります。
ストレスが溜まっていると持続的に交感神経が刺激され、睡眠に必要な副交感神経の活性化が起こりにくくなるためです。
ストレスと聞くと、上司や恋人への不満、仕事上の不安など、精神的ストレスをイメージしがちですが、それだけではありません。
持病の腰痛・皮膚の掻痒感・過度な空腹や満腹など、身体的ストレスも睡眠の質を低下させる原因です。
また、加納らの報告によれば、睡眠によってストレスホルモンの分泌量が減少することが知られており、ストレスによって睡眠の質や量が低下すると、よりストレスが溜まりやすい悪循環に陥ることが知られています。
夜寝れない・朝起きれない方は、精神・身体的ストレスの両方をしっかり発散することが肝要です。
不適切な就寝環境
夜寝れない・朝起きれない場合、就寝環境が適切ではない可能性があります。
睡眠の質は就寝環境に大きく左右されるため、睡眠の妨げになるような環境下ではなかなか寝付けず、朝もスッキリ起きられなくなるでしょう。
具体的に、下記のような就寝環境で寝ている方は注意が必要です。
- 寝室が過度に高温多湿、もしくは寒冷乾燥
- 電車や工事などの騒音が聞こえる
- 遮光不十分で寝室が明るい
- 枕の高さが合っていない
- マットレスの固さが合っていない
これらの要因は入眠を妨げ、仮に眠れたとしても睡眠中の脳に音や光の刺激が加わり続けるため、睡眠の質が低下してしまいます。
一方で、これらの要因は容易に改善可能であるため、一度自身の就寝環境を見直してみると良いでしょう。
不適切な生活習慣
夜寝れない・朝起きれない場合、生活習慣が適切ではない可能性があります。
睡眠の質や量には、日頃の何気無い生活習慣が大きく影響するためです。
具体的に、下記のような生活習慣を送っている方は注意が必要です。
- 入眠前の飲酒・喫煙
- 暴飲暴食
- 就寝2時間前以降の入浴・運動
- カフェイン飲料の摂取
- スマホ・PCいじり
入眠前の飲酒や喫煙によって気道が浮腫み、睡眠中に取り込める酸素の量が低下することで睡眠の質が低下するため、朝にスッキリ目覚められなくなります。
また、アルコール自体には鎮静作用・入眠作用があり一時的には眠くなりますが、アルコールの代謝産物「アセトアルデヒド」には覚醒作用があるため、中途覚醒の原因となります。
さらに、アルコールの利尿作用によって夜間頻尿となり、中途覚醒が増えることも睡眠の質・量の低下の原因です。
また、運動不足や暴飲暴食に伴う肥満は首周りの脂肪増加につながり、気道が狭くなってしまうため、やはり睡眠の質が低下してしまいます。
適度な入浴や運動は睡眠にとって良い影響を与えますが、就寝の2時間前以降に行うと深部体温の上昇を招き、就寝後もうまく体温を発散できなくなります。
深部体温が低下することで睡眠の質が増加することが知られているため、就寝の2時間前以降には激しい運動や熱い湯船への入浴は避けましょう。
コーヒーやお茶、エナジードリンクに含まれるカフェインには精神興奮作用が認められているため、夕食摂取後に摂取すると寝つきが悪くなってしまいます。
どうしても摂取したい場合はカフェインレスの飲料を摂取するよう心がけましょう。
最後に、就寝前のスマホやPCのライトを浴びると、網膜から脳に刺激が入り、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が抑制されてしまいます。
メラトニンは光刺激がなくなることで、セロトニンと呼ばれるホルモンを原料に生成されるため、深夜までスマホやPCをいじっているとメラトニンが分泌されず、なかなか眠くなりません。
睡眠にとって良くないと自覚しないまま、上記のような生活習慣を繰り返してしまう人も少なくないため、不眠にお悩みの方は一度自身の生活習慣を見直してみると良いでしょう。
夜寝れない・朝起きれない時に考えられる病気
夜寝れない・朝起きれない場合、前述したようにセルフケアで改善可能な原因もあれば、セルフケアでは改善困難な病気が背景に隠れていることもあります。
中には、放置すると命の危険性を伴う病気もあるため、早期から診断・治療を行うことが重要です。
夜寝れない・朝起きれない時に考えられる病気としては、下記のような疾患が挙げられます。
- 睡眠時無呼吸症候群
- うつ病
- 脳卒中
睡眠時無呼吸症候群
夜寝れない・朝起きれない場合、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群とはその名の通り、睡眠中に呼吸が弱まる・止まることで取り込める酸素量が低下し、睡眠の質が低下する病気です。
睡眠時無呼吸症候群の原因として下記のような病態が挙げられます。
- 肥満
- 小顎
- 巨舌
- アデノイド・扁桃肥大
これらの病態は気道を狭小化させ、それに加えて睡眠中は舌の筋肉が弛緩することで舌根が沈下するため、特に仰向けで寝ていると気道が押しつぶされやすくなり、睡眠時無呼吸症候群に至ります。
睡眠時無呼吸症候群による持続的な低酸素状態は身体にストレスを与え、持続的な交感神経の活性化を招くことで、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症率を増加させることが知られており、注意が必要です。
さらに、長期的に放置すると心筋梗塞や心房細動などの不整脈、脳血管障害の発症率を増加させることも知られており、命の危険性もあるため、早期診断・早期治療が肝要です。
うつ病
夜寝れない・朝起きれない場合、うつ病の可能性があります。
うつ病の病態は、脳内における神経伝達物質「セロトニン」や「ノルアドレナリン」の分泌低下と考えられており、精神の安定性ややる気が失われていく病気です。
主な症状は下記の通りです。
- 抑うつ気分
- 興味・意欲の減退
- 食欲低下・亢進
- 不眠・過眠
- 易怒性
- 疲労感
- 集中力や判断力の低下
- 希死念慮
うつ病の約80%の方で不眠症状を認め、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒などさまざまなパターンの不眠症状を認めます。
進行すると希死念慮、自殺企図などによって命の危険性もあるため、上記症状に当てはまる方は早期に専門的な医療機関を受診しましょう。
脳卒中
夜寝れない・朝起きれない場合、脳卒中の可能性があります。
脳卒中とは脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの総称であり、脳血管の破綻に伴い脳への血流が途絶することでさまざまな神経症状をきたします。
脳卒中によって、脳内部の睡眠を司る部位である視床下部が障害されると、正常な睡眠リズムが失われて夜寝れない・朝起きれなくなるため、注意が必要です。
さらに、脳卒中によって舌の運動を支配する神経が損傷されると、舌根沈下が起こって睡眠時無呼吸症候群を併発する可能性もあります。
前述したように、睡眠時無呼吸症候群を併発すれば持続的な交感神経の活性化に伴い脳卒中の発症リスクも増加し、悪循環に陥ってしまうため注意が必要です。
脳卒中は非常に緊急性の高い疾患であるため、不眠以外にも神経症状を認める場合は早急に医療機関を受診しましょう。
夜寝れない・朝起きれない時の対策
病気が背景に隠れている場合はセルフケアは困難ですが、多くの場合は生活の中のちょっとした変化でセルフケアが可能です。
そこで、夜寝れない・朝起きれない時の対策を3つ紹介します。
- 生活習慣を見直す
- 運動習慣を身につける
- ダイエットする
生活習慣を見直す
夜寝れない・朝起きれない時は生活習慣を見直しましょう。
前述したように、入眠前の過度な飲酒や喫煙、入浴、激しい運動、カフェイン摂取などは不眠症の原因となるため、控えるべきです。
また、夜寝るのが遅くなったからといって朝に遅く起きてしまうと、日中に太陽光を浴びる時間が減少し、乱れた体内時計がリセットされなくなります。
さらに、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料である「セロトニン」は、日中に太陽光を浴びることで体内で産生されるため、可能な限り太陽光を浴びる時間を作るようにしましょう。
運動習慣を身につける
夜寝れない・朝起きれない時は運動習慣を身に付けましょう。
就寝直前の激しい運動は睡眠にとって有害ですが、日中の程よい負荷の運動は睡眠の質を向上させることが知られています。
厚生労働省によれば、より良い睡眠を得るためには下記のような運動が必要です。
- 1回ではなく習慣的な運動
- 無酸素運動よりも有酸素運動
- 時間帯は夕方から就寝の3時間前まで
夕方から就寝の3時間前までに運動を行うことで深部体温が一過性に上昇し、かつ睡眠とともに深部体温が下がりやすくなるため、睡眠の質が向上することが知られています。
普段あまり運動習慣のない方は、これを機に始めてみるとよいでしょう。
ダイエットする
肥満の方は、ダイエットすることで不眠症状を改善できる可能性があります。
肥満は睡眠時無呼吸症候群最大のリスクであり、首周りの脂肪によって気道が狭くなり、睡眠の質を低下させることが知られています。
また腹部の脂肪によって寝苦しさも増加するため、積極的にダイエットすることを勧めます。
ダイエットの基準としては、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出されるBMIを参考に、BMI25未満を目指しましょう。
過度なダイエットは自律神経の乱れを招き、かえって睡眠に良くない影響を与えるため、BMI18未満の方はダイエットは控えましょう。
夜寝れない・朝起きれない時は何科を受診すべき?
夜寝れない・朝起きれない時に受診すべき診療科はその原因によっても異なります。
例えばうつ病なら精神科、脳卒中なら神経内科、睡眠時無呼吸症候群なら耳鼻咽頭科や呼吸器内科が適切な診療科となります。
ただし、症状が出現した段階で自身で原因を判断することは困難であるため、大人であればまずは一般内科を、子供であれば小児科を受診しましょう。
診察や検査など、幅広い角度から病態を把握し、適切な診断を行った上で、そのまま内科で対応可能なら治療を、専門性の高い診療科への振り分けが必要なら紹介を行ってくれます。
また、子供の場合は小児科と内科どちらに受診すべきか迷われる方も多いかと思いますが、一般的に小児科は中学3年生までを上限として診察する医療機関がほとんどです。
子供が不眠症に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
もしかしたら起立性調節障害かも
夜寝れない・朝起きれない時は、もしかしたら起立性調節障害かもしれません。
起立性調節障害は特に小児期における身体の急激な発達に対し、自律神経の成長が追いつかないことで自律神経のバランスが乱れる身体疾患です。
自律神経が乱れることで血圧や脈拍の調節機能がうまく機能せず、起立時に脳血流が低下することでめまい・ふらつき・嘔気嘔吐などの症状が出現します。
また、症状は午前中に強く夕方・夜間になると悪化するという特徴があるため、朝はなかなか起きられず、夜には逆に元気が出てしまい寝れなくなります。
他の病気と異なり、症状に日内変動がある点は起立性調節障害の大きな特徴であるため、日内変動を伴う場合は起立性調節障害を疑いましょう。
起立性調節障害は自然軽快することが多い病気ですが、対応が遅れると重篤化するため、早期発見・早期治療が重要です。下記の記事では、子供の起立性調節障害におけるセルフチェック法が詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
>>起立性調節障害のセルフチェックリスト(子ども)|すぐにできる診断テスト
また、起立性調節障害は子供だけではなく大人でも発症することがあり、大人で重篤化すれば仕事を継続できなくなる可能性もあります。気になる方は、まずは下部の記事からセルフチェックを行いましょう。