起立性調節障害では、朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感などの症状がみられます。こうした症状を少しでも和らげたいと考え、「鍼灸は効果があるの?」と気になる方もいるのではないでしょうか。
鍼灸は、自律神経の働きなどに影響を与える可能性が研究されていますが、現時点では起立性調節障害に対する効果を裏付ける十分な医学的根拠が確立しているとはいえません。
そのため、標準的な治療の代わりではなく、補助的な選択肢として考えることが大切です。この記事では、起立性調節障害に対する鍼灸の考え方や期待される効果、受ける際の注意点についてわかりやすく解説します。
起立性調節障害に鍼灸は効果がある?
起立性調節障害に対して鍼灸を行い、症状が改善した症例は報告されています。しかし、現時点では鍼灸の有効性が十分に確立されているとはいえません。
そのため、まず医療機関で適切な診断を受け、生活指導や必要に応じた薬物療法などを行うことが基本です。鍼灸を希望する場合は、標準的な治療に代わるものではなく、つらい症状を和らげるための補助的な選択肢として考えましょう。
改善した症例が報告されているものの効果には個人差がある
起立性調節障害に対する鍼灸については、症状の改善がみられた症例が報告されています。14歳の男子中学生に1~2週間に1回、計16回の鍼灸治療を行った報告では、治療経過とともに起床困難や腹痛が減少し、遅刻・欠席もみられなくなりました。
参照:「起立性調節障害に対する鍼灸治療の1 症例|日本東洋医学系物理療法学会誌」
ただし、これは患者1人を対象とした症例報告であり、多数の患者を対象に鍼灸の有効性を検証した臨床試験ではありません。また、この患者はミドドリンなどの薬物療法も受けていたため、改善が鍼灸だけによるものとは断定できません。
鍼灸によって症状が改善する可能性はありますが、どのような患者に、どの程度効果が期待できるのかについては、まだ十分な研究が必要です。鍼灸を受ければ誰でも改善すると考えず、効果には個人差があることを理解しておきましょう。
頭痛や睡眠などの悩みが和らぐ可能性がある
鍼灸は、起立性調節障害に伴う頭痛や首・肩の緊張、睡眠の悩み、腹痛、倦怠感など、個々のつらい症状を和らげる目的で行われることがあります。
鍼刺激が自律神経機能や循環、痛みなどに与える影響についてはさまざまな研究が行われています。また、不眠症状に対する鍼灸の研究などもあります。しかし、それらの研究結果をそのまま「起立性調節障害に鍼灸が効く」という根拠にすることはできません。
そのため、「鍼灸によって自律神経が正常に戻る」「脳への血流が確実に改善する」と言い切ることは避ける必要があります。現時点では、起立性調節障害そのものを治す治療というよりも、頭痛や睡眠など患者さんが困っている症状を軽減するための補助的な施術の一つとして考えるのがよいでしょう。
鍼灸は病院での資料を補う選択肢として考える
起立性調節障害の治療では、本人や家族が病気について理解したうえで、生活習慣の調整などの非薬物療法、学校との連携、必要に応じた薬物療法などを組み合わせることが基本です。鍼灸は医療機関での診断や治療に代わるものではなく、頭痛や睡眠の悩み、倦怠感などを和らげるための補助的な選択肢として考えましょう。
鍼灸を始めても、自己判断で処方薬を減らしたり中止したり、病院への通院をやめたりしないことが大切です。特に子どもの起立性調節障害では、学校生活や睡眠、心理社会的な要因も含めた対応が必要になることがあります。
鍼灸を希望する場合は主治医にも相談し、現在受けている治療と無理なく組み合わせていきましょう。
起立性調節障害で鍼灸を受ける前に知っておきたいこと
起立性調節障害の症状を少しでも楽にするため、鍼灸を検討する方もいるでしょう。ただし、最初から鍼灸だけに頼るのではなく、まず医療機関で適切な診断を受けることが大切です。
そのうえで施術方法や通院頻度、薬との併用について確認し、標準的な治療を続けながら補助的に取り入れることを検討しましょう。
まずは医療機関で起立性調節障害の診断を受ける
朝起きられない、めまい、頭痛、動悸、倦怠感などは起立性調節障害でよくみられる症状ですが、起立性調節障害だけに現れるものではありません。貧血や心疾患、甲状腺疾患、睡眠障害など、ほかの病気が隠れている可能性もあります。
そのため、「この症状なら起立性調節障害だろう」と自己判断して鍼灸を始めるのではなく、まずは小児科などの医療機関を受診しましょう。問診や診察に加えて、横になった状態から立ち上がったときの血圧や心拍数などを調べる「新起立試験」を行い、必要に応じて血液検査や心電図などでほかの病気がないか確認します。
特に、失神を繰り返す、胸の痛みや強い息苦しさがある、突然の激しい頭痛などがみられる場合は、鍼灸院への相談よりも医療機関の受診を優先してください。
医療機関で行われる新起立試験の具体的なやり方や検査の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
鍼・お灸・刺さない小児鍼などの施術方法がある
鍼灸は、身体の特定の部位(ツボなど)に鍼やお灸で刺激を加える施術です。東洋医学ではツボを利用して身体の状態を整えるという考え方があります。一方、現代医学の視点からも、鍼刺激が神経系や痛みなどに与える影響について研究が行われています。
鍼灸院では、症状や身体の状態に応じて、手足や頭部、背中、腹部などに鍼やお灸を行うことがあります。ただし、使用するツボや施術部位、刺激の強さなどは施設や施術者によって異なります。
また、鍼を怖がる子どもには、皮膚に鍼を刺さず、皮膚をさすったり軽く刺激したりする「小児鍼(しょうにしん)」などが用いられることもあります。本人が嫌がっている場合は無理に受けさせず、どのような施術を行うのか事前に鍼灸師へ確認しておくとよいでしょう。
起立性調節障害の症状に対して用いられるツボについては、以下の記事で詳しく解説しています。
症状に合わせて通院回数や期間を検討する
「鍼灸は何回受ければ起立性調節障害が改善するの?」と疑問に思う方もいるでしょう。しかし現時点では、何回受ければ効果が得られるという医学的に確立された回数や通院期間はありません。
そのため、症状の程度や本人の体力、通院による疲労、学校生活への影響、費用などを考慮し、無理なく通える頻度を鍼灸師と相談しましょう。体調が悪い日に無理をして通院しないことも大切です。
また、施術前後の頭痛やめまい、起床時刻、睡眠時間、遅刻・欠席などを記録すると、症状の変化を客観的に確認しやすくなります。「なんとなく効いている」という感覚だけで長期間続けるのではなく、一定期間ごとに効果や通院の負担を振り返り、継続するかどうかを検討しましょう。
薬との併用や通院について主治医にも相談する
すでに医療機関で起立性調節障害の治療を受けている場合、鍼灸を始める前に、主治医へ相談しておくと安心です。どのような症状を目的に鍼灸を受けたいのか、どのくらいの頻度で通う予定なのか、どのような施術を受けるのかを共有しておくとよいでしょう。
鍼灸師にも、起立性調節障害と診断されていることに加えて、現在服用している薬、失神したことがあるか、ほかの持病があるか、出血しやすい体質や治療薬の使用がないかなどを事前に伝えることが大切です。
また、鍼灸を始めて症状が改善したとしても、自己判断で処方薬を減量したり、中止したりしてはいけません。薬の効果と鍼灸による変化を正確に判断するためにも、薬の調整は必ず処方している主治医と相談して行いましょう。鍼灸は病院での治療と対立するものではなく、必要に応じて既存の治療を補う方法として取り入れることが重要です。
起立性調節障害で使用される薬の種類や効果については、以下の記事で詳しく解説しています。
起立性調節障害に対応する鍼灸院の選び方と注意点
起立性調節障害で鍼灸を受ける場合は、どこで施術を受けるかも大切です。国家資格の有無だけでなく、起立性調節障害や子どもへの施術経験、衛生管理、料金なども確認しましょう。
また、「必ず治る」などと効果を断定する施設には注意が必要です。ここでは、鍼灸院を選ぶときに確認しておきたいポイントと注意点について解説していきます。
はり師・きゅう師の国家資格を確認する
日本で鍼やお灸を業務として行うためには、それぞれ「はり師」「きゅう師」の国家資格が必要です。そのため、鍼灸院を選ぶ際は、実際に施術を担当する人が必要な国家資格を取得しているか確認しましょう。
資格の有無は、鍼灸院の公式サイトに掲載されている施術者のプロフィールや、院内に掲示されている免許証などで確認できます。また、希望すれば「厚生労働大臣免許保有証」を確認する方法もあります。
「整体師」「セラピスト」などは、はり師・きゅう師とは異なり、名称自体が鍼灸を行うための国家資格を意味するものではありません。複数の施術者が在籍している施設では、鍼やお灸を実際に担当する人が、はり師・きゅう師の資格を保有しているか確認すると安心です。
起立性調節障害への施術経験がある鍼灸院を選ぶ
起立性調節障害の子どもが鍼灸を受ける場合は、起立性調節障害や小児への施術経験がある鍼灸院を選ぶとよいでしょう。朝と午後で体調が異なる、立つとめまいや頭痛が起こる、失神することがあるなど、起立性調節障害の特徴を理解していることも重要です。
初回の相談では、「起立性調節障害の子どもへの施術経験はあるか」「子どもにはどのような方法で施術するか」などを確認してみましょう。鍼への恐怖心が強い場合には、刺さない小児鍼や刺激の弱い方法に対応できるかを聞いておくと安心です。
また、病院での診断や薬物療法を否定せず、必要な場合には医療機関への受診を勧めてくれるかも大切なポイントです。医療機関での治療と連携して考えてくれる鍼灸院を選びましょう。
副作用・衛生管理・料金について説明を受ける
鍼灸は比較的安全に行える施術ですが、副作用やトラブルがまったくないわけではありません。鍼を刺した部分の痛み、少量の出血や内出血、施術後のだるさなどがみられることがあります。また、お灸では皮膚の赤みや水疱、やけどなどが起こる可能性があります。
施術を受ける前に、どのような症状が起こり得るのか説明を受けましょう。また、感染対策のため、使い捨ての鍼を使用しているか、手指や施術スペースなどの衛生管理が適切に行われているかを確認することも大切です。
料金については、初診料や1回あたりの施術料だけでなく、提案される通院頻度や期間、想定される総額も確認しましょう。高額な回数券や長期間の契約を勧められても、その場ですぐに決めず、必要性や費用を家族で検討することをおすすめします。
施術前後の体調を記録して変化を確認する
鍼灸を始める前に、頭痛、めまい、倦怠感、睡眠、起床困難など、「何を改善したいのか」を明確にしておきましょう。
例えば、頭痛やめまいの強さを0~10の数字で記録し、起床時刻や睡眠時間、遅刻・欠席の日数なども残しておくと、施術前後の変化を比較しやすくなります。天候や学校行事、運動量、服薬の変更など、体調に影響しそうな出来事もあわせて記録すると参考になります。
起立性調節障害への鍼灸には、「何回受ければ改善する」という確立された基準はありません。そのため、一定の回数や期間ごとに症状の変化や通院の負担を振り返ることが大切です。改善がみられない場合は漫然と続けず、継続や中止について鍼灸師や主治医と相談しましょう。
起立性調節障害への鍼灸は主治医に相談しながら検討しよう
起立性調節障害に対する鍼灸では、起床困難や腹痛、遅刻・欠席などが改善した症例が報告されています。しかし、現時点では十分な医学的根拠が確立されているとはいえず、効果にも個人差があります。
そのため、まずは小児科などで適切な診断を受け、生活習慣の調整や必要に応じた薬物療法などを基本とし、鍼灸はつらい症状を和らげるための補助的な選択肢として検討しましょう。
鍼灸院を選ぶ際は、はり師・きゅう師の国家資格、起立性調節障害や小児への施術経験、衛生管理、施術方法、料金などを確認することが大切です。また、鍼灸を始めても自己判断で薬を減らしたり、医療機関への通院を中止したりせず、主治医に相談しながら取り入れましょう。
施術後は、頭痛やめまい、睡眠、起床時刻、登校状況などを記録して変化を確認しましょう。症状の改善だけでなく、費用や送迎、通院による本人や家族の負担も定期的に振り返り、鍼灸を無理なく継続できるか総合的に判断することが大切です。
起立性調節障害では、鍼灸だけでなく日常生活での対策も大切です。家庭でできる対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。








