- 「起立性調節障害の子どもが、いつも手足が冷たいと言う」
- 「冷え性と起立性調節障害は関係があるの?しっかり温めたほうがいい?」
このような疑問やお悩みをお持ちの方も少なくないでしょう。
起立性調節障害の子どもは、朝の起きづらさや立ちくらみだけでなく、「手足が冷たい」「足先が紫っぽくなる」と訴えることがあります。特に寒い季節は、冷えと朝のつらさが重なり、心配になる親御さんも多いでしょう。
結論からお伝えすると、冷えは起立性調節障害の診断に使う11の症状項目には入っていません。ただ、立ったときに血圧を保とうとして手足の血管が締まることや、足に血液がたまりやすいことから、手足の冷えにつながることがあると考えられます。そのため、起立性調節障害の冷えは「とにかく温めればよい」とは限らず、熱いお風呂やこたつで急に温めると、かえって立ちくらみが強くなることもあります。
そこで、この記事では起立性調節障害で手足が冷えるしくみや、ほかの病気との見分け方、家庭と学校でできる冷え対策を解説します。冬の朝のつらさを和らげるヒントになるため、ぜひご一読ください。
起立性調節障害と冷え性の関係
冷えは起立性調節障害の子どもによく見られる体のサインですが、診断の決め手になる症状ではありません。まずは、起立性調節障害と冷えの関係について確認しておきましょう。
冷えは診断に使う11の症状項目には含まれない
起立性調節障害の診断では、日本小児心身医学会のガイドラインにある11の身体症状のうち、いくつ当てはまるかを最初に確認します。11項目は下記のとおりで、「冷え」は含まれていません。
- 立ちくらみやめまいを起こしやすい
- 立っていると気持ちが悪くなる。ひどいと倒れる
- 入浴時や、嫌なことを見聞きしたときに気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸や息切れがする
- 朝なかなか起きられず、午前中は調子が悪い
- 顔色が青白い
- 食欲がない
- おへその周りの痛みをときどき訴える
- 疲れやすい、だるい
- 頭痛がある
- 乗り物に酔いやすい
このうち3つ以上、または2つでも起立性調節障害が強く疑われる場合に、新起立試験(寝た状態と立った状態で血圧と脈拍を測る検査)で診断を進めます。
手足の冷えを訴える子どもは少なくない
一方で、起立性調節障害の症状の一つとして「手足の冷え」を挙げている小児科もあります。東京都医師会の学校精神保健の事例集にも、教室でうずくまっていた生徒の手足が冷えていて「循環障害があると考えられた」という記録があります(典型的な起立性調節障害とは異なるとされた事例です)。
つまり、「冷え性だから朝起きられない」とも、「冷えがないから起立性調節障害ではない」とも言えません。朝の不調が続く場合は、冷えの有無にかかわらず医療機関で評価してもらいましょう。
参考文献:
起立性調節障害(出典:日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」)|岡山労災病院 掲載資料
東京都医師会「学校精神保健に関する事例とその解説(4)」
ゆりの木クリニック「起立性調節障害」
起立性調節障害で手足が冷える理由
起立性調節障害で手足が冷えるのは、本人の体質や気持ちの問題ではなく、主に立ったときの血液の調節の仕組みによるものと考えられています。
具体的には、下記のような理由が挙げられます。
血圧を保とうとして手足の血管が締まる
起立性調節障害で手足が冷える理由として、血圧を保とうとして手足の血管が締まる点が挙げられます。
人が寝た姿勢から立ち上がると、重力で血液が下半身へ移動します。関西医科大学の石崎優子医師は、起立性調節障害では体位を変えたときに「下肢の容量血管静脈の収縮不全」が起こり、血圧が下がって頭への血流が減ると説明しています。
頭への血流が足りなくなると、体は交感神経を強く働かせ、皮膚や手足の細い血管を締めて血圧を保とうとします。手足への血流は後回しにされるため、指先が冷たく、白っぽくなるのです。立つと心拍数が大きく上がるタイプ(体位性頻脈症候群)の子どもが、動悸と一緒に「手が冷たい」と訴える場合は、このしくみで説明できることがあります。
足に血液がたまり流れが滞る
起立性調節障害で手足が冷える理由として、足に血液がたまり流れが滞る点も挙げられます。
足の静脈がうまく締まらないと、立っている間に血液が足にたまります。その結果、足先が赤紫色っぽくなったり、むくんだり、ひんやりしたりすることがあります。たとえば「朝礼で立っていると、足先が紫っぽくなって冷たくなる」といった様子です。
ただし、ここで紹介したのは循環の調節のしくみから考えられる説明です。冷えの原因は一人ひとり違うため、どちらのしくみが強いかは主治医に確認しましょう。
参考文献:
ラジオNIKKEI 小児科診療UP-to-DATE「起立性調節障害治療の最新知識」石崎優子(関西医科大学 小児科)2023年3月
岡山県医師会報 第1663号「起立性調節障害」岡田あゆみ(岡山大学病院 小児心身医療科)2026年2月
その冷えは別の病気のサイン?確認したい3つの病気
手足の冷えやだるさ、朝のつらさは、起立性調節障害以外の病気でも起こります。起立性調節障害の診断でも、ほかの病気がないことを確かめる手順が必ず入ります。
冷えとあわせて確認したい病気は、主に下記の3つです。
鉄欠乏性貧血
冷えとあわせて確認したい病気として、鉄欠乏性貧血が挙げられます。
貧血では、疲れやすい、動悸や息切れがする、顔色が悪い、爪が反り返るといった症状が出ます。起立性調節障害と症状が重なるため見た目では区別しにくく、血液検査で確認するのが確実です。
甲状腺機能低下症
冷えとあわせて確認したい病気として、甲状腺機能低下症も挙げられます。
甲状腺の働きが落ちると、寒がりになるほか、いつも眠い、体重が増える、便秘になるといった症状が出ます。子どもでは、学校の成績が下がる、身長の伸びが止まることもあります。
たとえば「朝だけでなく夕方もずっとだるく、去年より身長が伸びていない」という場合は、甲状腺の血液検査が必要かどうか医師に相談してみましょう。
レイノー現象
冷えとあわせて確認したい病気として、レイノー現象も挙げられます。
レイノー現象は、寒さや緊張をきっかけに手足の指が急に白や紫になり、しびれやピリピリ感が出る状態です。温めると色が戻るのが特徴で、立ったかどうかに関係なく、指先だけが発作的に変色する点が起立性調節障害の冷えとの違いです。
なお、失神をくり返す、胸の痛みや強い動悸がある、体重が減ってきた、指先の変色が戻りにくい・傷ができた、症状が急に悪くなったといった場合は、様子を見ずに医療機関を受診しましょう。
参考文献:
厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 甲状腺機能低下症」(令和4年2月改定)
MSDマニュアル家庭版「レイノー症候群」
品川区「貧血について」
温めすぎは逆効果?起立性調節障害の子どもの冷え対策
起立性調節障害の冷え対策で気をつけたいのは、急に強く温めることです。体が温まると皮膚の血管が広がり、その分だけ頭へ回る血液が減りやすくなります。ガイドラインの症状項目に「入浴時に気持ちが悪くなる」が入っているのも、この影響と考えられます。
冷え対策は「ゆるやかに保温する」「血液を足にためない」の2つを意識すると、起立性調節障害の対処とぶつかりません。具体的には、下記のようなポイントを意識しましょう。
なお、すでに治療を受けている場合は、主治医の指示を優先してください。
お風呂は熱すぎず短めにしてゆっくり出る
起立性調節障害の子どもの冷え対策として、お風呂は熱すぎず短めにしてゆっくり出ることが挙げられます。
熱いお湯に長くつかると血管が大きく広がり、湯船から立ち上がった瞬間に立ちくらみを起こしやすくなります。熱すぎないお湯で短めに入り、出るときは浴槽のふちをつかんでゆっくり立ちましょう。脱衣所を先に暖めておくと、急な温度差も防げます。
部屋ごとの温度差を小さくする
起立性調節障害の子どもの冷え対策として、部屋ごとの温度差を小さくすることも挙げられます。
こたつや電気毛布で寝てしまうと体が温まりすぎ、起きたときにふらつきやすくなります。また、暖房の効いた部屋から寒い廊下やトイレへ急に出ると、体は温度の変化に合わせて血管を大きく調節しなければなりません。廊下やトイレにも小型の暖房を置くなど、家の中の温度差を小さくしましょう。
重ね着と足首の保温で調節する
起立性調節障害の子どもの冷え対策として、重ね着と足首の保温で調節することも挙げられます。
厚手の上着1枚よりも、薄手のものを重ね着するほうが、暖房の効いた教室と寒い廊下を行き来するときに調節しやすくなります。足首を覆うレッグウォーマーも手軽です。
足に血液がたまるのを防ぐ弾性ソックス(加圧ソックス)は保険適用外のため、使う場合は医師に相談して選びましょう。
温かい飲み物も水分としてこまめにとる
起立性調節障害の子どもの冷え対策として、温かい飲み物も水分としてこまめにとることも大切です。
冬は喉が渇きにくく、「冷えるから」と水分を控えがちです。しかし、起立性調節障害では体を巡る血液の量を保つために水分と塩分が大切です。白湯や温かいお茶も水分として数えられるので、一度にたくさんではなく、少しずつ回数を分けてとりましょう。
水分と塩分の目安は、医療機関によって示し方が異なります。たとえば、はりま姫路総合医療センターは「水分1日1〜1.5L、塩分はふだんより+3g」、岡山大学病院の岡田あゆみ医師は「水分2L以上」としています。体格や持病によって適量は変わるため、具体的な量は主治医と決めましょう。
ふくらはぎを動かして血液を戻す
起立性調節障害の子どもの冷え対策として、ふくらはぎを動かして血液を戻すことも挙げられます。
ふくらはぎの筋肉は、足にたまった血液を心臓へ押し戻すポンプの役割をしています。寒いからと一日中横になって過ごすのではなく、座ったままかかとの上げ下げや足首回しをするだけでも、足の血流を促せます。
参考文献:
兵庫県立はりま姫路総合医療センター 小児科「起立性調節障害とは」
岡山県医師会報 第1663号「起立性調節障害」岡田あゆみ(2026年2月)
ラジオNIKKEI「起立性調節障害治療の最新知識」石崎優子(2023年3月)
冬の朝の起き方|冷えと立ちくらみを防ぐスケジュール例
寒い朝は、布団の中と部屋の温度差が大きくなります。起立性調節障害の子どもが勢いよく起き上がると、冷えと血圧低下が重なって立ちくらみを起こしやすくなります。
下記は、中学生が7時30分に家を出る場合の一例です。
- 6時30分:タイマーで部屋の暖房を入れておく(起きる30分前が目安)
- 6時45分:声をかけたら、布団の中で手足のグーパーや足首回しを1〜2分
- 6時50分:横向きになってから上半身を起こし、頭を下げたまま30秒以上かけて立ち上がる
- 6時55分:コップ1杯の白湯か水を飲む
- 7時〜:朝食。食べられない日は、汁物や果物など水分の多いものだけでもとる
うまくいかない日があっても、本人の努力不足ではありません。「なんで起きないの」ではなく、「今朝の手足はどのくらい冷たい?」と体の状態を聞く声かけにすると、子どもも状態を言葉にしやすくなります。
参考文献:
兵庫県立はりま姫路総合医療センター 小児科「起立性調節障害とは」
東京都医師会「学校精神保健に関する事例とその解説(4)」
学校で冷えと起立性調節障害に配慮してもらうための伝え方
冬の学校には、寒い体育館での全校集会、廊下での待機、屋外の体育など、冷えと立ち続けることの両方が負担になる場面があります。
冬の学校で負担になりやすい場面
岡山県教育庁の資料でも、起立性調節障害の症状は気温や気圧などの環境の変化に影響されるとされ、保護者と学校が対応を一緒に検討することが勧められています。
特に、体育館での集会や朝礼のように「寒い場所で長く立つ」場面は、足に血液がたまりやすく、冷えと立ちくらみが重なりやすいため注意が必要です。
担任や養護教諭への伝え方の例
担任や養護教諭の先生には、具体的に下記のように伝えると配慮を決めてもらいやすくなります。
起立性調節障害と診断されています。立っている時間が長いと血液が足にたまり、手足が冷えて気分が悪くなることがあります。冬の集会では列の端で座らせていただくか、ひざかけや上着の着用を許可していただけると助かります。体調が悪そうなときは、保健室で横にならせてください。
診断書や主治医の意見書があると、学校側も配慮の根拠を持てます。東京都医師会の事例集でも、医師が教員に病態を説明したことで学校の理解が深まった例が紹介されています。
参考文献:
岡山県教育庁「教育相談Q&A 子どもが、朝起きられないんです…(起立性調節障害)」
東京都医師会「学校精神保健に関する事例とその解説(4)」
受診の目安と、受診前に記録しておきたいこと
朝の不調で遅刻や欠席が続く、立ちくらみをくり返すといった場合は、まず小児科(高校生以上なら内科も可)に相談しましょう。
受診前の1〜2週間、下記の項目をメモしておくと、冷えと起立性調節障害の関係を医師が判断する材料になります。
- 起床時刻と、布団から出られた時刻
- 手足が冷たいと感じた時間帯と場面(朝、立っているとき、寒い場所など)
- 手足の色の変化(白っぽい、紫っぽい、赤い)と、戻るまでの時間
- 立ちくらみ・頭痛・腹痛があった時間帯
- 入浴中や入浴後に気分が悪くなったか
- 1日の水分量のおおよそ(コップ何杯か)
手足の色が変わったときにスマートフォンで写真を撮っておくのも役立ちます。診察室では症状が出ていないことが多いためです。
参考文献:
岡山県医師会報 第1663号「起立性調節障害」岡田あゆみ(2026年2月)
起立性調節障害(出典:日本小児心身医学会ガイドライン)|岡山労災病院 掲載資料
起立性調節障害と冷えに関するよくある質問
冷え性向けの漢方薬は、起立性調節障害にも効きますか?
起立性調節障害では、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)や半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が使われることがあり、腹痛が強い子どもには小建中湯(しょうけんちゅうとう)が選ばれることもあります。
ただし、治療の中心は生活の工夫などの非薬物療法で、漢方は補助的な位置づけです。冷え性向けの市販薬を自己判断で使う前に、主治医に相談しましょう。
起立性調節障害は冬と夏のどちらに悪化しやすいですか?
資料によって異なります。春や秋に悪化しやすいとする小児科医もいれば、梅雨から夏の湿度が高い時期に悪化しやすいとする医療機関もあります。
冬は冷えや温度差、夏は暑さや脱水と、季節ごとに負担になる要因が違うため、悪化しやすい時期を記録しておくと対策を立てやすくなります。天気や季節による症状の変化については、下記の記事も参考にしてください。
大人でも、冷えと起立性調節障害が関係することはありますか?
起立性調節障害は思春期に多い病気ですが、成人になっても症状が続く人や、大人になってから似た症状が出る人もいます。大人の場合は内科や循環器内科が相談先になります。
大人の起立性調節障害については、下記の記事も参考にしてください。
参考文献:
岡山県医師会報 第1663号「起立性調節障害」岡田あゆみ(2026年2月)
飯塚病院 漢方診療科「起立性調節障害」
起立性調節障害の冷えは体の仕組みによるもの。温めすぎず、足に血液をためない対策を
この記事では、起立性調節障害で手足が冷えるしくみや、ほかの病気との見分け方、家庭と学校でできる冷え対策について解説しました。
冷えは起立性調節障害の診断項目には入っていませんが、立ったときの循環の調節と関係して起こることがあります。貧血や甲状腺機能低下症など、冷えを起こす別の病気がないかも受診で確かめましょう。
冷え対策では、熱いお風呂やこたつで急に温めるのではなく、重ね着や部屋の温度差を減らす工夫、温かい飲み物での水分補給、ふくらはぎの運動など、できることから少しずつ取り入れてみてください。
冷えや朝のつらさがなかなか改善しない場合は、本人や家庭だけで抱え込まず、医療機関に相談しましょう。
起立性調節障害の治し方や、家庭で親ができることについて詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。






