「立ちくらみの原因が気になる」「繰り返し立ちくらみを経験するけど、まずい病気なのでは?」このような疑問や経験をお持ちの方も少なくないでしょう。
実際に繰り返す立ちくらみはさまざまな原因が考えられ、中には心臓疾患や脳疾患など命に関わるような病気が隠れていることもあるため、早期発見・早期治療すべき症状です。
一方で、起立性低血圧のように自律神経の乱れなどで生じる立ちくらみの場合、生活習慣の改善などによるセルフケアでも十分改善が見込めます。
まずはどのような原因があるのか、しっかりと把握しておくことが肝要です。
そこで、この記事では医師である筆者の経験から、立ちくらみの原因について詳しく解説します。この記事を読むことで、下記のようなことが分かります。
- 立ちくらみの原因がわかる
- しゃがんだ時に起こる立ちくらみについてわかる
- 立ちくらみの治し方がわかる
立ちくらみの原因とは?
- 湯船から上がった後に立ちくらみがする
- 校長先生の長い話で倒れてしまった人がいる
立ちくらみは日常の何気ないシチュエーションでも起こりうる症状であり、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか?
多くの場合、立ちくらみの原因として下記のような病態が挙げられます。
- 血流低下によるもの
- 耳石器(じせきき)の異常によるもの
- 貧血
- 栄養不足
中でも、血流低下と耳石器の異常に伴う立ちくらみは頻度が多く、立ちくらみが生じる機序やメカニズムも違うため、それぞれについて解説します。
血流低下によるもの
立ちくらみの原因として最も多い原因は、脳血流の低下によるものです。
脳は非常に酸素や糖質の需要が高い臓器であり、一過性の血流低下にも耐えられないため、少しの血流低下でも立ちくらみやめまいなどの症状が出現してしまいます。
通常であれば脳血流は常に同じ程度で維持されるように出来ており、血流が低下すれば交感神経が活性化することで心臓の拍動を強く・早くし、末梢血管を収縮させることで血圧を上昇させ、脳血流は維持されます。
しかし、何らかの理由で血管が拡張して収縮できない状態や、うまく交感神経が働かず心臓の拍動が活性化しない場合、もしくはその両方が同時に出現した場合、脳血流が低下して立ちくらみに陥るわけです。
具体的には下記のような状態が挙げられます。
- 入浴時に血管が拡張し、湯船から立ち上がることで急速に脳血流が低下する
- ストレスや女性ホルモンの変動で自律神経が乱れる
- 食事や排泄によって迷走神経が刺激されて心機能が著しく抑制される
これらの反応はどれも病気でなく、日常生活の中で起きうる生理的変化です。
一方で、背景に何らかの病気を持つことで脳血流が低下してしまい、立ちくらみが生じることもありますが、この場合は医療機関での専門的な治療が必要となります。
病態によって取るべき対処法や治療も異なり、適切な対応を取るためにも早期に原因を特定することが重要です。
耳石器(じせきき)の異常によるもの
耳石器(じせきき)の異常も、立ちくらみの原因となります。
耳の奥にある内耳の卵形嚢と呼ばれる部位に耳石は位置し、体の平衡感覚を感知する役割を持ちます。
頭が垂直方向に傾くと耳石の位置も連動して動くことで、頭位の変化を脳に信号として送っているわけです。
また、耳石は常に代謝されており、徐々に剥がれていき細かいカスが卵形嚢内に溜まっていくと、そのカスが三半規管に迷入して体の平衡感覚を司る神経を刺激してしまいます。
その結果、実際に体や頭位は動いていないにも関わらず、脳には誤った刺激が送られてしまうことでめまいや立ちくらみが生じます。
具体的に、耳石の影響で生じるめまいを「良性発作性頭位めまい症」と呼び、医療機関にめまいや立ちくらみで救急搬送される方の多くはこの病気です。
脳血流とは全く異なる機序でめまいや立ちくらみを引き起こす病気であり、治療法も異なるため早期に診断をつけることが重要です。
男性に多い立ちくらみの原因
男性に多い立ちくらみの原因として、水分の摂取不足やアルコール摂取による脱水、もしくは薬剤性が挙げられます。
厚生労働省の調査によれば、近年アルコール摂取量や摂取率は男性では減少傾向にあるものの、女性と比較すれば依然として高い水準にあります。
アルコールは血管拡張作用があるため脳血流が低下しやすく、また利尿作用があるため血液量も減少し、脱水状態になりやすいです。
これらの理由から、男性で飲酒する方は脳血流低下によって立ちくらみが起こりやすく注意が必要です。
また、高血圧に対する降圧剤や男性特有の前立腺肥大症に対する治療薬は血管拡張作用があり、脳血流の低下を引き起こします。
最近では、「ミノキシジル」と呼ばれる薄毛治療薬を内服される男性も多いですが、これも血管拡張作用があるため注意が必要です。
どの原因にせよ、積極的な水分摂取は立ちくらみのリスクを低減するため、無理のない範囲で飲水するようにしましょう。
女性に多い立ちくらみの原因
女性に多い立ちくらみの原因として、女性ホルモンの乱れや貧血、過剰なダイエットなどが挙げられます。
女性ホルモンの乱れは自律神経の乱れを引き起こすため、うまく脳血流を維持できなくなり立ちくらみの原因となります。
また、女性は生理中や妊娠中は貧血傾向となり、全身に酸素を運搬する赤血球が減少するため、脳への酸素供給も減少し、立ちくらみの原因となるため注意が必要です。
そのほか、過剰なダイエットによって栄養不足に陥ると、低血糖によって脳の機能が低下して立ちくらみの原因となります。
さらに、過剰なダイエットは女性ホルモンの乱れや生理不順を引き起こし、より立ちくらみが生じやすい状態となってしまうため、注意が必要です。
栄養不足に陥らないよう、過剰なダイエットは避けてバランスの良い食事を心がけましょう。
しゃがむと立ちくらみがする原因
通常はしゃがんだ状態から立ち上がると脳血流が低下して立ちくらみがしますが、逆にしゃがむと立ちくらみがすることもあります。
しゃがむことで体や頭位の位置がずれると、良性発作性頭位めまい症などの耳鼻科疾患では謝って脳に刺激を送ってしまい、立ちくらみが生じます。
他にも、メニエール病や前庭神経炎などの耳鼻科疾患では同様の症状が起こり得るため注意が必要です。
しかし、メニエール病や前庭神経炎では、しゃがむとき以外にも常に立ちくらみが出ることが通常のため、しゃがんだ時だけ立ちくらみが出るなら、まずは良性発作性頭位めまい症を疑うべきでしょう。
治療には耳鼻科での専門的な器具を要するため、疑わしい場合は耳鼻科を受診するようにしましょう。
立ちくらみの治し方
立ちくらみの治し方は原因によってさまざまです。
もし背景に心臓疾患や脳神経疾患が隠れていれば、生活習慣の改善などのセルフケアでは治療は困難であり、医療機関での専門的な治療が必要となります。
場合によっては命に関わる可能性もあるため、放置せずに早期診断・早期治療を心がけるべきでしょう。
一方で、生活習慣の乱れによる自律神経の乱れ、低血糖などの栄養不足、過度なダイエットによる脱水などの原因であれば、その問題点を改善することでセルフケアも十分可能です。
また、急な立ちくらみが出現した場合の対処法として、その場での失神による頭部外傷や顔面損傷を避けるためにも、まず横になりましょう。
それでも症状が改善しなければ、脳血流をより増加させるために下肢を挙上させましょう。
ただし、心不全が原因での立ちくらみの場合、下肢挙上や横になることで心臓に負担がかかり症状がさらに悪化する可能性もあるため、、普段から胸痛や息苦しさなどの胸部症状がある方の場合は注意が必要です。
立ちくらみの背後に病気が潜んでいる可能性もある
立ちくらみの背後には、命の危険性もあるような病気が潜んでいる可能性もあります。
特に、立ちくらみの原因となる脳血流の低下は、脳へ血液を送る心臓や心臓の運動をコントロールしている自律神経、もしくは脳そのものになんらかの異常がある場合に生じます。
そのため、心臓や脳・神経系の疾患を持っている方は立ちくらみが生じやすく、十分注意が必要でしょう。
具体的には、下記のような病気が隠れている可能性があります。
- 中枢神経疾患:脳卒中・パーキンソン病・多発性硬化症などによる自律神経障害
- 脊髄損傷・脊髄腫瘍
- 末梢神経疾患:糖尿用・アルコール・ギラン・バレー症候群などによる自律神経障害
- 循環血液量減少:多尿や脱水や出血など
- 心拍出量の減少:大動脈弁狭窄・心不全・不整脈など
- 薬剤性:降圧剤や利尿剤による副作用
これらの病気はどれも立ちくらみ以外にもなんらかの症状を認めることが多いです。
特に、立ちくらみを認めるような心臓疾患の場合、それ以前に胸痛や動悸などの胸部症状を認め、すでに突然死のリスクすら抱えているような状況です。
症状が悪化する前に、必ず医療機関で精査するように心がけましょう。
もしかしたら起立性調節障害かも
立ちくらみの原因はもしかしたら起立性調節障害かもしれません。
起立性調節障害は小学生高学年から中学生にかけて発症しやすい身体疾患であり、急速な身体の成長に自律神経の発達が追い付かないことで自律神経の機能が乱れ、結果として脳血流が低下する病気です。
めまいや立ちくらみも出現しますが、起立性調節障害の場合は特に午前中の起立時や起床時に症状が強いという特徴があります。逆に、夕方や夜間には症状が改善する点で、他の原因疾患とは異なります。
起立性調節障害の多くは自然軽快しますが、中には重症化して通学や進級に支障をきたす子供もいるため、早期発見・早期治療が重要です。
下記の記事では、起立性調節障害の子供のセルフチェック法について詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
>>起立性調節障害のセルフチェックリスト(子ども)|すぐにできる診断テスト
また、起立性調節障害は子供だけでなく、大人でも発症する方がいます。大人の場合、症状次第では職場や家庭にも与える影響が大きいため、やはり早期発見・早期治療が重要です。
下記の記事では、起立性調節障害の大人のセルフチェック法について詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。