授業や朝礼など大勢の人の前で話す場合や大事な試験のとき、緊張して汗をかいたり、心臓がドキドキしたりするのは当然の反応です。
しかし、心配や不安が過剰になり、日常生活に支障が出る場合、不安障害の可能性があります。
不安障害は、精神的な不安から、こころと身体に様々な不調を来す疾患です。思春期の場合、身体の成長、心の成長、周囲の環境の変化など多くの変化を一気に経験する時期なので、不安障害を発症する可能性がある時期と言えます。
この記事では、思春期の不安障害の原因、特徴、症状、対処法について解説していきます。
思春期の不安障害の特徴とは?どんな症状が出る?
不安障害にも種類があります。代表的なものには、パニック障害、社会不安障害、強迫性障害、全般性障害などがあります。
それぞれの疾患によって、見られる症状も異なります。
パニック障害
パニック障害は、突然の激しい不安や恐怖に襲われる発作(パニック発作)が繰り返し起こる状態です。
発作の予測は難しく、時に何の前触れもなく現れるため、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。発作時の症状はとても強烈で、生命の危機を感じるほどの恐怖や、コントロールを失うことへの不安が伴うことも多いです。
「また発作が起きたらどうしよう」と不安になり(予期不安)、外出を避けるようになったり、人と会うことを控えるなどの回避行動が増えてしまうことがあります。
- 動悸
- 発汗
- 息苦しさ
- 窒息感
- 死への恐怖
社会不安障害
社会不安障害は、人前で何かをすることや、他人に注目される状況で強い不安や恐怖を感じる障害です。「対人恐怖症」や「社交不安障害」とも呼ばれ、思春期や成人に多く見られる傾向があります。
この不安はただの緊張や恥ずかしさとは異なり、過度で長期的なもので、日常生活や人間関係、仕事や学校生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
- 人前で話す、食べる、書くなどを行うことに強い不安や恐怖を感じる
- 顔が異常に赤くなる
- 発汗
- 震え
- 動悸
強迫性障害
強迫性障害は、頭から離れない不快な考え(強迫観念)や、どうしてもやめられない行動(強迫行為)によって日常生活に支障をきたす障害です。
この障害の人は、自分でも過剰だと感じながらも、その考えや行動を抑えられないため、大きなストレスや苦痛を感じます。
- 不潔恐怖と洗浄
- 加害恐怖
- 確認行為
- 数字へのこだわり
- 儀式行為
全般性障害
全般性不安障害は、日常生活のさまざまな出来事や状況に対して、過剰で持続的な不安を感じ続ける障害です。
この不安は特定の状況や対象に限らず、仕事や人間関係、健康、経済など、生活全般に広がることが多く、結果的に、生活に支障をきたすだけでなく、身体的な不調やストレスも引き起こします。
- 疲れやすい
- 集中力の低下
- 緊張して落ち着かない
- 睡眠障害
- 筋肉の緊張
思春期の不安障害の原因とは?
思春期の不安障害は、複数の要因が絡み合って発症することが多いです。
この時期は成長に伴う変化が多く、精神的にも不安定になりやすい傾向があります。思春期の不安障害の主な原因を解説していきます。
身体的および生理的な変化
具体的には下記の2つが挙げられます。
<ホルモンの変化>
思春期はホルモンバランスが大きく変わる時期で、特にストレスホルモンや性ホルモンの影響を受けやすく、不安感が増すことがあります。
<脳の発達>
思春期における脳の急速な発達が、感情の制御や衝動の抑制に影響を与え、不安を引き起こしやすくすることがあります。
環境的要因
具体的には下記の3つが挙げられます。
<学校や学業のプレッシャー>
成績や将来に対する期待がプレッシャーとなり、不安の要因となることが多いです。
<人間関係の変化>
友人関係や恋愛関係など、他者との関わりが複雑になるため、孤立感や疎外感、不安を感じやすくなります。
<SNSやメディアの影響>
思春期の子どもは他人と比較する傾向が強く、SNS上の他人の成功や理想的な生活に触れることで、自己評価が低くなり、不安が増すことがあります。
家庭環境
具体的には下記の2つが挙げられます。
<家族のプレッシャー>
親の期待や過剰なサポートが、思春期の子どもに負担をかける場合があります。また、過保護や厳しいしつけも不安の原因になることがあります。
<家族関係の不和>
家庭内のトラブル(両親の不和、経済的な問題など)は、子どもに強い不安を与える原因となり、思春期の不安を悪化させることがあります。
性格的および心理的要因
具体的には下記の3つが挙げられます。
<感受性が高い>
特に内向的で感受性の強い性格の子どもは、環境の変化や人間関係に敏感で、不安を感じやすい傾向があります。
<完璧主義>
思春期の子どもが自分に対して完璧を求める傾向がある場合、失敗を恐れて過度な不安を抱きやすくなります。
<自己評価が低い>
自己肯定感が低いと、他人からの評価を過剰に気にし、不安につながりやすいです。
トラウマや過去の体験
具体的には下記の2つが挙げられます。
<いじめや虐待の経験>
過去にいじめや虐待などのトラウマを経験している場合、それが思春期の不安障害を引き起こすことがあります。
<重大な出来事>
家族の死別や引っ越し、転校などの大きな変化も、不安を引き起こす原因になることがあります。
思春期の不安障害に薬物療法は効果がある?
思春期の不安障害に対して、薬物療法は効果的な治療法の一つとされていますが、薬物を使用する際には慎重なアプローチが必要です。
薬物療法は、特に症状が重度で日常生活に大きな支障をきたしている場合に役立つことが多いですが、必ずしもすべての思春期の子どもに適しているわけではありません。薬物療法が必要かどうかを含め、精神科の医師と相談する必要があります。
一般的に用いられる薬剤としては以下のものがあります。
抗うつ薬(SSRIやSNRI)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、不安障害の治療によく使用されます。
セロトニンやノルアドレナリンのバランスを調整し、過剰な不安や心配を軽減します。
抗不安薬
これらの薬は、不安や緊張を迅速に和らげる効果があります。
その他の薬剤
睡眠障害を伴う場合があり、睡眠薬を使用することもあります。
思春期の不安障害の対処法とは?
思春期の不安障害の対処法には、心理療法、生活習慣の改善、家庭や学校でのサポートなど、さまざまなアプローチが効果的です。
思春期は心身ともに成長する時期で、不安を上手に管理し、自己理解を深めるために役立つ対処法を身につけることが大切です。
認知行動療法
具体的には下記の2つが挙げられます。
<不安を引き起こす考え方を見直す>
認知行動療法では、不安や心配の原因となる思考パターンを見直し、現実的で前向きな考え方に置き換える練習をします。
<行動の練習>
不安を引き起こす状況に段階的に向き合うことで、状況への耐性をつける手助けをします。
リラクゼーションとストレス管理
呼吸法や瞑想は、不安を感じたときに心を落ち着かせるのに役立ちます。
特に、ゆっくりと深呼吸することで、リラックス反応が促され、不安が和らぎやすくなります。
規則正しい生活習慣
具体的には下記の2つが挙げられます。
<十分な睡眠>
睡眠不足は不安を増幅させる要因の一つです。質の良い睡眠を確保し、規則正しい生活リズムを保つことが、不安を軽減するために重要です。
<バランスの取れた食事>
血糖値の変動は気分に影響を与えるため、バランスの良い食事を心がけましょう。
家庭や学校のサポート
子どもが不安を感じたときに自由に話せる環境が、家庭や学校にあると良いです。
家族や学校の先生が子どもの話に耳を傾け、批判や判断をせずに受け入れることで、子どもが安心して不安について話すことができます。
趣味や興味のある活動に取り組む
趣味や好きなことに取り組む時間を持つことで、気分転換ができ、不安感から気持ちを切り替えることができます。音楽、絵を描く、スポーツなど、自分が楽しいと感じられる活動を見つけてみると良いでしょう。
少しずつ不安な状況に慣れていく
不安を感じる状況を避け続けると、かえって不安が強化されることがあります。少しずつ自分のペースで不安に感じることに取り組むことが大切です。
ただし、無理に進めず、カウンセラーや信頼できる大人と一緒に進めるのが良いです。
サポートグループや専門家への相談
不安を抱える他の思春期の子どもや家族が参加するサポートグループも、心の支えになることがあります。共感できる人と出会うことで、不安に対する理解が深まり、孤独感が和らぐこともあります。
また、症状が重い場合や日常生活に大きな支障が出ている場合は、心理カウンセラーや精神科医など専門家に相談することをおすすめします。
もしかしたら起立性調節障害かも
不安障害以外に、思春期に見られやすい疾患の一つに起立性調節障害があります。
起立性調節障害とは自律神経である交感神経と副交感神経の働きのバランスが崩れることで見られる疾患で、朝起きられない、めまい、疲れやすい、動悸、など様々な症状が見られます。
睡眠障害や精神的な症状が見られることもあり、不安障害と似た症状も多くあります。思春期の不安障害と起立性調節障害は症状が似ている部分が多いため、自己判断で対処するのは難しいと思われます。
気になる症状がある場合は一度セルフチェックを行い、医療機関を受診することをおすすめします。
下記記事ではセルフチェックについて解説していますので、気になる症状がある方は是非ご一読ください。