「起立性調節障害は日本だけの病気なの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
実は、起立性調節障害は日本特有の病気ではなく、海外でも広く知られている自律神経の不調の一つです。
ただし、日本ほど「起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)」という診断名が一般的に使われている国は多くありません。欧米では、症状や病態ごとに分類されることが一般的です。そのため、「海外にはODがない」のではなく、診断名や考え方が異なるだけなのです。
この記事では、日本と海外での起立性調節障害の違いや共通点、海外ではどのように診断・治療されているのかについて、わかりやすく解説します。
起立性調節障害は日本だけの病気?
「起立性調節障害は日本だけの病気らしい」「海外では認められていない病気だと聞いた」などと耳にし、不安になる保護者の方も少なくありません。
結論からいうと、起立性調節障害でみられる症状や病態は日本だけのものではありません。誤解されやすい理由について、以下で解説します。
起立性調節障害の“症状”は日本だけではない
起立性調節障害でみられる立ち上がったときのめまい、立ちくらみ、動悸、強い倦怠感、頭痛、腹痛、朝起きられないといった症状は、日本だけでみられるものではありません。
これらは、立った際に血圧や心拍数の調節がうまく働かず、脳への血流が一時的に不足することで起こると考えられ、世界中で認められています。欧米でも自律神経や循環調節の異常として診療され、小児だけでなく成人でも研究が進められています。
また、立位で症状が悪化し、横になると改善するという特徴も日本と海外で共通しています。そのため、「起立性調節障害は日本だけの病気」と言われる場合でも、それは症状ではなく、「起立性調節障害」という病名や診断概念が日本で発展してきたことを指しています。
症状自体は世界中で認められており、日本だけに存在する特殊な病気ではありません。
「起立性調節障害」という呼び方は日本で広く使われている
日本では、思春期の子どもにみられる朝起きられない、立ちくらみ、倦怠感、頭痛などが学校生活に影響している場合、「起立性調節障害(OD)」という診断概念で説明されることが多くあります。小児科や小児心身医学では比較的よく知られ、学校現場でも配慮が必要な疾患として認識されています。
背景には、日本で診断基準や治療方針が早くから整備されてきたことがあります。2005年には「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」が作成され、その後も診療や研究が進み、日本独自の診断概念として発展してきました(参照:藤田之彦「起立性調節障害研究を振り返る」)。
ただし、日本で「起立性調節障害」という名称が広く使われていることと、「日本だけに存在する病気」であることは別の話です。貧血、心疾患、内分泌疾患、睡眠リズム障害、精神疾患などでも似た症状が現れるため、適切な診断には他の病気との区別も重要です。
日本で用いられている起立性調節障害の診断基準や、診断までの流れについて詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
欧米では「起立不耐症」と呼ばれることが多い
日本では「起立性調節障害(OD)」という名称が広く使われていますが、欧米では同様の症状を「起立不耐症(Orthostatic Intolerance:OI)」と表現することが一般的です。
『Japanese clinical guidelines for juvenile orthostatic dysregulation』でも、米国や欧州ではODに近い状態を「起立不耐症」と呼ぶことが説明されています(参照:「Tanaka H, et al. Pediatrics International. 2009;51:169-179」)。
起立不耐症とは、立ち上がったり立ち続けたりすると、めまい、ふらつき、動悸、強い疲労感、集中力の低下などが現れやすくなる状態の総称です。その中には、日本で起立性調節障害と診断されるようなケースに加え、体位性頻脈症候群(POTS)や神経調節性失神(NMS)なども含まれます。
つまり、「起立性調節障害」という病名が海外でそのまま使われていないからといって、症状や病態が認められていないわけではありません。
日本では「OD」という診断名でまとめて説明されることが多い一方、欧米では「起立不耐症」を中心に、POTSなど個々の病態ごとに分類して診療する傾向があります。
名称は異なっても、立位で症状が悪化するという本質的な病態は共通しています。
海外では起立性調節障害に近い症状をどう見ている?
日本と海外の違いは、症状の有無ではなく、その症状をどのような名称で呼び、どの病態に分類するかという点です。
めまい、立ちくらみ、動悸、ふらつき、倦怠感などの症状は海外でもみられますが、診療の入り口や分類方法、重視する検査項目が異なります。患者さんが感じている症状そのものが否定されているわけではありません。
ここでは、海外での捉え方について解説します。
立ったときの心拍数や血圧の変化に注目されることがある
欧米では、起立性調節障害に近い症状を評価する際、横になった状態から立ち上がったときの心拍数や血圧の変化を確認することがあります。
また、一定時間立位を保ち、めまい、動悸、ふらつき、吐き気、倦怠感などの症状が現れるかを観察することもあります。これは、立ち上がった際に下半身へ移動した血液を心臓や脳へ戻す循環調節が適切に働いているかを調べるためです。
そのため、「朝起きられない」「立っているとつらい」という訴えだけではなく、立位による心拍数や血圧の変化、症状の現れ方を重視して病態を分類します。
日本で起立性調節障害と診断されるような症状でも、海外では心拍数や血圧の変化、失神の有無、症状の持続時間などから別の診断概念として整理されることがあります。
日本で起立性調節障害の診断に用いられる新起立試験について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
POTS(体位性頻脈症候群)や起立性低血圧などに分けて考えられることがある
欧米では、立ったときに現れる症状を一つの病名でまとめるのではなく、心拍数や血圧の変化によって分類することがあります。代表的なのがPOTS(体位性頻脈症候群)と起立性低血圧です。
POTSは、立ち上がった際に血圧は大きく低下しない一方で心拍数が著しく増加し、動悸、めまい、ふらつき、倦怠感、集中力低下などが現れる病態です。
一方、起立性低血圧は、立位で血圧が一定以上低下し、それに伴ってめまいや失神などが起こります。
これらは日本の起立性調節障害と重なる症状が多くありますが、診断基準や対象年齢などは同じではありません。そのため、「POTS=起立性調節障害」と単純に考えるのではなく、症状が似ていても異なる診断基準で分類された病態と理解することが大切です。
POTS(体位性頻脈症候群)の症状や診断について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
起立性低血圧と起立性調節障害の違いや、主な症状について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
海外では循環器や自律神経の問題として扱われることがある
欧米では、起立性調節障害に近い症状は、立ったときの心拍数や血圧、自律神経の働きに注目して評価されます。
立位では重力によって血液が下半身にたまりやすくなりますが、通常は自律神経が心拍数や血管の収縮を調整して血圧を保っています。この調節がうまく働かないと、POTS、起立性低血圧、血管迷走神経性失神などとして分類され、循環器科や神経内科で検査や治療が行われることがあります。
日本では、朝起きられないことや学校生活への影響も含めて「起立性調節障害」と説明されることがありますが、欧米では循環器や自律神経に関係する複数の病態に分けて評価される傾向があります。
ただし、POTSや起立性低血圧と起立性調節障害は完全に同じ病気ではなく、症状や病態が一部重なっていると理解することが重要です。
なぜ日本では起立性調節障害という診断が広く使われている?
海外に比較し、日本では、思春期の子どもにみられる朝の不調や、登校への影響を説明する診断名として「起立性調節障害」が広く使われてきました。
その理由については以下が考えられます。
思春期の朝の不調を説明する診断名として広まった
思春期は、成長やホルモンバランスの変化、自律神経の発達、生活リズムの乱れなどが重なり、朝起きられない、午前中に体調が悪い、立ちくらみ、頭痛、腹痛、倦怠感といった不調が現れやすい時期です。症状が一つだけではなく、複数同時にみられることも少なくありません。
日本では、こうした思春期特有の複数の症状を「起立性調節障害」という診断概念でまとめて説明する場面が増えてきました。診断名がつくことで、本人や家族が「怠けているのではなく、身体の調節機能に問題が起きている可能性がある」と理解しやすくなる面もあります。
ただし、朝起きられない、だるい、頭痛がするといった症状は、起立性調節障害だけにみられるものではありません。睡眠障害、鉄欠乏性貧血、甲状腺疾患、感染症、うつ状態などでも似た症状が現れるため、必要に応じて検査を行い、ほかの病気との区別をすることが重要です。
不登校や心身症と結びつけられやすい
日本では、起立性調節障害が不登校の原因のひとつとして語られることがあります。実際に、朝起きられない、立つと気分が悪くなる、午前中に頭痛や腹痛が強いといった症状のため、学校に行きたくても登校できない子どもはいます。
しかし、「不登校=心の問題」「起立性調節障害=甘え」と短絡的に結びつけるのは適切ではありません。起立性調節障害では身体症状が基盤にあり、そのうえに睡眠リズムの乱れ、学校への不安、人間関係の悩み、出席日数や受験へのプレッシャーなどが重なることがあります。
登校できない日が続くと、昼夜逆転や運動不足が進み、さらに朝起きにくくなるという悪循環に陥る場合もあります。そのため、身体面と心理面のどちらか一方だけに原因を求めるのではなく、症状、睡眠、学校環境、本人の不安を総合的に確認することが大切です。
起立性調節障害と不登校の関係や、家庭・学校での対応について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
朝の起床困難や学校生活への支障が診断のきっかけになる
起立性調節障害では、「朝起きられない」「遅刻が増えた」「午前中は登校できない」といった生活上の困りごとをきっかけに、医療機関を受診することがあります。夕方には元気になることもあるため、家族や周囲からは「本当に病気なのか」と疑われてしまうこともあります。
日本の学校生活では登校時刻が決まっており、朝から授業に参加することが求められます。そのため、午前中に強く現れる症状が、遅刻や欠席という形で表れやすく、生活への支障として気づかれやすい面があります。
こうした学校生活との関係も、日本で起立性調節障害という診断名が広く認識されている理由のひとつと考えられます。
ただし、診断名だけに注目するのではなく、何時ごろ症状が強いのか、立つと悪化するのか、横になると改善するのか、睡眠時間や生活リズムはどうか、学校生活にどの程度影響しているのかを整理することが大切です。具体的な症状と生活上の支障を確認することで、より適切な治療や学校での配慮につながります。
起立性調節障害かもしれないときに確認したいこと
「起立性調節障害は日本だけの病気なのでは?」と心配になる方もいますが、大切なのは病名ではなく、お子さんにどのような症状があり、日常生活にどの程度影響しているかを整理することです。
確認しておきたいポイントを解説します。
朝の起きづらさや午前中の体調不良が続いていないか
まず確認したいのは朝の体調です。目覚ましで起きても体が動かない、午前中は強いだるさが続く、頭痛や腹痛で朝食が食べられないといった状態が繰り返されていないか振り返ってみましょう。
起立性調節障害では午前中に症状が強く、午後から夕方にかけて改善することがあります。そのため、「朝だけ怠けている」「夜更かしのせいではないか」と誤解されることも少なくありません。
しかし、このような症状が数週間から数か月続く場合は注意が必要です。いつ頃から症状が始まり、どのくらいの頻度で起こるのかを記録しておくと、受診時にも役立ちます。
立ったときにめまい・動悸・ふらつきが出ないか
起立性調節障害では、起き上がったときや立ち上がったとき、長時間立っているときに症状が現れやすいという特徴があります。朝起きて立ち上がった瞬間や、学校の朝礼、通学中、体育の授業などで、めまい、立ちくらみ、ふらつき、動悸などが起きていないか確認しましょう。
また、「どのような場面で症状が出るのか」「朝だけなのか」「横になると改善するのか」といった経過を整理しておくことも大切です。
一方、失神を繰り返す、胸の痛みを伴う、強い動悸や息苦しさが続く場合は、起立性調節障害以外の病気が隠れている可能性もあるため、早めに医療機関を受診しましょう。
睡眠リズムや学校生活への影響を整理する
起立性調節障害では、症状だけでなく生活リズムや学校生活への影響も確認することが重要です。毎日の就寝・起床時間は一定か、休日だけ昼頃まで寝ていないか、昼夜逆転がないかを記録してみましょう。平日と休日の睡眠リズムに大きな差があると、症状が悪化しやすくなることがあります。
また、遅刻や欠席が増えていないか、午前中に保健室で休むことが多くなっていないか、授業や部活動への参加が難しくなっていないかも確認しましょう。これらは学校との連携や診療にも役立つ情報です。
朝の起きづらさや立ちくらみ、睡眠リズムの乱れによって学校生活に支障が続いている場合は、「様子を見れば治る」と自己判断せず、小児科などの医療機関へ相談しましょう。適切な診断や生活指導、必要に応じた治療や学校での配慮を受けることが、症状の改善につながります。
起立性調節障害は日本だけの病気ではなく、症状の捉え方が異なる
「起立性調節障害は日本だけの病気」と聞くと、「海外では認められていない病気なのでは」と不安になる方もいるかもしれません。しかし、起立性調節障害でみられる朝の起きづらさ、立ちくらみ、めまい、動悸、倦怠感などの症状は日本だけのものではありません。
海外でも同様の症状は広く知られており、欧米では起立不耐症(Orthostatic Intolerance)やPOTS(体位性頻脈症候群)、起立性低血圧、血管迷走神経性失神などの診断概念で評価されています。
一方、日本では、思春期の子どもの朝の不調や学校生活への影響も含めて「起立性調節障害」という診断概念で整理されてきました。
つまり、日本と海外の違いは病気の有無ではなく、症状をどのように分類し診断するかという点にあります。大切なのは病名ではなく、「朝起きられない」「立つとつらい」「学校生活に支障がある」といった症状や生活への影響を正しく把握することです。
朝の起きづらさや立ちくらみ、動悸、強い倦怠感が続き、学校生活や日常生活に支障がある場合は、小児科などの医療機関へ相談しましょう。適切な診断や生活指導、必要に応じた治療や学校での配慮を受けることで、症状の改善につながる可能性があります。
受診前に子どもの症状を整理しておきたい方は、起立性調節障害のセルフチェックを紹介している、下記の記事も参考にしてください。
起立性調節障害に近い症状は大人にみられることもあります。大人の起立性調節障害のセルフチェックは、下記の記事を参考にしてください。
起立性調節障害の治し方や、家庭で親ができることについて詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。











