現代のネット社会において、スマホは手放せないものになってしまっており、スマホやゲームに依存してしまっている子どもも多いのではないでしょうか。しかし、中には、依存しているのではなく、体調の問題により、暇つぶしの一貫としてスマホやゲームをしている場合もあります。
起立性調節障害のお子さんは立位や座位よりも横になっている方が体が楽で色々な症状もでにくいため、横になりながらでもできるゲームやスマホを触ることが多いのです。
自律神経の調整のバランスに不具合が生じるために、夜間は眠くならず、夜更かしをせざるをえなくなり、ゲームをしたり、スマホを触ることになるのです。
起立性調節障害のお子さんの場合は、一般的によく言われるスマホ、ゲーム依存とは少し性質が異なりこともあります。病気を正しく理解し、なぜネット環境に依存するのか、依存への対策なども含め解説していきます。
起立性調節障害の子どもがスマホ、ゲームに依存する理由
まず、スマホやゲームに依存している状態とはどのように判断できるのでしょうか。
DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)の第5版で「インターネット・ゲーム障害」という名称で、インターネット・ゲームへの依存症について基準が定められています。
スマホやゲームに夢中になり食事を忘れてしまったり、やめようと思っていてもいつの間にか触ってしまっていたり、スマホを触れないとイライラしてしまうなど、スマホやゲームをしたことに後悔し、日常生活に支障がみられると依存していると言えます。
起立性調節障害のお子さんの場合は、中には依存してしまっているお子さんもいるかもしれませんが、依存とは少し違った状態であると考えられます。なぜなら、自律神経の病気による様々な症状が関係しているからです。
起立性調節障害は、自律神経系である交感神経と副交感神経のバランスが崩れることで、起床時や立位時に様々な症状が出現します。
座っていると、重力に従って下肢に血液が溜まりやすくなります。そのため、立ち上がる際には、脳や心臓への血流が下がりやすく、血圧も下がりやすい状況になります。しかし、私たちは起立時に失神することはありません。
これは、起床時や起立時に交感神経を活性化させ、四肢など末梢の血管を収縮させることで心臓や脳への血流を維持しているからです。起立性調節障害の場合、この交感神経の活性化に不調を来しているため、脳血流が低下しめまいや立ちくらみなどの症状が見られます。
また、一日の中で、自律神経の働きにはパターンがあります。朝起床頃より体を活動的にする交感神経が優位になり、午後になると徐々に副交感神経の割合が増加していきます。夜間には交感神経の働きは弱くなり、就寝が近くなる頃には副交感神経が優位に働き、睡眠中体を休めます。
起立性調節障害の場合、この正常なパターンにも乱れが生じ、朝は交感神経の活性化が遅れなかなか起き上がれず、起きた後も集中力が低下していることも多く、夜には副交感神経へうまく切り替わらず、眠気がこず、結果的に夜更かししてしまうのです。
したがって、体位としては座位や立位よりも横になっている方が体が楽なため、テレビを見たり、ついついスマホを触ったり、ゲームをしてしまいます。
長時間スマホ、ゲームをした場合の悪影響
起立性調節障害のお子さんは体調の問題からネット環境に浸ってしまいがちですが、長時間のスマホ、ゲームは身体的にも精神的にも多大な悪影響を及ぼすことがわかってきています。
ゲーム依存者は、アルコール中毒、ギャンブル中毒者と酷似した脳の状態になっていると言われており、脳内化学物質の1つで習慣形成や依存に関与しているドーパミンが過剰に分泌されます。また、前頭葉の機能低下による衝動や感情のコントロールが困難になってきます。
それ以外にも、
・集中力の低下
・視力低下
・疲れ目やドライアイ
・肩こりや頭痛
・睡眠障害やうつなどの心身の不調
など様々な悪影響があります。
スマホを見る時やゲームをする際、近くにある1つの小さな画面の1点を見つめつづけるため、近視やスマホ老眼など視力障害が進行すると言われています。また、猫背になっていたり姿勢が悪いことが多く、肩こりや頭痛の原因にもなります。
スマホ画面から放たれるブルーライトは太陽光にも含まれており、メラトニン分泌を抑制します。メラトニンは睡眠に非常に重要な物質であり、また、抗酸化作用や免疫機能の改善など重要な役割を果たしています。
したがって、夜間や寝る前のスマホは私たちを眠りにくくさせ、睡眠の質も低下します。十分な睡眠、良質な睡眠がなければ日中の活動にも影響が出てしまいます。
起立性調節障害の子どもにスマホ、ゲームをさせてもいいの?
適切に使用し、知識や情報を得ることやストレス発散などいい方向に利用できれば、必要以上に制限する必要はありません。
しかしながら、長期使用による悪影響や依存状態になってしまうと日常生活に支障を来し、心身へも影響を与えてしまいます。それでは、どの様にスマホやゲームと付き合っていけば良いのか。以下の項で詳しく解説していきます。
スマホ、ゲーム依存を防ぐための対策
まず、親御さんはスマホ・ゲームの悪影響、起立性調節障害の病気についてしっかり子供に説明し、子ども自身がスマホやゲームには依存性があり、長期間使用で悪影響がでることを理解する必要があります。
また、スマホやゲームの悪影響が起立性調節障害の症状を悪化させてしまう恐れがあることも理解しなければなりません。その上で、スマホやゲームをする際は、ルールを設けるといいでしょう。
この時、必ず子ども自身が守れると自分でルールを決めることが重要です。
・食事中はスマホ・ゲームをしない
・勉強中はスマホ・ゲームをしない
・23:00には寝る
・スマホ・ゲームは1日1時間まで など
大前提にはなりますが、起床、睡眠、食事など生活リズムは絶対に崩さないことです。
体調がいい日は、スマホやゲームばかりではなく、ゆっくり体を起こし、運動をしたり体を動かすといいでしょう。体を動かすことでスマホやゲームから気をそらすことができる以外にも、筋力がつくことで起立性調節障害の症状緩和・改善に効果的です。
スマホは調べる際に利用することで色々な情報を得ることができます。ゲームが好きでストレス発散につながることもあるため、一概にスマホを触ることやゲームをすることが悪いこととは言い切れません。
しかしながら、度が過ぎてしまうと非常に危険な状況になることもあり、節度を持って対応する必要があります。
下記記事では「起立性調節障害の子供に対して親御さんができること」をまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
【参考】
田中大介 監修『起立性調節障害(OD)朝起きられない子どもの病気がわかる本』 講談社
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)