10代前半の子供は大人と比較して肉体的にも精神的にもまだまだ未熟であり、怪我や病気、体調不良やメンタル失調など様々な健康被害を引き起こす可能性があります。また、それと同時に肉体、精神ともに大きく成長する変化の時期でもあります。
なかでも、そういった肉体の成長に伴って発症する病気の1つである起立性調節障害(OD)は、お子さん自身のみならず親御さんにとっても非常に手を焼く病気の1つだと思います。
起立性調節障害は小学生高学年から中学生で発症しやすく、主に午前中や起床時のふらつき、嘔気、嘔吐、めまい、腹痛、睡眠障害など多岐にわたる症状を引き起こす病気ですが、午後になると症状が改善傾向に向かうため病気と認識されにくい病気です。
そこで、起立性調節障害に罹患した子供は「ただサボりたいだけ」「起きるのが面倒だからゴネているだけ」と、親御さんに叱責されてしまうケースも少なくありません。しかし、実はこういった対応は絶対にやってはいけないことなのです。
起立性調節障害はあくまで身体疾患ですが精神的ストレスが症状と大きく関わっているため、不用意に子供を叱責することは症状の悪化を引き起こし兼ねません。またストレスとODの関係を語る上で、セロトニンというホルモンが非常に重要な役割を担っています。
そこで、本記事ではストレスに大きく関わっているセロトニンというホルモンを解説するとともに、それらが起立性調節障害に与える影響についても解説し、起立性調節障害の症状の悪化を回避できるような方法もご紹介します。
セロトニンとストレスの関係
まずはじめに、ストレスについて分かりやすく解説します。「ストレスが溜まっている」「ストレスでイライラする」といった言葉をよく耳にしますが、ストレスという目には見えないものをどこまで理解しているのでしょうか?
身体的、もしくは精神的なストレスが加わったとき、人間の体に引き起こる反応は大きく分けて3つに分類されます。その1つ目として、まず交感神経系の活性化が挙げられます。ストレスを感じると、脳の視床と呼ばれる部分から直接交感神経が刺激されます。
交感神経とは、副交感神経とともに自律神経と呼ばれる神経の1つであり、血圧、脈拍、呼吸、内臓の運動、睡眠、体温、排尿、排便などのありとあらゆる生理機能を調節している神経のことです。
ストレスにより交感神経が刺激されると、ストレスに対して対抗できるように血管が収縮し血圧が上昇し、心臓が刺激され脈拍が増加します。また呼吸は早くなり、内臓運動は停止するため排尿や排便は出にくくなり、睡眠相も覚醒傾向に至ります。
2つ目として、副腎髄質の活性化が挙げられます。ストレスが加わることで脳の視床下部からCRHと呼ばれるホルモンが分泌され、脳の下垂体が刺激されます。次に、下垂体からACTHと呼ばれるホルモンが分泌され副腎髄質が刺激されます。
刺激された副腎髄質からはコルチゾールと呼ばれる、いわゆるストレスホルモンが分泌され、血糖値や血圧の上昇を引き起こし、たんぱく質や脂質の代謝を誘発し、免疫抑制なども引き起こします。
これらの理由から、ストレスが加わることで血糖値や血圧が上昇したり、風邪をひきやすくなったりと、体に有害な生体反応が引き起こるわけです。
3つ目として、セロトニンの分泌低下が挙げられます。そもそもセロトニンとは世間では幸せホルモンと名付けられているホルモンであり、トリプトファンという物質を原料にして作られている脳内の神経伝達物質の1種です。
神経伝達物質とは、脳内で神経と神経の間の情報伝達に関与しているホルモンです。例えばうつ病では、セロトニンが分泌されずうまく情報伝達ができなくなっている状態のことです。
実は、ストレスによってもうつ病発症時と非常に酷似した状態に陥ってしまうのです。具体的には、ストレスによって脳内に発生した炎症性サイトカインがトリプトファンからセロトニン合成の過程を阻害し、セロトニン分泌量が低下してしまいます。
セロトニンの主な作用は、脳の興奮を鎮めて精神を安定させることや食欲のコントロール、疼痛の抑制などが挙げられます。幸福感を高めるのに役立つことから、幸せホルモンと言われているわけです。
つまり、ストレスが加わることで脳内でのセロトニン分泌が低下し、精神的に不安定になりやすく、恐怖感や不安感を強く感じるような状態に陥ってしまうわけです。
ストレスと、それに伴う生体反応には主に上記3つの機構が存在し、それぞれの経路を辿って様々な生体反応が引き起こされているわけです。では、ストレスは起立性調節障害に対してはどのような影響を及ぼすのでしょうか?
ストレスと起立性調節障害の関係
前述したように、起立性調節障害は小学生高学年から中学生にかけて急激に肉体が発達するのに対し、自律神経の発達が追いつかないことで発症する身体疾患です。
起立時には重力に従って血液が下肢に多く取られてしまい脳血流が低下してしまいますが、そうならないように本来であれば自律神経が自動でうまく調整して脳血流が一定になるように保っています。
具体的には、起立時に交感神経が活性化することで下肢の血管を収縮させ、心臓を強く早く鼓動させることで脳への血流が増えるように働き脳血流減少を防いでいるのです。
しかし、起立性調節障害ではうまく機能しないため起床後や起立時、午前中に特に症状が出やすく、ふらつき、嘔気、嘔吐、めまい、腹痛、睡眠障害など多岐にわたる症状を引き起こすのです。
起立性調節障害の厄介なところは、午後になると交感神経系が徐々に活性化してくるため症状が改善してしまい、一見するとただ午前中ダラダラしたかっただけのように映ってしまう点です。
その結果、親御さんの中には発症早期に病気とは考えられず、つい子供を叱責してしまい追い込んでしまうケースも少なくありません。しかし、実は起立性調節障害の子供にとってストレスをかけてしまうことは厳禁です。
その理由として、起立性調節障害はあくまで身体疾患ですが、その反面でストレスと密接な関係性があるからです。前述したようにストレスが体に与える影響は3つの経路が存在していますが、そのうちの1つである自律神経にも影響を及ぼします。
ストレスによって不用意に交感神経が活性化されると自律神経のバランスが乱れてしまい、結果的に起立性調節障害の症状を増悪させてしまうのです。つまり、ストレスは起立性調節障害にとって直接的な原因ではありませんが、増悪させる要因ではあるのです。
以上のことからも分かる通り、起立性調節障害の子供に対しては叱責よりも共感を持って接するべきです。
起立性調節障害はストレスによって症状が悪化、セロトニンで症状が緩和
では、起立性調節障害の症状を改善させるにはどうすべきなのでしょうか?
基本的に起立性調節障害の治療は、疾患に対する理解を深め、非薬物療法を徹底することが重要です。自分の病気がメンタルヘルスの失調によるものではなく、身体の成長に伴うものだと自覚してもらうべきです。
そして、その上で日常生活の行動に気を使い、いかに脳血流が低下しないように行動するかを心がけてもらう必要があります。
また前述したように、不用意なストレスは交感神経や副腎を刺激してしまい、起立性調節障害にとって悪影響を及ぼすため極力避けるべきです。
逆に、セロトニンの分泌低下に対しては分泌を促す方法があるため、実践することで症状を緩和できる可能性があります。
セロトニンを分泌する方法
セロトニンは幸せホルモンであり、分泌量が多いほど精神的に安定し、起立性調節障害の症状に対して良い方向に働きます。そこで、いかにしてセロトニン分泌を促すかが重要になってきます。
まず第一に、日中に太陽光を浴びることで視床下部からのセロトニン分泌を促す方法があります。
ただ漫然と肌で太陽光を浴びるだけではセロトニン分泌は誘発されず、2500-3000ルクスほどの強烈な光を目の奥の網膜に投射することでセロトニン神経を活性化させる必要があります。
ちなみに、蛍光灯の光は500ルクス程度しかないのに対し、太陽光は曇っていても10000ルクスはあるため、2500-3000ルクスを満たすには太陽光に近い光を浴びる必要があります。
太陽光を浴びる時間は、起床後から午前中のあいだ、遅くても正午までに屋外で15-30分程度の日光浴を行うのが理想的です。また、最近ではご自宅でも太陽光に近い光を浴びることのできる機械を用いた「光療法」が浸透しつつあります。
他にも、セロトニン分泌においては原料となるトリプトファンが体内にある程度存在しないと、太陽光を浴びたところで効果的なセロトニン分泌は得られません。そこで、トリプトファンを多く含む食材を摂取することが必要となります。
具体的には、豆腐、納豆、味噌、しょうゆなどの大豆製品、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、米などの穀類などには豊富に含まれています。 その他にごまやピーナッツ、卵、バナナにも多く含まれています。
起立性調節障害の場合、他にも様々な治療のアプローチがあります。下記記事では起立性調節障害に対するその他の治療法について詳しく解説されています。ぜひ参考にしてください。