起立性調節障害とは

ナルコレプシーと寝不足の違いとは?現役医師がわかりやすく解説

2024年6月2日

 

この記事の監修者

医師(匿名)

医師歴:10年
勤務病院:某3次救急病院

一般社団法人 起立性調節障害改善協会

「十分寝たはずなのに1日中眠いのはどうして?」「ただの寝不足じゃなくてナルコレプシーかも?」

このような疑問を抱えている方も少なくないでしょう。

十分寝たのに日中に眠くなる場合、慢性的な寝不足か、もしくはナルコレプシーをはじめとする過眠症の可能性があります。前者であれば生活習慣を見直すことで改善可能ですが、ナルコレプシーなどの過眠症は生活習慣の問題ではなく病気のため、特別な治療が必要となります。

放置すれば日中の強い眠気によって学業や仕事に支障をきたすだけでなく、交通事故や転倒・転落を引き起こすリスクもあるため、早期に診断し、対策すべきです。

そこで、この記事ではナルコレプシーと寝不足の違いや、ナルコレプシーの原因・対処法などについて詳しく解説します。ぜひ、これを機に日中の眠気からの解放を目指しましょう。

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ナルコレプシーと寝不足の違いとは?

日中に強い眠気を自覚することは誰でも一度は経験することですが、それが単なる眠気なのか、ナルコレプシーなどの病気なのかによって、対処法なども変わってきます。

特にナルコレプシーの場合は自力での改善は困難であるため、まずは寝不足とナルコレプシーの違いを理解しておくことが重要です。ここでは、ナルコレプシーと寝不足の違いについて詳しく解説します。

睡眠時間は関係ない

ナルコレプシーと寝不足の違いの1つに、睡眠時間を確保できているかどうかが挙げられます。ナルコレプシーは睡眠時間とは無関係に日中の眠気をきたす疾患であり、仮に十分な睡眠時間を確保できていない場合はナルコレプシーよりもむしろ寝不足を疑うべきです。

ここでの十分な睡眠時間とは実は個人差が大きく、何時間以上寝れば大丈夫という基準は実はありません。またたくさん眠ればいいということもなく、あまりにも長時間の睡眠は健康に良くないことも知られています。

一般的には7時間以上の睡眠が好ましいと考えられているため、平均睡眠時間が7時間以上あるにも関わらず日中眠い場合はナルコレプシーを疑うべきです。

逆にいえば、平均睡眠時間が7時間未満だからといってナルコレプシーの可能性を否定できるわけではありません。

睡眠の質も関係ない

ナルコレプシーと寝不足の違いの1つに、睡眠の質を確保できているかどうかが挙げられます。睡眠時間と同様、ナルコレプシーは睡眠の質が低いから眠気を感じる病気ではありません。睡眠の質が低い場合はナルコレプシーよりも寝不足を疑うべきです。

不適切な寝室の温度や湿度・睡眠中の光や音や振動などの刺激・不適切な寝具の使用・就寝前のアルコールや暴飲暴食・就寝前の運動や入浴などによって容易に睡眠の質は低下するため、このような環境や状況に心当たりがある方はまずは寝不足を疑うべきでしょう。

一方で、これらの要因を是正したにも関わらず日中に眠気が続く場合はナルコレプシーの可能性を考える必要があります。

眠気以外の症状

ナルコレプシーと寝不足の違いの1つに、眠気以外の症状を伴うかどうかが挙げられます。ナルコレプシーはただの寝不足では認められない症状が随伴する点で特徴的です。

代表的な随伴症状は、カタプレキシー・睡眠麻痺・入眠時幻覚の3つです。カタプレキシーとは、怒りや驚き、喜びなどの感情の起伏によって突如引き起こされる両側対称性の筋緊張の消失であり、情動脱力発作とも呼ばれます。

発作中は意識は保たれ、持続時間は通常短時間(2 分以内)であることが多いです。また全てのナルコレプシー発症者に認めるわけではありません。次に、睡眠麻痺とはいわゆる金縛りのことです。

入眠時もしくは眠りから覚める際に、一時的に数秒〜数分骨格筋の弛緩が起こり、身体が動かせない状態になることです。最後に入眠時幻覚とは、入眠時に視覚的・聴覚的または触覚的な幻覚を見ることを指し、起床時にも起こることがあります。

特にカタプレキシーや睡眠麻痺は通常の寝不足では起こり得ないため、一番わかりやすい違いといっていいでしょう。

ナルコレプシーの原因

睡眠時間や質を確保しても日中に我慢できないくらいの眠気に襲われるナルコレプシー。なぜそのような症状が出てしまうのでしょうか?

まず結論から言えば、ナルコレプシー の原因は遺伝的要因や環境的要因などが複合的に関与していると指摘されていますが、完全に解明されておらず原因不明です。ここでは、現状考えられるナルコレプシーの原因について詳しく解説します。

オレキシン系神経の異常

ナルコレプシーの原因として、オレキシン含有細胞の後天的な脱落が挙げられます。オレキシンとは、視床下部外側野にある神経細胞から産生され、睡眠と覚醒のスイッチング機能を担う脳内の神経伝達物質です。

これまでの研究結果から、ナルコレプシー患者では髄液中のオレキシン濃度の低下が確認されており、またナルコレプシー患者の死後の脳ではオレキシン含有細胞の減少が報告されています。

以上のことからも、オレキシン含有細胞の後天的な脱落が病態に関連している可能性が現在指摘されてますが、なぜそのような変化が生じるのかについて厳密にはわかっていません。

今の所、一番可能性があるのは自己免疫反応による破壊だと考えられています。自己免疫反応とは、本来異物を攻撃するはずの自身の免疫細胞が誤って自身の正常な細胞を破壊してしまう反応のことです。

ただし、髄液中のオレキシン濃度の低下はナルコレプシーで必ず認められる所見でもない為、確定的な原因とは言い難いのが現状です。

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遺伝要因

ナルコレプシーの発症には遺伝的要因の関与が挙げられます。一般的にナルコレプシーではヒト白血球抗原(HLA)のサブタイプであるDQB1*0602やDRB1*1501の陽性者が多く、遺伝的要因が認められます。

一方で、ほとんどの場合は孤発性であることが多く、遺伝性は約5%程度に過ぎないと言われており稀です。

実際に、過去の研究では家族歴のあるナルコレプシー患者77例で異常遺伝子を認めたのは1例のみであり、また一卵性双生児での一致率が約20%と低いことから、多くの場合は遺伝要因以外での発症の可能性が示唆されています。

環境要因

ナルコレプシーの発症には環境要因の関与が挙げられます。上記で記したようにオレキシンの後天的な脱落は遺伝要因だけでは説明がつかず、多くの場合なんらかの環境要因が関与して発症すると考えられています。

具体的にはストレスなどの関与が示唆されていますが、明確な要因は不明であり今後の研究が待たれるところです。

ナルコレプシーの対処法

ナルコレプシーは比較的若年期に発症する慢性疾患であるため、治療に使う薬剤は最小限に抑えつつ効果を得て、その上で副作用や薬物の依存形成を抑制することが重要です。

また、治療したとしても眠気を正常範囲に抑えることは困難であり、眠気による社会生活への不利益(仕事、学業の能率低下、運転等の危険性など)を最低限にとどめる水準を目指すことが目標となります。

ここでは、具体的な対処法について解説します。

生活習慣の見直し

まずは生活習慣を見直しましょう。ナルコレプシーが環境要因によって発症している点からも、生活習慣を整えることで症状の改善が見込めます。特に睡眠習慣を整えることが重要であり、夜間には十分な睡眠の質と時間を確保しましょう。

また、日中に眠気が強い場合はカフェインなどの摂取も有効です。また午後の眠気の軽減のためには、昼休みなどに積極的に短時間の昼寝をすることが望ましいです。

他にも、眠気対策として、可能であれば計画的に数時間おきに午後睡眠を取ることが推奨されています。

専門の医療機関を受診する

生活習慣のセルフケアでも症状が改善しない場合、専門の医療機関を受診しましょう。

そもそも眠気の原因がナルコレプシーなのか、寝不足なのか、はたまた概日リズム睡眠障害・周期性四肢運動障害・睡眠時無呼吸症候群などの他の疾患なのか診断をつける必要があるためです。

ナルコレプシーの診断のためには反復睡眠潜時検査(multiple sleep latency test :MSLT)と呼ばれる検査が必要不可欠であり、国内では2008年から眠気水準および入眠期のレム睡眠出現を評価する客観的検査として保険適用となっています。

また他にも、睡眠中の呼吸状態をモニタリングする終夜睡眠ポリグラフ検査(polysom nography:PSG)を併用することが多く、これらの検査を実施できる医療機関は限られています。

日本睡眠学会認定施設A型の機関がこれに相当し、学会ホームページに一覧が掲載されているため、ぜひ参考にすると良いでしょう。

薬物療法

診断がついた後は、眠気に対しての薬物療法が有効です。日中の過眠症状に対してはモダフィニル・ぺモリン・メチルフェニデートなどの薬剤が有効であり、特にモダフィニルは第一選択です。

またカタプレキシーに対しては、レム睡眠を抑制する効果のあるクロミプラミンが保険適用として認められています。夜間の睡眠分断の対応としては、ベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤を就寝前投与する場合があります。

一方で、上記の薬剤はあくまで根治的な治療ではなく対症療法であり、中断すると元の眠気水準に戻ってしまうことには留意すべきです。

もしかしたら起立性調節障害かも

日中に強い眠気を自覚する場合、その原因はもしかしたら起立性調節障害かもしれません。起立性調節障害とは、身体の急激な発達・成長に対して自律神経の成長が追いつかず、自律神経が乱れてしまう病気です。

睡眠はもちろんのこと、血圧や脈拍・体温・排尿・排便などさまざまな生理機能をコントロールしているのが自律神経であるため、自律神経が乱れてしまうことでさまざまな身体症状をきたします。

起立性調節障害の場合、特に午前中に交感神経がうまく活性化してこないため、めまいや倦怠感に襲われてうまく起きてくることができません。睡眠時間に関わらず目覚めが悪くなるため、一見するとナルコレプシーや寝不足にも似た症状です。

起立性調節障害は基本的には肉体の成長が落ち着くとともに自然軽快する病気ですが、約5〜10%の子供では重症化することが知られており、注意が必要です。

子供の場合、通学や学業に支障をきたし、最悪の場合は進級や進路にも影響が出てしまうため、早期発見・早期治療が肝要です。下記の記事では、子供における起立性調節障害のセルフチェック方法について詳しく解説してあるため、ぜひ参考にしてください。

関連記事:起立性調節障害のセルフチェックリスト(子ども)|すぐにできる診断テスト

通常は子供に多い病気ですが、起立性調節障害は大人でも発症しうる病気です。 大人で発症すると仕事に影響が出て、収入や生活にも影響が出てしまうため、やはり早期発見に務めるべきです。下記の記事で大人の方もセルフチェックしてみましょう。

関連記事:大人の起立性調節障害セルフチェック項目|診断テスト

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