思春期は身体も心も大きく成長、変化する時期で、多感な時期でもあります。心身の変化が大きい上に、社会生活の幅も広がり、学校生活や受験をはじめとする様々なストレスがかかりやすい環境で過ごすことも多く、精神疾患を引き起こしやすい要因でもあります。
こちらの記事では、思春期に見られやすい精神疾患について原因や対処方法ととも解説していきます。
思春期の精神疾患とは?主に6種類
思春期にみられる可能性のある精神疾患について解説していきます。
うつ病
思春期に発症することが多い精神疾患のひとつで、持続的な気分の落ち込み、興味の喪失、エネルギーの低下などが特徴です。
意欲の低下などの精神的な症状から食欲や睡眠への影響も見られます。うつ病は学業や人間関係に大きな影響を及ぼし、最悪の場合、自殺のリスクも高まります。
不安障害
不安障害は、過度の心配や恐怖感が持続する疾患で、思春期の若者に多く見られます。
社交不安障害やパニック障害、全般性不安障害などがあり、これらは学校生活や日常生活に深刻な影響を与えることがあります。
摂食障害
摂食障害は、思春期の女子に特に多く見られる疾患で、食事に対する異常な行動や考え方が、身体や精神に深刻な影響を及ぼす精神的な疾患です。食事に対する異常な執着や体重管理への強い不安が特徴です。
絶食する、大量に食べて自分で吐く、体重や体形への強い不満がある、やせに対し異常な程の強い願望があるなどの症状が見られます。
特に思春期には身体的な変化や感情の不安定さが増すため、摂食障害のリスクが高まると言われています。これらは身体的な健康にも重大な影響を与え、命に関わる場合もあります。
注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDは、注意の持続が困難であったり、過度に多動であったり、衝動的な行動をとる特徴を持つ疾患です。
思春期においては、学業成績の低下や社会的な孤立、対人関係のトラブルなどにつながりやすく、自己評価の低下を招くことがあります。
統合失調症
統合失調症は、思春期後半から青年期にかけて発症することが多い重篤な精神疾患で、現実とのつながりが薄れ、幻覚や妄想、思考の混乱が見られます。
この疾患は、社会生活や人間関係に大きな影響を与え、早期発見と治療が重要です。
適応障害
環境の変化やストレスに適応できずに、抑うつや不安、行動の変化が生じる疾患です。
学校生活のストレスや家庭環境の変化などが原因となることが多く、短期間のうちに症状が現れることが特徴です。
思春期の精神疾患の原因とは?
思春期の精神疾患の原因は多岐にわたります。大きく遺伝的要因、環境的要因、そして生物学的要因に分けることができ、これらが複雑に絡み合って精神疾患の発症に関与していると考えます。
以下、それぞれについて詳しく解説していきます。
遺伝的要因
家族に精神疾患の方がいる場合、遺伝的にその傾向を受け継ぐ可能性があります。例えば、うつ病や統合失調症などは遺伝的要因が関与しているとされています。
うつ病に関しては、一般の発症率は6.5~7.5%とされていますが、片親がうつ病の場合、子供の発症率は10~15%に上昇します。
また、双子の研究でも遺伝の影響が確認されており、一卵性双生児では50%、二卵性双生児では10~25%の確率でうつ病がもう片方にも発症します。このように、それ程強くはないですが、遺伝の関与が研究で示されています。
統合失調症の発症率は人口の約0.7%で、片方の親が統合失調症の場合、子供の発症率は10%、両親が統合失調症の場合は40%となります。
また、統合失調症の兄弟姉妹がいると発症率は約10%です。一卵性双生児では片方が発症すると、もう片方が発症する確率は50%で、遺伝の影響は関与していると言えます。
環境的要因
環境要因とは、家庭環境や社会的な状況、個人が置かれている人間関係や経験など、外部からの影響のことで、特にもの時期は大学受験という大きなプレッシャーがかかっていたり、バイトや予備校などで交友関係が広がり、忙しい時期でもあります。
日々の生活の中でのストレスが、精神的な問題を引き起こすことがあります。社会的なつながりや自己評価の変動も、この時期の心理的な健康に大きく影響を与えます。
生物学的要因
思春期は9〜11歳頃に視床下部がホルモンを放出することで始まり、4〜5年にわたって身体と脳に変化を引き起こします。
エストロゲンとテストステロンが精巣や卵巣で生成され、脳に作用してニューロンの受容体と相互作用し、細胞の機能や接続を変えます。これにより、個人の感情、思考、行動が変化していきます。
また、思春期にはホルモンの変動、身体の成長以外にも脳のさまざまな領域が急激に発達します。特に感情や意思決定を司る前頭前野と、報酬系に関わる辺縁系(特に扁桃体)の発達が顕著です。
この不均衡な発達は、感情のコントロールや衝動的な行動を引き起こしやすくし、精神疾患に関連するリスクを高めます。
注意点としては、遺伝的素因があるからと言って必ず発症するというわけではなく、その他の環境要因などが複雑に影響した結果発症すると考えられています。
思春期の精神疾患の対処法とは?
思春期の精神疾患に対する対処法は、個々の症状や状況に応じて異なりますが、一般的なアプローチや治療法には以下のようなものがあります。
生活習慣の見直し
思春期にみられる精神疾患は多くの要素が影響しているとお話しましました。そのため、根底となる生活習慣の見直しはとても重要です。
十分な睡眠、栄養バランスのとれた食事、定期的な運動を心がけることが、心身の健康に寄与します。
また、十分な休息いがいにもリラックスしてストレスを発散させることができる時間を作ることが重要です。ヨガやその他好きなことに集中すること、趣味を通じたストレス発散が効果的です。
医療機関受診、適切な診断と治療
体調不良や精神的な症状が続いている場合、一度医療機関を受診し適切な診断をつけ、症状改善にむけた治療、対応をすることが重要です。
必要に応じて抗うつ薬や抗不安薬、抗精神病薬などが処方されることがあります。これにより、症状の軽減や改善が期待できます。
サポート体制を整える
精神的な疾患と診断された場合、周りのサポート体制が非常に重要です。家族や友人、信頼できる大人と気持ちを共有し、支え合うことが重要です。
心の内を話すことで、孤独感が和らぎます。また、学校の教師やカウンセラーと連携し、学業や社会生活におけるサポートを受けることも重要です。
もしかしたら起立性調節障害かも
この思春期に見られやすい疾患の一つに起立性調節障害というものがあります。
うつ病などと症状が似ている場合もあり、診断が困難なこともあります。立ち上がると血圧が急激に変化し、めまいやふらつき、失神などの症状が現れることが特徴です。
この障害は、主に自律神経の調整機能が未熟なために起こります。自律神経には交感神経と副交感神経があり、私たちの身体の様々な調整を行っています。調整する機能や一日の中での時間帯でもどちらが優位に働くかがことなります。
本来早朝起床時に活性化するはずの交感神経の活性が遅れ、朝なかなか起きられない、というのがこの病気の典型的な症状の一つです。早朝起床時が最も症状が重く、交感神経の働きが時間とともに増すことで、症状は次第に改善し、午後には本調子に戻ることが多いことも特徴の一つです。
したがって、朝や午前中に症状が重く、次第に軽快する場合、この病気の可能性が高いかもしれません。この病気は特に思春期前後の子どもに多く見られるので、気になる症状がある場合、セルフチェックを行い早期治療を行うことが望ましいです。
下記記事ではセルフチェックについて解説していますので、気になる症状がある方は是非ご一読ください。
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【参考文献】
・厚生労働省
・日本生物学的精神医学会誌