みなさんは起立性調節障害(OD)と呼ばれる病気をご存知でしょうか?
ODは小学校高学年から中学生にかけて発症する身体疾患で、身体の成長に伴って脳と心臓の距離が離れるために生じる病気です。
まれな病気と思われる方もいるかもしれませんが、子供全体の約10%が罹患すると言われているため、ODは多くの子供や親御さんの悩みのタネになるような病気と言えます。
またODにはいくつかのサブタイプが存在し、心拍数や血圧の変化によって起立直後性低血圧、体位性頻脈症候群、血管迷走性失神、遷延性起立性低血圧の4つに分類されています。
中でも体位性頻脈症候群は中学生の女児に多いタイプであり、子供が体位性頻脈症候群と診断され悩んでいる親御さんも少なくないと思います。
そこで、本記事では体位性頻脈症候群について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、体位性頻脈症候群の原因や症状を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
体位性頻脈症候群とは
体位性頻脈症候群とは起立性調節障害の一つで、ODのサブタイプの中では、起立直後性低血圧に次いで2番目に多いタイプです。OD全体の12~13%ほどが体位性頻脈症候群と言われています。
英語でpostural tachycardia syndrome、略してPOTS(ポッツ)と呼び、直訳すると「体位によって頻脈になる症候群」という意味になります。
体位性頻脈症候群と起立性調節障害との違い
結論から言えば、体位性頻脈症候群と起立性調節障害との違いは血圧低下を認めるかどうかです。ODの他のサブタイプでは、どれも起立後の一定期間のうちに血圧の低下を認めますが、体位性頻脈症候群では血圧は変化しません。
本来であればヒトは起立時に血液が重力に伴って下肢方向に多く流れて行きます。これによって、最も高い位置にある脳の血流は低下する傾向にあります。
しかし、それでは脳に栄養が行き届かず、意識消失やめまい・ふらつきなどの症状が出現してしまうため、脳の血流が低下しないように体が自動的に調節してくれます。
この時、脳血流の維持のために活躍するのが自律神経です。特に、自律神経の中の交感神経が活性化することで全身の血管を収縮させ、心臓の拍動を活性化させることで、脳の血流を一定に維持しようと働きます。
しかし、ODでは自律神経の成長が身体の成長に追いつかないため、脳の血流を維持できなくなり様々な症状を引き起こすと考えられています。そのためODでは通常血圧の低下を認め、脳血流が低下して症状が出現します。
体位性頻脈症候群はODの中でも唯一血圧の低下を認めず、主症状は頻脈になります。
体位性頻脈症候群の原因
体位性頻脈症候群の原因は、現在に至るまではっきりと解明されているわけではありません。
一説によれば、脱水やノルアドレナリンの分泌異常、自律神経障害、廃用など幾つかの病態が組み合わさって体位性頻脈症候群を引き起こすと言われています。自律神経障害については前述した通り、交感神経がうまく機能せず脳血流が低下しやすくなるからです。
また脱水になると体内の血液量が減少するため、脳へ血液を送ろうと心臓が代償性に頻脈を引き起こしやすくなります。その他にもノルアドレナリンの分泌異常によって過剰な頻脈が起きている可能性もあります。
また、廃用(使用しない筋肉が萎縮していくこと)によって下肢の筋肉がやせ細っていくと、血管を収縮させる能力が低下し、下肢に多くの血液が流れてしまうため、症状の原因になります。
他にも、近年では自己免疫異常による発症が報告されています。自己免疫異常とは、本来は体内に入ってきた異物を除去するための自己免疫が、異物と自身の細胞を誤認してしまうことで、自己を攻撃してしまう病状を指します。
体位性頻脈症候群において特定の自己抗体が同定されているわけではありませんが、免疫治療が奏効する例が一部存在することから自己抗体の関与が疑われており、今後の研究が期待されるところです。
体位性頻脈症候群の症状
体位性頻脈症候群の主な症状は、起立時の頻脈とふらつき、倦怠感、頭痛などです。では、具体的にどのようなシーンで見られるのでしょうか?
小学生であれば、やんちゃに遊んで急に立ち上がった際に発症することもあります。中学生や高校生であれば学校における全体集合などの長時間の立位などが原因として考えられます。
また、学年によらず電車通学による長時間の立位で発症することもあるため、注意が必要なシーンと言えます。他にも、勉強時の長時間の座位なども発症リスクを高めます。
体位性頻脈症候群のセルフチェック
体位性頻脈症候群はセルフチェック可能です。
主な症状として、立ちくらみやめまい、午前中に優位な不調、起立時の倦怠感や意識消失、動悸・息切れ、食欲不振、易疲労感などを認める場合は注意が必要です。
もちろんこれらの臨床症状から推測も可能ですが、多くの場合は意外にも本人が動悸を自覚していません。しかし、体位性頻脈症候群にはしっかりとした診断の定義があり、セルフチェック可能です。
具体的には、起立後3分での心拍数が115回/分以上、または起立中の平均心拍増加が35回/分以上あれば体位性頻脈症候群と診断します。
さらに、起立後3分での心拍数が125回/分以上、または起立中の平均心拍増加が45回/分以上あれば重症の体位性頻脈症候群と診断します。
脈拍は手首の親指の付け根あたりを走行する橈骨動脈を触ることで数えることができます。
時計を見て1分間の間に何回拍動するかでセルフチェック可能です。気になる方はぜひ一度お調べください。
体位性頻脈症候群の治し方
ここまで伝えたように、体位性頻脈症候群はまだ原因や病態が十分に解明されていないため、有効な治療方法も確立されていません。
症状が出現しないように、日常生活の行動を気をつける非薬物療法が主な治療になります。
例えば、勢いよく立ち上がると脳血流が低下してしまうため立ち上がり方に注意したり、食事や睡眠を適切にとって自律神経のバランスの乱れを整える必要があります。
他にも、脱水予防のために塩分や水分の摂取がおすすめです。また、医療機関では一次的に症状を抑えるための薬物療法として血管収縮薬や心拍数を抑えるような内服療法が行われます。
有効な治療法は個人個人によって異なるため、症状にお困りの方は色々な非薬物療法を実践することをおすすめします。また、今後の病態解明、治療方法の確立、支援体制の確立が急務と言えます。
非薬物療法や薬物療法以外に、学校との付き合い方や学業との向き合い方など、親御さんがサポートできること・サポートすべきことはたくさんあります。
以下の記事では、起立性調節障害の子どもに親ができることについてご紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。