子供の体調不良の中で最も訴えの多い症状は咳嗽や咽頭痛などの上気道症状か、吐き気や嘔吐・腹痛などの腹部症状です。
子供を持つ親御さんであれば、どちらの症状も一度は直面したことがあるのではないでしょうか?
実際に救急外来を受診する小児の中で吐き気や嘔吐を主訴とする子供は全体の20~30%にも及ぶとされ、中にはその原因に重篤な病気が隠れている可能性もあり注意が必要です。
吐き気を催す疾患は主に消化系疾患ですが、中には脳の病気や血液の病気など命に関わる病気の可能性もあります。また起立性調節障害(OD)と呼ばれる病気でも起こりうるため、早期から適切な対応が必要となります。
そこで、本記事では小児の吐き気について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、小児が吐き気を訴える原因や病態を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
「中学生の吐き気が治らない」
その症状、もしかしたら起立性調節障害かも?
1分できる起立性調節障害のセルフチェック方法はこちら↓
吐き気の原因
吐き気の原因は多岐に渡りますが、人間はそもそもなぜ吐き気を催すのでしょうか?
結論から言えば、脳幹部、延髄の外側網様体に存在する嘔吐中枢が刺激されるからです。
心臓や肺、胃腸など内臓からの刺激や化学物質・薬物などの刺激、さらには心理的・精神的な刺激や脳圧亢進などの直接的な刺激を受けて嘔吐中枢が興奮すると吐き気が引き起こります。
例えば、転倒して頭を強打した後に吐き気を感じて嘔吐した経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか?これは転倒時の衝撃で嘔吐中枢が直接刺激されるからです。
また、胃腸などに炎症が生じて分泌されたセロトニンと呼ばれるホルモンが嘔吐中枢を刺激すると、嘔気が出現します。このように、さまざまな経路によって嘔吐中枢が刺激されることで吐き気が出現します。
では、中学生の子供が吐き気を引き起こした場合、具体的にどのような疾患を疑うべきなのでしょうか。
吐き気がする時に考えられる病気
急性胃腸炎
最も代表的な病気として、急性胃腸炎が挙げられます。急性胃腸炎とは、口から侵入した病原菌によって胃や腸に炎症が引き起こる病気です。特に、胃の炎症が強いとうまく食事を十二指腸に送ることができず、胃壁が進展します。
その際に分泌されるセロトニンなどのホルモンによって嘔吐中枢が刺激されるため、吐き気を催します。この時、特に問題となるのは嘔吐症状が強い場合に口からの水分補給や薬の摂取が困難になる点です。
特に、水分摂取ができない場合や下痢を伴う場合は脱水に陥りやすく注意が必要です。子供は成人よりも水分喪失に弱いため、脱水が進行すれば命に関わる危険性もあり、必要に応じて医療機関への受診をお勧めします。
急性虫垂炎
次に、急性虫垂炎、いわゆる盲腸も小児期の代表的な吐き気の原因です。小腸と大腸の間に虫垂と呼ばれる構造物があり、食残や病原菌がたまりやすいため感染を引き起こして虫垂炎に至ります。
急性虫垂炎に伴う症状としては右下腹部が主ですが、中には吐き気が先行することもあります。また随伴する腹痛は発症当初はみぞおちあたりに強く、徐々に右下腹部に移行するという特徴があります。
髄膜炎
次に、髄膜炎という病気も吐き気の原因となります。髄膜炎は脳や脊髄の表面を覆う髄膜になんらかの病原菌が感染し炎症を引き起こす重篤な感染症です。
髄膜に炎症が生じると、脳や脊髄を覆うプールのような役割を担う脳脊髄液の中に免疫細胞である白血球や増殖した病原菌が増え、徐々に脳脊髄圧が上昇して、脳そのものが圧迫されます。
その結果、頭痛やめまいとともに嘔吐中枢が刺激され、吐き気を催すことが多いです。また、髄膜炎の場合は高熱を伴うことが一般的です。場合によって脳そのものがダメージを受けることもあるため、早期からの治療が肝要です。
また、髄膜炎以外にも外傷性くも膜下出血や脳腫瘍など、頭蓋骨内部の圧を上昇させてしまうような疾患は嘔吐中枢が直接刺激され、吐き気を伴う可能性があります。
妊娠
次に、中学生以上の女児の吐き気の原因として案外多いパターンに妊娠が挙げられます。妊娠している場合、妊娠に伴う女性ホルモンのバランス変動によって嘔気が誘発されます。
病気ではありませんが、1つの可能性として念頭に置いておく必要はあります。妊娠の場合、嘔気以外にも月経の乱れ、体重増加、不正出血などの症状が出現します。
精神疾患
また、吐き気は身体の病気だけが原因ではありません。適応障害やパニック障害、摂食障害や不安障害などの精神疾患でも吐き気を催すことがあります。特に、中学生くらいの年代では適応障害や摂食障害は少なくありません。
特に、最近では若者の間で痩せ文化が浸透しており、体重の減少を気にしない子供や身体像に歪みのある子供が増えています。ちょっとでも食事を摂取すると「食べすぎた」と後悔し、吐き気を催したり自ら嘔吐する子供もいます。
腸閉塞
最後に、腸閉塞が挙げられます。腸閉塞とは、その名の通り腸が閉塞してしまい内容物が完全に流れなくなってしまう病気です。原因にもよりますが、最悪の場合緊急手術をしないと命に関わる事もあります。
腸管内に大量の食残や消化液が貯留するため、腸管の伸展に伴いセロトニンが分泌され、嘔吐中枢を刺激します。また物理的にも腸管の内容物が貯留するため、消化管の内圧が上昇することで吐き気を催します。
腸閉塞の場合、吐き気以外にも腹痛、排便障害、腹部膨満などの症状が出現するという特徴があります。
吐き気の治し方
では、それぞれの吐き気の治し方もご紹介します。
急性胃腸炎
まず、急性胃腸炎の場合、基本的には積極的な治療は行わず経過を見ます。人は腸管内に侵入した病原菌を嘔吐や下痢によって自然排泄することができるからです。
また、体内に侵入した病原菌がウイルスであれば自身の免疫能力で打ち勝つことができます。しかし、O-157のような細菌感染の場合は自前の免疫細胞で勝つことは難しく、その場合は抗生物質による治療が必要になります。
また、あまりにも激しい嘔吐症状の場合は水分を十分に摂取できず、飲み薬も内服できなくなるため、点滴治療が必要になります。
急性虫垂炎
急性虫垂炎の場合、治す方法は2つあります。1つは抗生物質を内服、もしくは点滴で投与し虫垂に溜まっている病原菌を退治する方法です。
この場合、一時的に炎症を抑えることができても、いずれまた病原菌が溜まってくる可能性があり、再発リスクは高いです。
それに対し、2つ目は手術で虫垂を切除する方法です。虫垂切除を行えば、再発の心配もなく症状が遷延することもありませんが、自分の子供の体にメスが入ることを嫌がる親御さんも少なくありません。
髄膜炎
次に、髄膜炎の場合は緊急の入院が必要であり一刻を争う治療が必要となります。
髄膜炎が進行して頭蓋骨内部の圧が上昇しすぎると、脳そのものが圧迫されてしまい神経に異常をきたすからです。
そこで、点滴から非常に強力な抗生物質を連日投与する必要があります。
妊娠
妊娠が発覚した場合、吐き気の原因はいわゆるつわりであり、妊娠第4~5週ぐらいから出現します。
この場合、治し方は経過をみるしかありません。妊婦は匂いに敏感になるため、極力生臭い匂いなどは避けるように注意しましょう。
精神疾患
精神疾患が発覚した場合、精神科に受診して適切な治療を行う必要があります。
精神的に追い込まれることが吐き気の原因となるため、抗不安薬などの内服で症状を緩和できる可能性があります。
腸閉塞
最後に腸閉塞による吐き気の場合ですが、腸閉塞の原因によって治し方も異なります。
例えば、腸に激しい炎症が生じて引き起こる麻痺性腸閉塞であれば、炎症を落ち着かせるために点滴治療を行い腸を休ませる必要があります。
その一方で、腸が捻転して血流が途絶え壊死してしまう絞扼性腸閉塞の場合、原因となる腸の捻転を解除する必要があるため緊急手術が必要となります。最悪の場合、完全に壊死した腸は切除する必要があります。
すぐにできる対処法
吐き気は主に胃腸などの消化管における異常に伴うことが多い症状です。
そのため、急性胃腸炎や急性虫垂炎・腸閉塞などの病気が考えられますが、重篤な疾患として髄膜炎やくも膜下出血などの病気の可能性もあり、早期に医療機関への受診が必要となる可能性もあります。
もし吐き気が出て医療機関に受診する前であれば、ご自身でもケアする方法があります。
まず、吐き気に対して不適切な食事摂取は控えましょう。特に脂っこい食べ物は吐き気を増悪する可能性があるため、食べるなら果物や野菜などにしておきましょう。
他にも香辛料や辛い食べ物の摂取は胃が荒れる原因となるため、吐き気を感じている方は控えましょう。
吐き気を通り越して嘔吐を繰り返している場合は危険です。脱水に陥る可能性があるため、早急に医療機関へ受診して点滴治療が必要となります。
また、簡単な吐き気対策としてツボ押しがオススメです。「労宮」と言われるツボは、手を握ったとき人差し指と中指の先端の中間にあるツボ(手のひら)で、自律神経を整え腸をリラックスさせる効果があると言われています。
他にも、足三里(あしさんり)と呼ばれるツボは、膝のお皿のすぐ下、外側のくぼみに人さし指をおき、指幅4本そろえて小指があたるツボで、 胃腸の働きを整え吐き気を抑えるツボとして知られています。
ストレスや疲れで吐き気が出ている場合は、アロマなどのリラックス効果を持つものを利用してリフレッシュすることで改善するかもしれません。
もしかしたら起立性調節障害かも
小児において吐き気をきたす疾患として、起立性調節障害(OD)の可能性もあります。ODとは、小学生高学年から中学生にかけて発症しやすい身体疾患です。
この時期の子供は急激に肉体が成長するのに対して、交感神経や副交感神経などの自律神経の成長が追い付かず、自律神経のバランスが乱れることでさまざまな症状が出現する病気です。
特に、起床時や午前中は十分な交感神経の活性化が得られず、その結果脳血流が低下するため嘔気やめまい、ふらつきなどの症状が出やすく、午後になると症状が改善するという特徴があります。
また、ODによる吐き気の場合、みぞおちあたりにさしこむような腹痛が生じることもあります。これらの症状を認める場合、ODの可能性が高く、早期から対策する必要があるため、医療機関に受診しましょう。
ODには他にも様々な特徴や症状があり、医療機関に受診する前に自宅でも簡単にセルフチェックすることができます。
下記記事では起立性調節障害のセルフチェックをすることができます。ぜひ参考にしてみてください。