起立性調節障害(OD)は、小学校高学年から中学生ごろの思春期に発症しやすく、めまいやふらつき、吐き気、腹痛、起床困難などの症状が現れる身体疾患です。
朝や午前中に症状が強く、午後になると改善することが多いため、周囲から「怠けている」と誤解されることがあります。しかし、叱責や無理強いによるストレスは症状を悪化させる可能性があるため、病気への理解が必要です。
ストレスへの反応には、自律神経やホルモン、セロトニンなどの神経伝達物質が関係しています。ただし、セロトニンを増やすことでODが直接改善するとは限りません。
本記事では、セロトニンとストレスの関係や、ストレスがODに与える影響、生活の中でできる対策について解説します。
セロトニンとストレスの関係
まずはじめに、ストレスについて分かりやすく解説します。「ストレスが溜まっている」「ストレスでイライラする」といった言葉をよく耳にしますが、ストレスという目には見えないものを、どこまで理解しているでしょうか?
身体的、もしくは精神的なストレスが加わったとき、人間の体には様々な反応が起こります。その代表的な反応の1つとして、まず交感神経系の活性化が挙げられます。ストレスを感じると、脳の視床下部などを介して交感神経が刺激されます。
交感神経とは、副交感神経とともに自律神経を構成する神経の1つであり、血圧、脈拍、呼吸、内臓の運動、睡眠、体温、排尿、排便などの様々な生理機能を調節しています。
ストレスによって交感神経が刺激されると、ストレスに対応できるように血管が収縮して血圧が上昇し、心臓が刺激されて脈拍が増加します。また、呼吸が速くなったり、消化管の働きが抑えられたり、身体が覚醒しやすい状態になったりします。
2つ目として、視床下部・下垂体・副腎皮質系の活性化が挙げられます。ストレスが加わると、脳の視床下部からCRHと呼ばれるホルモンが分泌され、脳の下垂体が刺激されます。次に、下垂体からACTHと呼ばれるホルモンが分泌され、副腎皮質が刺激されます。
刺激された副腎皮質からは、コルチゾールと呼ばれる、いわゆるストレスホルモンが分泌されます。コルチゾールには、血糖値や血圧を維持し、たんぱく質や脂質の代謝、免疫反応などを調節する働きがあります。
これらはストレスへ対応するために必要な生体反応ですが、強いストレスが長期間続くと、血圧や血糖値、睡眠、免疫機能などに影響を及ぼす可能性があります。
3つ目として、セロトニンを含む神経伝達物質への影響が挙げられます。セロトニンは、世間では「幸せホルモン」と呼ばれることもありますが、正確にはトリプトファンという物質を原料にして作られる神経伝達物質の1つです。
神経伝達物質とは、脳内などで神経細胞から神経細胞へ情報を伝える物質です。セロトニンはうつ病とも関係していますが、うつ病は単純にセロトニンが分泌されなくなることで発症する病気ではありません。
慢性的なストレスは、炎症性サイトカインなどを介してトリプトファンの代謝に影響を与え、セロトニンの合成や神経伝達に変化を及ぼす可能性があると考えられています。ただし、その仕組みは複雑であり、すべての人でセロトニンが低下するとは限りません。
セロトニンは、気分や食欲、睡眠、痛みの感じ方などの調節に関係しています。そのため、ストレスによってセロトニンを含む神経伝達の働きに変化が生じると、気分が不安定になったり、不安感を感じやすくなったりする可能性があります。
このように、ストレスを受けると、交感神経やホルモン、神経伝達物質などを介して様々な生体反応が起こります。では、ストレスは起立性調節障害に対して、どのような影響を及ぼすのでしょうか?
ストレスと起立性調節障害の関係
前述したように、起立性調節障害は小学校高学年から中学生ごろの思春期に発症しやすく、起立時の血圧や心拍数を調節する自律神経の働きがうまく機能しないことで、様々な症状が現れる身体疾患です。
起立時には、重力によって血液が下半身にたまりやすくなり、心臓へ戻る血液量や脳への血流が一時的に低下します。通常は自律神経が働き、血圧や心拍数を調節することで脳への血流を保っています。
具体的には、起立時に交感神経が活性化することで下半身の血管を収縮させ、心拍数などを調節し、血圧や脳への血流が大きく低下することを防いでいます。
しかし、起立性調節障害ではこの調節が適切に働かず、血圧が低下したり、心拍数が過度に増加したりします。そのため、起床後や起立時、午前中に症状が出やすく、ふらつき、吐き気、嘔吐、めまい、腹痛、起床困難などの様々な症状が現れます。
起立性調節障害では、朝や午前中に症状が強く、午後になると改善する傾向があります。そのため、周囲からは「午前中はだらだらしているだけ」と誤解されてしまうことがあります。
その結果、発症早期には病気だと気づかれず、親御さんが子どもを叱責してしまうケースも少なくありません。しかし、叱責や無理強いによって心理的な負担が増えると、症状が悪化する可能性があります。
起立性調節障害は身体疾患ですが、心理社会的なストレスも発症や症状の悪化に関係する要因の1つです。ストレスは自律神経や睡眠、生活リズムなどに影響を与え、結果として起立性調節障害の症状を強めることがあります。
ただし、ストレスだけが起立性調節障害の原因になるわけではありません。身体の成長や体質、水分不足、活動量の低下など、複数の要因が関係すると考えられています。
以上のことから、起立性調節障害の子どもに対しては叱責するのではなく、本人のつらさを受け止め、症状や体調に合わせて接することが大切です。
起立性調節障害ではストレスへの配慮も重要
ODの治療では、病気への理解を深め、水分・塩分摂取や生活リズムの調整、無理のない運動などの非薬物療法に取り組むことが重要です。
あわせて、家庭や学校でのストレスを減らし、子どもの状態に応じて負担を調整することも大切です。
セロトニンは気分や睡眠などに関係していますが、セロトニンの分泌を促すことでODの症状が直接改善するという十分な根拠はありません。生活習慣の見直しは、セロトニンを増やすことだけを目的とせず、体内時計や睡眠、心身の状態を整えるために行いましょう。
セロトニンの働きを支える生活習慣
セロトニンの働きを支え、生活リズムを整えるためには、光の浴び方や食生活を見直すことが大切です。ここでは、日常生活で取り入れやすい方法を紹介します。
朝に光を浴びる
朝から午前中に光を浴びることは、体内時計を整え、睡眠と覚醒のリズムを調整するうえで役立ちます。
起床後にカーテンを開け、体調に無理のない範囲で15〜30分程度屋外の光を浴びることから始めましょう。太陽や照明を直接見つめる必要はありません。
光療法では、目安として2,500〜10,000ルクス程度の照明が使われますが、照度によって照射時間が異なります。自己判断ではなく、医師の指導のもとで行うことが大切です。
起立性調節障害に対する光療法の方法や注意点について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
バランスのよい食事を取る
セロトニンの原料となるトリプトファンは、大豆製品や乳製品、卵、穀類、ごま、ピーナッツ、バナナなどに含まれています。
ただし、特定の食品を多く食べれば、脳内のセロトニンが増えてODが改善するとは限りません。主食・主菜・副菜をそろえ、無理のない範囲でバランスよく食べることを心がけましょう。
起立性調節障害の子どもに必要な栄養素や、積極的に取り入れたい食べ物について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
食生活以外にも、起立性調節障害では生活習慣の調整や症状に応じた治療を組み合わせることが大切です。具体的な治し方や家庭でできる対応については、下記の記事も参考にしてください。








