- 目の前の人が急にフッと倒れてしまった
- トイレで物音がしたら家族が倒れていた
人生でこのような状況に出くわしたことがある方も少なくないのではないでしょうか?
一般的に失神とは「一過性の意識消失」と定義されており、あくまで症状は短時間(数秒から数分)で改善します。
似たような症状に「意識障害」が挙げられますが、意識障害は長時間(数時間以上)意識が失われた状態を指し、失神とは明確に異なる病態を示します。
失神の原因は心臓が原因となる循環不全、もしくは自律神経系の異常反応の2つに大別されます。特に、後者を神経調節性失神といい、多くの方の意識を消失させる原因となっています。
高齢者や持病を持つ方はもちろんのこと、若者や中高生でも神経調節性失神によって失神することがあります。
そこで、本記事では神経調節性失神について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、子供が急に意識消失する原因や病態を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
神経調節性失神とは
神経調節性失神とは自律神経の乱れによって脳血流が低下し、一時的に脳が虚血に陥ることで失神する病気のことです。
脳は非常に酸素需要の高い臓器であり、酸素を多分に含んだフレッシュな血液が常に心臓から供給されていないと、すぐにシャットダウンしてしまいます。
そこで、通常は意識を保つために自律神経(交感神経と副交感神経の総称)が働くことで脳血流を常に一定に保っています。わかりやすい例として、入浴後に湯船から急に立ち上がったときのことを思い出してみましょう。
湯船から急に立ち上がると、これまで低い位置にあった脳が一気に高い位置に上がり、さらに下肢の血管が普段よりも拡張しているため、一気に血液が下肢方向に流れ込み脳血流が低下します。
シャワー浴ではふらつくことは少ないですが、湯船から上がるとふらつきやすいのはこのためです。しかし、実際に私たちが日常的に入浴後に失神することはありません。
毎回入浴後に失神しなくて済んでいるのは、実は無意識に働いてくれている交感神経のお陰です。交感神経がすぐさま活性化し、全身の血管を収縮させて心臓にムチを打つ事で脳血流を保ちます。
しかし、神経調節性失神では交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、正常な反応が起こらなくなるため、ふとした機会に脳血流が低下してしまい失神に至ります。
交感神経と副交感神経はまるでシーソーのような関係にあるため、神経調節性失神は交感神経の不活化、もしくは副交感神経の異常な活性化によって引き起こります。
神経調節性失神の原因
神経調節性失神は原因別に血管迷走神経反射・状況失神・頸動脈洞症候群の3つに分類されます。
血管迷走神経反射は、さまざまな要因によって交感神経が抑制され、血管拡張と迷走神経緊張による徐脈が引き起こり生じる失神です。
本来、交感神経は血管を収縮させ、心臓にムチを打ってより強く早く収縮させる作用を持ちます。緊張した時や血圧が下がった時は交感神経が活性化し、血管を収縮させて脈拍を増加させ血圧を維持しようと働きます。
例えば、長時間のサウナで大量に発汗したときに脈拍がどんどん早くなることも、血圧が下がらないように交感神経が活性化しているためです。
このように、血圧低下を代償するために働く交感神経が抑制されると、血圧とともに脳血流も低下してしまいます。
血管の拡張と徐脈のWパンチによって非常に脳血流が低下しやすい状態になります。血管迷走神経反射が起こりやすいシチュエーションとしては、異常な精神的ストレスや同一姿勢の長時間の維持などが挙げられます。
それに対し、状況失神とはある特定の状況または日常動作で誘発される失神です。特に副交感神経の活性化しやすい排尿、排便、嚥下、咳嗽、 息こらえ、嘔吐などが誘発因子となります。
頸動脈洞症候群の「頸動脈洞」とは、頚動脈に存在する圧センサーのことです。心臓から駆出される血液の圧を頸動脈洞が感知して、圧が不足していると判断すれば心臓にムチを叩き、圧が高いと判断すれば心臓の運動を抑制して血圧を調整してます。
そのため外部から不用意に頸動脈洞が圧迫されると、急激に心臓の運動が抑制されてしまい脳血流が低下するため、失神を引き起こします。
どの病態にも共通して言えることは、血管の拡張と心臓の運動抑制が複合的に引き起こると言うことです。
神経調節性失神の症状
血管迷走神経反射では、異常な精神的ストレスや同一姿勢の長時間(30秒以上)の維持がトリガーとなり、血圧の低下と徐脈傾向、発汗やほてり・嘔気・顔面蒼白などの症状を伴う失神を認めます。また、前兆症状として腹部の不快感を認めることもあります。
次に、状況失神や頸動脈洞症候群でも同様に一過性の血圧低下や徐脈を認めますが、状況失神では排便や排尿、嚥下時に症状が出現する特徴があり、頸動脈洞症候群では頸部圧迫時に症状が出現します。
神経調節性失神のセルフチェック
神経調節性失神は症状や体の状態からある程度セルフチェックが可能です。満員電車や朝礼など長時間の立位で体調を崩しやすい方やめまいを自覚する方は注意が必要です。
さらに、健常者よりも自律神経のバランスが不安定になりやすいため、ストレスや疲れによって体の不調が出やすい方も神経調節性失神の可能性があります。
また、気温が高いと脱水になりやすい上に血管も拡張するため、脳血流が低下しやすく、上記の症状が温かい日や暑い環境下で出現しやすい方は要注意です。
これらの症状が複数当てはまる方は神経調節性失神をはじめとする自律神経系疾患の可能性が高いため、専門の医療機関を受診しましょう。
神経調節性失神の治し方
神経調節性失神に対する特効薬などは存在しません。そのため、失神を頻回に繰り返す方はしっかりと病態を理解し、自身の症状が誘発されにくい環境作りや誘因の排除が最優先です。
例えば、頸動脈洞症候群では頸部の圧迫を避けることが重要です。また、状況失神が多い方では、排便や排尿後に慎重に立ち上がることで脳血流の低下をある程度抑制できます。
また、前兆症状を認めた場合はすぐに横になる、もしくは頭を低い位置にして脳血流の改善に努めましょう。夏場や熱い環境下では脱水に陥りやすく脳血流も低下しやすいため、積極的な水分摂取も重要です。
神経調節性失神は、失神時に頭部を打ち付けて脳出血や脳挫傷などの頭部外傷を併発する可能性もあります。そのため、頻回に繰り返す場合は必ず医療機関に受診して相談するようにしましょう。
特効薬ではありませんが、一時的に脳血流を増加させることができる薬を用いた薬物療法などもあるため、大事に至る前に適切な対応を取ることが肝要です。
起立性調節障害の疑いもあるため要注意
同じような症状をきたす疾患として起立性調節障害(OD)が挙げられます。起立時や起床時に繰り返すふらつき・めまい・嘔気などを認める場合は注意が必要です。
ODは小学生高学年や中学生の育ち盛りの子供に発症しやすい病気であり、身体の成長に自律神経の発達が追いつかず、さまざまな症状をきたす疾患です。成長に伴い心臓と脳の距離が急速に離れることが発症の誘因と考えられています。
ODの子供の場合、特に午前中や起床時に交感神経が活性化してこないため、起立時のふらつきやめまいが午前中に強く、午後や夕方以降になると改善するという特徴があります。
全体で約10%の子供に発症する疾患であり、決して稀な疾患ではないため、子供に同様の症状を認める場合は早期に医療機関を受診しましょう。
体位性頻脈症候群と起立性調節障害との違い
今回ご紹介した神経調節性失神の主な病態は、血圧低下と脈拍低下に伴う脳血流の低下でした。それに対し、ODの中には起立時に血圧低下は認めないものの異常な脈拍増加によってふらつきや動悸・頭痛を自覚するサブタイプもあります。
これを体位性頻脈症候群といい、ODの4つのサブタイプ(起立直後性低血圧・体位性頻脈症候群・血管迷走神経性失神・遷延性起立性低血圧)のうちの1つです。
症状が午前中に強い点や自律神経の乱れが原因である点はODと同様です。しかし、ODのそのほかのサブタイプや神経調節性失神と比較して血圧の低下を認めないという点が異なります。
このように、自律神経の不調が原因であるODのような病気は出現する症状に個人差があり、さまざまな病型を持っています。自分で診断をつけることは難しいため、疑わしい場合は医療機関に受診しましょう。
また、医療機関を受診する前に自宅でもある程度セルフチェックすることができます。下記記事では起立性調節障害のセルフチェックをすることができます。ぜひ参考にしてみてください。