起立性調節障害(OD)とは、小学生や中学生が罹患しやすい身体疾患であり、身体の成長に自律神経の発達が追いつかないことで自律神経が乱れ、さまざまな症状をきたす疾患です。
自律神経とは副交感神経と交感神経の総称であり、その時の体の状態に合わせて、消化管の運動や睡眠・覚醒度の調節、発汗などさまざまな生理機能をコントロールしていますが、特に血圧や脈拍の調整が重要な機能です。
ODでは、特に起立時の血圧低下や頻脈によって脳血流が維持できなくなり、症状が出現します。自律神経の乱れを改善させるような薬はないため、多くのODの子供は日常生活から脳血流を維持するような非薬物療法を実践しています。
しかし、中には重症化する子供もいて、その場合は症状を緩和させるために薬物療法として飲み薬を内服するケースもあります。自律神経を整えてくれるわけではありませんが、脳血流を改善させて一時的に症状を緩和する効果が期待できます。
本記事ではODに対する薬物療法の中でもアメジニウムメチル硫酸塩について分かりやすく解説していきます。アメジニウムメチル硫酸塩を使用する子供の実際の声も紹介しますので、治療の一助となれば幸いです。
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アメジニウムメチル硫酸塩とは?
アメジニウムメチル硫酸塩とは1969年にドイツで合成・開発された経口低血圧症治療剤であり、現在では日本国内でも本態性低血圧や起立性低血圧の治療、もしくは透析施行時の血圧低下の改善のために用いられています。
アメジニウムメチル硫酸塩の作用機序を理解するためには、交感神経の成り立ちを理解する必要があります。交感神経は小さい神経細胞が連なったものであり、中間にある交感神経節を境に節前線維と節後線維に分かれます。
神経細胞は細胞体・軸索・神経終末という構造を成しており、細胞体から軸索を経由して電気信号が伝導し、神経終末から神経伝達物質を放出します。神経伝達物質は次の神経細胞の細胞体にキャッチされ、次の神経細胞へ伝導されていく仕組みです。
節前線維では、神経細胞間の刺激伝達のために神経終末からアセチルコリンが分泌されます。手前の神経細胞からアセチルコリンが分泌され、その次の神経細胞の受容体にアセチルコリンが取り込まれることで、刺激が伝達されます。
一方で、節後線維では刺激伝達のために神経終末からノルアドレナリンが放出されます。節前線維と同様に、神経終末から放出されたノルアドレナリンは次の神経細胞、もしくは支配臓器の受容体に取り込まれることで、刺激が伝達される仕組みです。
例えば、血管の受容体にノルアドレナリンが取り込まれると、血管が収縮して血圧が上昇します。では、アメジニウムメチル硫酸塩はどのように作用しているのでしょうか?
アメジニウムメチル硫酸塩は、ノルアドレナリンと競合して末梢の神経終末に取り込まれ、ノルアドレナリンの神経終末 への再取り込みを抑制すると共に、神経終末においてノルアドレナリンの不活性化を抑制 し、交感神経機能を亢進させます。
わかりやすく言えば、神経伝達物質であるノルアドレナリンの神経終末における濃度や効果を高めることで血管を収縮させ、血圧を上昇させる効果が期待できる薬なのです。
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起立性調節障害にアメジニウムメチル硫酸塩は効果がある?
起立性調節障害に対するアメジニウムメチル硫酸塩の投薬は、ODに対する内服療法の中では第2選択薬として扱われています。そもそも、ODを根治させてくれる特効薬などは存在せず、あくまで症状を緩和するための投薬となります。
第1選択薬はミドドリン塩酸塩と呼ばれる薬であり、ODのサブタイプに関わらず使用される薬です。ミドドリン塩酸塩は血圧を上昇させる薬であすが、即効性にかけるため、持続的な内服が必要となります。
一方で、アメジニウムメチル硫酸塩は容量依存性に血圧の上昇効果をもたらすため、最初は少量から内服することを勧めます。特にODでは朝に症状が強いことから、起床時の内服が一般的です。
ちなみに、日本での保険適応疾患は「本態性低血圧」「起立性低血圧」「透析施行時の血圧低下の改善」の3つですが、ODの病態が「起立性低血圧」とほとんど同一であることから、ODに対してアメジニウムメチル硫酸塩の処方は審査上問題ありません。
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アメジニウムメチル硫酸塩で期待できる効果
前述したように、アメジニウムメチル硫酸塩は交感神経終末におけるノルアドレナリンの再取り込み阻害・不活化の抑制によって、交感神経の機能を亢進させる効果が期待されます。
そのため、内服することで交感神経が優位となり、さまざまな効果が期待されます。特にODの症状を改善させる効果としては、血管収縮作用と心機能を上げる効果です。
ノルアドレナリンが血管のα受容体に取り込まれると、血管が収縮し、血圧が上昇します。これによって、脳への血流が維持されるためODの症状を緩和する効果が期待できます。
次に、ノルアドレナリンが心臓のβ受容体に取り込まれると、心臓の収縮力や心拍数が増加し、より強く・良い早く血液を全身に駆出できるようになるため、脳への血流も維持されやすくなります。
一方で、飲み薬は全身に行き届くため、心臓や血管以外の臓器にも影響を与えます。交感神経が優位になると、消化管や尿路の運動は不活化するため、便秘や嘔気嘔吐、排尿障害などの副作用が生じる可能性もあります。
アメジニウムメチル硫酸塩の服用対象者
では、どのような方がアメジニウムメチル硫酸塩による治療対象となるのでしょうか?
基本的には、ODによって起床時に血圧低下を認める子供が対象となります。前述したようにODに対する内服療法の第1選択はミドドリン塩酸塩であり、ミドドリン塩酸塩による治療で改善しない場合はアメジニウムメチル硫酸塩の使用を検討します。
ミドドリン塩酸塩は純粋な血管収縮剤であり、心臓の機能を亢進させるような作用は持ちません。アメジニウムメチル硫酸塩には心臓の機能を亢進させる作用もあるため、より脳血流が増加する効果が期待できます。
一方で、心臓を刺激することで頻脈を誘発する可能性があり、ODのサブタイプのうち、心拍数が急激に増加する体位性頻脈症候群の場合は動悸が悪化する可能性があり注意が必要です。
また、心臓の機能に問題がある子供や甲状腺機能が亢進している子供、ノルアドレナリンなどのカテコラミンを産生する腫瘍(褐色細胞腫など)を持つ子供では使用を控えるべきです。
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アメジニウムメチル硫酸塩を服用した方の声
最後に、実際にODの症状に対してアメジニウムメチル硫酸塩を使用している子供の声をご紹介します。
「ミドドリン塩酸塩ではイマイチだったけど、アメジニウムメチル硫酸塩に変えてから明らかに頭痛やめまいが軽減した」「少し脈が早くなったけど、そこまで副作用を感じずに治療できた」など、一定の効果を実感できている方も多いようです。
一方で、「ミドドリン塩酸塩もアメジニウムメチル硫酸もほとんど効果を実感できなかった」「効果が出るまでに2時間近くかかり、起きてから動けるまで時間がかかる」などの声もあり、その効果については個人差も大きいように感じます。
起立性調節障害の治療には確立された治療法はなく、薬物療法以外にも疾患への理解を深め、非薬物療法を日常的に実践することが重要です。
下記記事では起立性調節障害の治し方についてさらに詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
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