◆「起立性調節障害が治った人の声」をご紹介
こちらの記事では「起立性調節障害の子どもに対して親ができること」解説
【医師解説】起立性調節障害はプロテイン(タンパク質)で症状が改善されるの?
タンパク質という言葉を聞いたことはあると思いますが、具体的に体内でどんな機能を果たしているのか説明できる人は少ないと思います。
タンパク質は体の組織や臓器、細胞を作る上での元となる栄養素です。タンパク質が不足するとこれらの組織が十分に形成されなくなってしまうのです。
しかし、実際に成長期の子供が十分なタンパク摂取量を普段の食事で満たすには、ある程度適切な食生活を意識しなくてはタンパク質が不足する可能性が高いのが現状です。
特に思春期の子供は早起きが苦手で朝ごはんを食べなかったり、食べるものに好き嫌いがあって偏食になる可能性があるので、タンパク質の摂取量が不足する可能性が高い年齢でもあります。
起立性調節障害(OD)は、タンパク質の不足がその症状を増悪させる可能性がある疾患の1つです。逆に言えば、起立性調節障害の症状に苦しむ子供にとって、タンパク質の補充で症状が改善する可能性があります。
そこで本記事では、起立性調節障害に対するタンパク質補充療法が実際に効果があるのか、またその理由などをわかりやすく解説していきます。
プロテイン(タンパク質)で起立性調節障害の症状を改善する可能性あり
結論から言えば、タンパク質が不足している患者であればタンパク質の補充により起立性調節障害の症状が改善する可能性があります。なぜ筆者が上記のような結論を付けているのか解説する前に、子供のタンパク質摂取に現状とそれに伴う体調の変化について解説していきます。
冒頭でも述べたように、タンパク質は体内の細胞の骨格の元となり、ありとあらゆる臓器や組織の元になっています。特に、筋肉組織は多くのタンパク質から成り立っています。
厚生労働省が2020年に発表した『日本人の食事摂取基準 2020年版』によれば、タンパク質の1日必要量は、3-5歳で25g、6-7歳で30g、8-9歳で40g、10-11歳で45g、12-14歳で60g、12-7歳で65gとされています。
起立性調節障害に罹患しやすい年齢は小学生高学年から中学生であり、1日のタンパク質必要量が45gから60gと急速に増加しているのがわかります。逆に言えば、この時期に肉体が必要とする量を供給しきれない可能性が高まります。
次に、具体的に食事に含まれるタンパク質の量をご紹介します。例えば、200mlの牛乳には6.6g、肉類100gには14-20g、魚類100gには25g程度で、比較的豊富なタンパク質が含まれています。
逆に、米100gには2.5g、パン100gには9g、緑黄色野菜100gには1-3gと、多くの食材や調味料にはそこまでのタンパク質は含まれていません。
つまり、肉体が急激に成長する小学生高学年から中学生にかけては急激にタンパク質必要量が増加し、普段の食事から必要量を満たすにはある程度高タンパクな食事を意識して摂取する必要がある事がわかります。
では、タンパク質の摂取不足は肉体にどういった影響を及ぼすのでしょうか。
前述した通り、タンパク質は細胞の骨格を形成するもとであり、特に筋肉を作るには多くのタンパク質が必要となります。また、人間はタンパク質を分解して燃焼する事でエネルギーを生み出して、日常生活や運動などの負荷に耐えています。
タンパク質が不足すれば筋肉は衰え、さらにエネルギー不足で様々な症状が出現します。タンパク質不足による症状は起立性調節障害による症状と類似しているため、起立性調節障害の症状がある子供にとってタンパク質不足はその症状を増悪させる可能性があるのです。逆に言えば、タンパク質を補充することで症状が改善することもあり得ます。
プロテイン(タンパク質)が起立性調節障害に効果的な理由
では、次にタンパク質の補充がなぜ起立性調節障害の症状に効果的なのか、その理由を2つに分けて説明していきます。
そもそも起立性調節障害の本態は、自律神経の乱れと肉体の成長によるミスマッチです。小学生高学年から中学生にかけての急激な肉体の成長に対して、自律神経の発達が追いつかず、結果的に様々な症状が出現します。
自律神経のバランスが崩れることで、起床時に交感神経が強く働かず脳血流が低下してしまうため、ふらつきや倦怠感などの症状が出ます。更に症状が進行すると意識障害やめまい、嘔気などの症状も出現します。
神経と神経の間にドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が放出されることで神経間の情報が伝達されます。しかし、タンパク質が明らかに不足している子供では、神経伝達物質の生合成に支障をきたすため、うまく神経間での情報伝達ができ無くなります。その結果、うまく自律神経が働かなくなってしまい起立性調節障害の症状を増悪させてしまう可能性があります。
さらに、起立性調節障害の子供は食欲低下、食思不振を併発しやすいため、食事摂取量が低下してしまいタンパク質の摂取量が低下してしまう可能性が高くなります。
これらの理由から、起立性調節障害の子供はタンパク質が不足しやすく、タンパク質の補充で症状が改善する可能性が高まるのです。これが1つ目の理由です。
次に、タンパク質不足に伴う筋力低下は直接的に起立性調節障害の症状を増悪させてしまいます。本来、人間の体内の血流は、起立時になると重力に従い足に多く取られてしまいます。
しかし、それでは重要な臓器である心臓や脳への血流を担保できなくなるので交感神経の働きが強くなり、足の血管を収縮させたり、心臓の働きを強くさせてより早く鼓動させます。
その結果、脳への血流が保たれてふらつきや倦怠感を感じずに済むのです。しかし、起立性調節障害では交感神経の働きが強くならないため脳血流が低下してしまうのです。
タンパク質不足に伴う筋力低下は、足の筋肉量が低下するため足の血管の収縮がうまくできなくなり、結果的に起立性調節障害の症状を増悪させてしまいます。逆に十分なタンパク質摂取により筋肉量があれば、足への血流を最小限に抑えることで症状を改善させる可能性が高まるのです。これが2つ目の理由です。
これら2つの理由から、タンパク質の摂取は起立性調節障害の症状を改善させる効果があると言えます。とりわけタンパク質が不足している子供では特に効果があると言えます。
実際に、子供に対して採血検査などで不足している成分を調べ、それらを重点的に補充する食事療法はすでに一定の効果が報告されています。タンパク質補充療法を治療の選択肢に加えるのも一つの手段かと思います。
ちなみに食事療法では、タンパク質以外にもドーパミンの合成に関わる鉄分や、神経伝達物質の合成に関わるナイアシンなどのビタミン類も補充します。
下記記事では起立性調節障害に対する食事療法について解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
下記記事では「起立性調節障害の子供に対して親御さんができること」をまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
【参考】
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)