起立性調節障害と診断されて通院しているが、なかなか薬を飲んでも症状が良くならないことは、残念ながら実は少なくありません。
処方された薬をしっかりと飲んでいるにも関わらず体調不良が続き、症状がおさまらない場合、お子さんもご家族も非常に不安になると思います。
本記事では、起立性調節障害で薬は効果があるのか、効果がない場合はどの様に対応すればよいかなどについて解説していきます。少しでも参考になりましたら幸いです。
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起立性調節障害に薬は効かない?治らない?
起立性調節障害は自律神経である交感神経と副交感神経の調整のバランスが崩れることで様々な症状が見られる病気です。したがって、根本的に起立性調節障害を治そうと思うと、理論的には自律神経を整える治療薬を使用することになります。
しかし、現実には自律神経を直接整える薬剤はありません。一般的に、起立性調節障害の治療に用いる主な薬は、血圧や脈を調整するミドドリン塩酸塩やメチル硫酸アメジニウム、プロプラノロール塩酸塩です。
これに、不眠が見られる場合は睡眠薬など対症療法としての薬剤が追加されます。
これら西洋の薬剤で治療効果に乏しい場合は、漢方薬を使ってみることも選択肢となります。西洋の薬剤で症状が良くならない場合でも、漢方薬で楽になったという方もおられるので、一度試してみると良いでしょう。
起立性調節障害で使用すると効果的な漢方薬については、下記の記事でご説明しております。是非参考にしてみてください。
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起立性調節障害が薬で治らない場合に考えられる原因
起立性調節障害で内服治療をしているのになかなか症状が改善しない場合、実は別の問題が起きている可能性がまず考えられます。別の問題とは、貧血やけいれん、不整脈などの心臓の問題、甲状腺の問題などです。
起立性調節障害は思春期前後の子どもに多い病気であり、ちょうどこの時期成長とともに鉄欠乏性貧血になりやすい時期でもあります。
貧血があると、めまいや立ちくらみ、身体のだるさなど起立性調節障害のよく似た症状が現れます。けいれん発作の後にぐったりしてしまい、全身の倦怠感なども見られますし、不整脈や甲状腺の問題がある場合も脈の異常からめまいや全身の倦怠感などの症状が見られます。
これらの症状は最初に起立性調節障害の診断をする際に検査を行い除外しますが、治療が始まっても症状が改善しない場合は、今一度見直してもいいかもしれません。
その他考えられる原因としては、精神的な要素が非常に強いことや実はお薬を飲めていないことなどが考えられます。起立性調節障害のお子さんの中には精神的な要素が強いためなかなか薬が効きにくい方もおられます。
また、これに関連して、主治医の前ではお薬を飲んでいると言っても、実は飲んでいないこともあります。この様な状況に至る心理状況は様々ですが、起立性調節障害と診断されたことで実はすこし安心した部分もあるかもしれません。
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起立性調節障害は薬以外の非薬物療法で治療することが一般的
起立性調節障害の治療は大きく薬物療法と非薬物療法の2つがあります。起立性調節障害で特に重要なのが、実は非薬物療法と言われています。
薬物療法を行ったとしても、非薬物療法と併せて行うことで効果が十分に発揮されるため、非薬物療法は非常に重要な位置付けにあります。
薬以外の非薬物療法で起立性調節障害を治す方法
薬物を使用しない非薬物療法ですが、どの様なものがあるかご紹介していきます。
光療法
私たちの睡眠は光と密接に関係しています。睡眠のみならず、体内時計を適切に保つために光は非常に重要な働きをしています。まず、睡眠のメカニズムについてご説明します。
メラトニンという物質が私たちの睡眠に深く関与しています。メラトニンは脳内から分泌される眠りを司るホルモンです。1日中メラトニンは分泌されていますが、朝方は分泌が弱まり、夜は分泌が高まることで睡眠へと導きます。メラトニンの分泌が睡眠と覚醒のリズムを作り出し、私たちの体内時計も適切にコントロールしています。
想像がつきやすいかもしれませんが、睡眠と覚醒のリズムを作り出すメラトニンの分泌は光とも密接に関係しています。光を浴びることでメラトニンの分泌は抑えられます。
つまり、日中は日光をたくさん浴びることでメラトニン分泌が抑えられ、日が沈んだのち、夜間はメラトニン分泌が増え睡眠へと誘導します。日中にしっかり日光に浴びることが夜間の睡眠につながっていくのです。早朝起床後日の光を浴びることで体内時計がリセットされ、睡眠のルズムも整いやすくなります。
光療法は起床後や朝方に光を与えることで、乱れた体内時計をリセットし、適切な睡眠を取り戻すことが可能な治療方法です。
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食事療法
健康を維持・増進すること、病気を改善させることの両方に重要なのが食事療法です。起立性調節障害でも同様に食事療法はとても重要です。バランスの良い食事摂取を心がけて頂き、特に摂取してほしい栄養素については下記のものがあります。
- タンパク質:私たちの身体の臓器やホルモンなど様々な物質を構成しており、疲労回復、傷の修復などの効果があります。
- 鉄分:赤血球の構成成分で、貧血の予防に重要です。
- 亜鉛:エネルギー代謝や免疫反応など体内の様々な代謝活動をサポートしています。
- ビタミンB1:身体の糖代謝に重要で、エネルギーを作り出すことにも重要な物質です。
運動療法
適切な運動習慣を身につけることは自律神経のバランス乱れを改善させる効果があります。
特に起立性調節障害の場合、下肢の筋力を中心に鍛えると効果的です。起床時や起立時、血圧が下がらないために重要な働きをするのは、交感神経だけではありまでん。下肢の筋肉も収縮することにより、下肢の血管を収縮させ、血圧を維持しています。
運動習慣をつけ、下肢の筋力低下を防ぐことが症状改善に重要です。無理に過剰な筋トレなどをする必要はなく、少し早歩きで散歩をする程度で十分に効果があります。体調と相談しながら、継続することを心掛けましょう。
起床時、起立時は頭を下げ、急に立ち上がらない
起立性調節障害の場合、早朝起床時の時間帯や体位を変換するポイントで症状が出現します。一般的に、起床時や起立時は交感神経の働きにより、末梢の血管を収縮し血圧が下がらないように調整がなされていますが、起立性調節障害の方はこの調整が働きにくいため、急に立ち上がるとめまいや、頭痛が出現します。
ですので、起床時は枕や腕枕で少し頭を上げ、次に上半身を起こします。座った状態を少し保ち、下肢をベッドから下ろします。立ち上がった後も、頭を下げ、うつむいた状態でゆっくりと歩きだしてください。
立ち上がる際も、同じように頭を下げ、うつむいた状態でゆっくりと動きだしましょう。全体的に動作はゆっくりと、体に“これから起き上がるよ/立ち上がるよ”と語りかけるように行うことがポイントです。
規則正しい生活リズムを体に刻む
交感神経と副交感神経のスイッチの問題から、朝がなかなか起き上がれず、午前中は体調が悪いですが、午後になると段々と体調がよくなり、逆に夜間はなかなか眠れないというのが起立性調節障害の方に多い特徴です。
しかし、このサイクルを繰り返すと、さらに悪循環につながりかねません。起床時は、時間をかけたり、場合によっては薬剤の力を借りたりしながら起き上がり、起床後は太陽光を浴び、部屋にも光を入れ、体内時計を調整しましょう。
調子がいいからと、夜遅くまで起きず、決まった時間に体を休め、翌朝に備えましょう。ブルーライトを発するスマートフォン操作は睡眠を遠ざけるため、眠る前には操作を控えることも重要です。自分のペースで少しずつ継続することで、体内リズムが整い、症状の改善につながります。
水分摂取と少し多めの塩分摂取
起立性調節障害のでよく見られる立ちくらみやめまいは脳への血流不足が原因で行っています。したがって、血流を維持させることが重要です。
水分と塩分は血流の維持に重要で、こまめな水分摂取(水分1.5-2.0L/日)と少し多めに塩分(塩分10-12g/日)を摂取することが推奨されています。
心臓の病気、腎臓の病気があると、水分、塩分ともに制限する必要がありますし、特に塩分に関しては、健常人では6-7g/日と言われているため、心臓病や腎臓病、高血圧などがある場合は、医師の指導のもと水分、塩分摂取を行いましょう。
心理カウンセリング
精神的に負担がかかっているような場合は、自律神経のバランスが乱れやすく、症状も悪化しやすいです。
この様な場合は、心療内科でカウンセリングを行うことも症状改善の一助になると考えられます。
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起立性調節障害は薬以外の非薬物療法で根気強く治療することが重要
起立性調節障害の治療方法は薬物療法と非薬物療法があります。薬物療法は血圧や脈を調整する西洋の薬剤や漢方薬などがありますが、なかなかすんなりと症状が良くならないことも経験します。
非薬物療法は食事や運動、日常生活での工夫で地道ではありますが、少しずつ症状が改善することが期待で、起立性調節障害の治療においては特にこの非薬物療法が重要とされています。
簡単なことではありませんが、非薬物療法で根気強く治療することが一番の近道になるかもしれません。
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【参考文献】
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)