起立性調節障害を患っているお子さんをお持ちの親御さんで「運動をさせてもいいのか」「体育の授業を受けさせていいのか」と悩まれている方は多いのではないでしょうか。
起立性調節障害の方は自律神経系の働きがうまく整わず多彩な症状が見られ、疲労も溜りやすいため、運動やスポーツを敬遠しがちだと思います。激しい運動や過剰な運動は確かに症状を悪化させてしまうこともあります。
一方で、運動は心身の発達には必要不可欠であり、運動により筋力をつけることで起立時や起床時の様々な症状を改善させることができる可能性もあります。起立性調節障害の方への運動の利点、注意点を含め、この項では運動療法について解説していきます。
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起立性調節障害における運動療法とは?
起立性調節障害では、起床時や起立時、長時間の立位時に交感神経の働きが不十分となり、めまいや立ちくらみなどの症状が現れます。特に午前中に不調が強く、学校や社会生活への参加が困難となり、不登校や引きこもりにつながる例も少なくありません。
活動量の低下が続くと筋力の減少だけでなく、循環・呼吸機能の低下など全身の体力低下(デコンディショニング)を招きます。長期にわたり不登校の状態が続く子どもでは、このデコンディショニングが進行している可能性が高く、注意が必要です。
そのため、適切な運動習慣は治療の一環として重要です。日本小児心身医学会の診断・治療ガイドラインでは軽度の運動を推奨しており、海外においても若年者への早期のフィジカルトレーニング導入が勧められています。
運動療法によって期待される効果
運動療法は起立性調節障害の症状改善に役立つだけでなく、健康維持にも多くの効果が期待されます。主な効果は以下の通りです。
<筋力の向上>
下肢の筋肉を鍛えることで、起立時に血液を心臓や脳へ送り戻すポンプ機能が強化され、血流保持に役立ちます。これは起立性調節障害の症状改善に特に重要です。
<心肺機能の強化>
運動により酸素需要が高まると、心拍数や呼吸数が増加し、心肺機能が自然に鍛えられます。また、自律神経の調整力向上にもつながります。
<成長ホルモン分泌の促進>
起立性調節障害は思春期に多く見られるため、この時期に重要な成長ホルモン分泌の促進も期待されます。運動と十分な睡眠が組み合わさることで、心身の発達を助けます。
<ストレス軽減>
身体を動かすことはストレス発散につながり、自律神経への負担を軽減します。ストレスは症状を悪化させる要因の一つであるため、適度な運動は重要です。
さらに、運動習慣は骨粗鬆症や生活習慣病の予防にも有効であり、厚生労働省を含む多くのガイドラインでも推奨されています。
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今すぐできる!起立性調節障害における運動療法の種類
小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインでは軽度の運動が推奨されていますが、具体的な方法については明記されていません。
ここでは、一般的に取り入れやすい運動療法を紹介します。症状が落ち着きやすい午後を中心に、体調と相談しながら無理のない範囲で行うことが大切です。
<散歩>
最初は5分程度から始め、慣れてきたら30分程度を目安に行います。可能であれば早歩きを取り入れると、下肢の筋力強化につながります。
<水泳・水中歩行>
水中では浮力により体への負担が少なく、全身を使った運動が可能です。さらに水圧によって下肢の血液が心臓や脳に戻りやすくなり、血流維持にも効果的です。転倒のリスクが少ない点も利点です。
<サイクリング>
下肢の筋力強化や心肺機能の改善に効果があり、景色を楽しみながら行うことでストレス解消にも役立ちます。
起立性調節障害における運動療法の注意点
起立性調節障害の方が運動を行う際には、以下の点に注意が必要です。
- 炎天下や高温環境での運動は避ける
- 激しい運動は控える
- 長時間の運動や立位を伴うスポーツは注意が必要
- 水分・塩分をこまめに補給する
サッカー、バスケットボール、野球、陸上競技など、長時間立ち続けるスポーツは症状を悪化させる可能性があります。立位が続くと下肢に血液が滞留し、脳血流が低下しやすくなるためです。
また、暑い時期の運動は副交感神経が優位になりやすく、症状の増悪を招くことがあります。発汗による脱水は脳血流をさらに低下させるため、夏場は特に注意が必要です。水分補給とあわせて、経口補水液や塩飴などによる塩分補給も心がけましょう。
運動中にめまい、吐き気、強い倦怠感などの不調を感じた場合は、すぐに中止し、涼しい場所で安静にしてください。
下記記事では「起立性調節障害の治し方・子供に対して親御さんができること」をまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
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【参考】
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)