大切なお子さんが起立性調節障害(OD)に罹患している場合、苦労するのはお子さんだけではなく、一緒に生活する親御さんも多くの注意点や気をつけるべきことがあるため、苦労されている親御さんも少なくありません。
ODの子供は特に起床後や午前中は症状が重く、なかなか朝起きてこれないにも関わらず、夕方や夜間は体調が戻って元気になる傾向にあります。そのため、つい生活態度にダメ出し・叱責してしまい、無自覚に子供を精神的に追い込んでしまう親御さんもいます。
ODに罹患する子供の中には、他の子供よりもストレスを感じやすく、不安障害などの精神疾患を併発する子供もいるため、子供との接し方には十分注意しなくてはODの症状も改善しません。そのため、不安障害とODについて正確な知識を持っておくことが肝要です。
そこで、本記事ではODと不安障害の関係性について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、ODと不安障害の関係や違いを理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
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起立性調節障害は不安障害が原因?
「自分の子供は不安障害であり、以前から突然不安になったり精神的に不安定になる機会が多いから、それが原因でODに罹患したのでは?」
と考える親御さんも中にはいるのではないでしょうか。両者の関係性を疑ってしまう気持ちはよくわかります。
結論から言えば、不安障害はODの症状を増悪させる1つの要因ではありますが、発症の直接的な原因ではありません。両者の関係性を理解するためには、まず不安障害について改めて理解する必要があります。
不安障害とは、不安や恐怖に伴う苦痛を強く自覚し、日常生活にも支障をきたす精神疾患です。そもそも、目には見えない「不安」とは医学的にどのような意味を持つのでしょうか?
不安とは誰しもが抱く感情の1つであり、なんらかの脅威や精神的ストレスに晒されたときに抱く感情です。さらに、不安は生存本能を刺激し、さまざまな生体反応を引き起こします。
例えば、森でクマと出会うなどの命の危険を感じるような場面では非常に強い不安と恐怖に晒され、その不安がトリガーとなり、その場で戦うか逃げるかの反応が誘発されます。
これを闘争・逃走反応と呼び、強烈に交感神経が活性化されることで心臓や筋肉への血流を増加させ、瞳孔は散大し、生き延びるための体へ自動でシフトします。不安を感じたときに発汗や心拍数の上昇・息切れ・ふるえなどが起こるのはこのためです。
しかし、これらの反応が極端にふさわしくない場面や状況で生じる場合や頻繁に生じる場合、日常生活に支障をきたすほど長期間強く生じる場合などは、一般的な不安とは一線を画すため、精神障害のうちの不安障害と分類されます。
うつ病や適応障害などを含む精神障害の中でも、不安障害は非常に発症率の高い精神疾患であり、中学生や高校生などの子供から中高年まで幅広い年代で発症します。本人にとっては病的な不安なのか正常な不安なのか判断がつきにくく、診断されないケースも少なくありません。
原因としては、遺伝的要因・環境的要因・生まれながらの精神的気質・身体的な状態など複数の要因が挙げられますが、その原因は完全には解明されていません。これらの要因が複雑に関与して、発症するものと考えられています。
不安障害の主な症状としては、強い不安とそれに伴う身体症状です。不安は、パニックを起こした時のように突然発作のように生じることもあれば、数分間・数時間・数日間かけて徐々に生じることもあります。また、不安の程度も人によって大きく個人差があります。
また、程度の強い不安であれば、前述したように過剰な交感神経の活性化を引き起こし、息切れや動悸・心拍数や血圧の増加・ふるえなどの身体症状をきたします。
これらの症状によって日常生活にも支障をきたし、さまざまな精神的ストレスを抱えるため、正常な人と比較してうつ病を併発しやすいと言われています。
さらに不安障害の中には、例えばクモだけが苦手でクモを見ると異常な不安感が生じる、など不安の対象が非常に限局的な「限局性恐怖症」という亜型もあります。
程よい不安であれば作業効率やパフォーマンスは向上することが知られていますが、あまりにも強い不安は強烈なストレスとなり、処理できなくなるため、作業効率やパフォーマンスが著しく低下して日常生活にも大きな支障をきたします。
実は、これらのストレスの蓄積は自律神経(副交感神経と交感神経の総称)の乱れを生み、ODの症状を悪化させる可能性があります。これは、ODという病気の成り立ちとストレスが密接に関わっているからです。
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起立性調節障害の原因
ここまで読むと「ODはストレスに伴う精神疾患の1つなのでは?」と疑問をもつ親御さんも少なくないと思います。
結論から言えば、ODの原因は自律神経の乱れに伴う身体疾患であり、決して精神疾患ではありません。つまり、原因は心ではなく身体の機能にあるのです。
自律神経とは副交感神経と交感神経の総称であり、睡眠・体温・血圧・脈拍・瞳孔・内臓の運動・排尿や排便など身体の多くの生理機能をコントロールしている神経です。
例えば、運動中などは交感神経が優位になり、血圧や脈拍は上昇し、内臓の動きは抑制されるため尿意や便意が減退します。
一方で、食事中などは副交感神経が優位になり、血圧や脈拍は落ち着き、内臓の動きが活発化します。このように、身体の状況に合わせてそれぞれがバランスを取りながら生理機能を維持しているわけです。
ODの子供では、小学生高学年や中学生の時期に身体が急速に成長する一方で、自律神経の成長は身体の成長に追いつけないため、身体の状況に合わせることができなくなり、自律神経のバランスが乱れてしまいます。
特に、午前中や起床時は副交感神経から交感神経にバランスが移行するタイミングですが、交感神経がうまく活性化してこないため、立ち上がった時に血圧を維持できず脳血流が低下してしまいます。
脳血流の低下はめまいやふらつきを引き起こし、自律神経の乱れによって内臓の運動にも影響が出て腹痛や嘔気嘔吐などさまざまな症状も出現します。ここまでの病態からも分かるように、あくまでODは自律神経の乱れが原因となる身体疾患であることが分かります。
また、起立性調節障害の原因については下記記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてください。
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起立性調節障害と不安障害が併発する可能性
ODと不安障害は併発する恐れがあるため注意が必要です。前述したように、不安障害を持つ子供にとって、ただの日常生活でも多大なるストレスを感じることがあります。
例えば、「人前で恥ずかしい思いをするかもしれない」「パニック発作を起こしてしまう不安感から身動きが取れない」など、常に不安を抱えてしまう子供もいます。さらに、こういった不安感は自律神経を過剰に緊張させ、身体にも影響します。
寝つきが悪くなる、熟睡感が得られない、疲れやすい、呼吸が浅くなる、集中できない、四肢末端が冷たくなる、無意識に筋肉に力が入ってしまうなど、身体的ストレスも日常生活にのしかかります。
これらのストレスは、脳の視床下部と呼ばれる部位で感知され、自律神経のバランスをさらに乱してしまうため、ODを発症している場合、症状の増悪や遷延を引き起こす可能性が高いのです。
また、中学生の時期は不安障害ではなくても精神的に多感な時期です。精神的に成熟できていない年齢であり、友人関係や親子関係に悩んだり、受験や進学など学業に悩む子供も多いでしょう。また入学や卒業による環境の変化も多いです。
こういったイベントに対し、不安障害の子供は異常に不安感を覚えてしまうのです。「テストに落ちたら人生終わり」「進学する喜びよりも環境の変化が恐ろしい」このように考えてしまい、ストレスが蓄積していきます。
この結果、不安障害の子供は通常の子供と比較してストレスが蓄積しやすく、自律神経の乱れを引き起こしてしまい、ODを併発する可能性が高まります。
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起立性調節障害と不安障害の関係
元々の遺伝や生まれながらの気質で不安障害を持つ子供は、ストレスを感じやすくODを併発する可能性が高まります。一方で、これまで元気であった子供が急にODに罹患した場合も、精神障害を併発する可能性があります。
ODの症状の多くは、身体の成長が落ち着くとともに改善すると言われており、多くの子供で数カ月から数年で症状は自然に軽快します。しかし、発症患者の約5〜10%は重症化すると言われています。
重症化すると、午前中の体動困難により通学が困難となり、いずれは不登校になります。中学生までは義務教育ですが、高校生でも改善していないと進級は困難となり、将来にまで影響を与える可能性もある病気です。こうなると、その状況に悲観してしまう子供もいます。
親御さんの子供への接し方次第では、病気と闘う子供のメンタルに大きな精神的ストレスを与えてしまい、子供がうつ病や適応障害、不安障害などの精神障害を併発する可能性もあります。だからこそ、親御さんは適切なODとの向き合い方、治し方を知っておく必要があります。
ODを治療する上では早期発見、早期治療が非常に重要です。特に、ODには特効薬などが存在しないため、時間をかけて非薬物療法を行う必要があります。
下記記事では、起立性調節障害の治し方についてさらに詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
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