起立性調節障害(OD)は身体疾患であるにも関わらず、朝の起床困難などの症状からしばしば精神疾患と誤認されやすく、つい子供に注意してしまう親御さんも少なくありません。
しかし、これはまるで風邪を引いた子供に「なぜ元気を出さないのか!」と怒鳴るようなものです。
一方で、ODは機能性胃腸障害・慢性疲労症候群・頭痛・睡眠障害・認知機能障害・不安・抑うつなどさまざまな疾患や症状を併発しやすいことが知られており、精神疾患を併発すると身体・精神ともに病んでしまい、診断や評価がより困難にもなります。
不安障害の1つであるパニック障害を併発する可能性もあり、動悸や心拍数上昇・めまいやふらつきなど、ODと共通した身体症状をきたすため、評価が非常に困難なケースも少なくありません。
そこで、本記事ではODとパニック障害の関係性について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、ODとパニック障害を併発した際の症状を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
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起立性調節障害でパニック障害を併発する可能性
結論から言えば、起立性調節障害に罹患した子供はパニック障害を併発する可能性があります。両者の関係性を考える上で、両者の疾患としての性質をしっかりと理解しておく必要があります。
まず、ODとは小学生高学年から中学生の身体が急速に発達する時期にかけて発症しやすい「身体疾患」です。身体疾患という以上、精神的要因は関係なく、あくまで体の身体的要因が原因となって生じている病気です。
ODの病態は脳血流の低下と考えられています。本来、脳は非常に酸素需要の高い臓器であるため、脳における酸素の供給不足に陥らないよう、人の身体は常に脳血流量が保たれるように作られています。
しかし、身体が急速に発達すると、脳と心臓の距離が急速に離れ始め、それに対し自律神経の発達が追い付かないため、うまく脳に血液を送れなくなってしまいさまざまな症状をきたす疾患であると考えられています。
自律神経とは、副交感神経と交感神経の総称であり、血圧や脈拍・睡眠・体温・排尿・排便などさまざまな生理機能を互いに調節し合っています。
例えば、血圧の低下を感じた時には交感神経が優位に働き、血管を収縮させ、心臓をより強く・早く収縮させることで、血圧を上昇させ脳血流を維持するように働きます。これが正常な生理機能です。
日常生活で特に急激に血圧が低下しやすいシチュエーションは、横になった状態から立ち上がる時であり、重力に伴って下肢に多く血液が奪われるため、脳血流も低下しやいです。そのため、交感神経が活性化して脳血流を維持するように働く必要があります。
しかし、ODではこのような生理反応が得られず、特に午前中に交感神経が活性化しにくいため、起床時や午前中に症状が出やすいという特徴があります。
次に、パニック障害とは不安障害と呼ばれる「精神疾患」の1つであり、動悸・呼吸困難・死の恐怖といった症状(これをパニック発作という)を繰り返し、「また発作が起こったらどうしよう」という不安(これを予期不安という)を伴う疾患です。
ODとは異なり、あくまで身体的異常は認めず、精神的要因が原因となって発症します。また、うつ病や双極性障害などの気分障害、他の不安障害、アルコール・薬物依存などの精神疾患を合併することが多いです。
パニック障害の厄介な点は、不整脈や冠動脈疾患などの心疾患・慢性閉塞性肺疾患・過敏性腸症候群・頭痛・慢性疼痛など、慢性の身体疾患も高率に合併する点です。
ODとの直接的な関係性は医学的に証明されているわけではありませんが、パニック障害の方はそうでない方と比較してストレスを強く感じやすく、自律神経が乱れやすい可能性があります。その場合、ODの症状を悪化させる可能性はあります。
また、パニック障害は思春期の、特に女性で発症しやすいことが知られており、好発年齢もODと近いです。また、ODのように特効薬などの存在しない、長期的に付き合っていく必要がある病気であれば、その経過中にストレスで不安障害を併発してもおかしくないでしょう。
このように、相互の疾患に医学的関係性が証明されているわけではありませんが、実際にODの子供が不安障害を併発する可能性は十分あり得るため注意が必要です。
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起立性調節障害でパニック障害を併発した場合の症状
前述したように、起立性調節障害では起床時や午前中に強いめまいやふらつき、嘔気嘔吐、動悸や息切れ、起床困難、顔面蒼白、食思不振、頭痛、臍疝痛(みぞおちに差し込むような痛み)などの症状が引き起こります。
一方で、パニック障害を併発した場合、動悸・呼吸困難・死の恐怖といった症状であるパニック発作を繰り返します。
パニック発作自体はパニック障害固有の症状ではありませんが、「また発作が起こったらどうしよう」という予期不安はパニック障害に必発の症状です。
そのため、子供にパニック発作を避けるような行動が見受けられれば注意が必要です。また、パニック発作が起きた際には動悸や心拍数の増加、発汗、震え、息切れ、呼吸苦、胸痛、嘔気、めまい、ふらつきなどの身体症状を併発します。
この身体症状は非常にODと共通点が多く、ODの子供でパニック障害の併発の発見が遅れる理由の1つでもあります。
以上のことから、早期発見・早期治療を行うためには、ODの子供の身体症状だけに目を向けるのではなく、パニック発作や予期不安を避けるような行動が見受けられるかどうか、普段から子供の行動面・心理面をしっかりと観察しておく必要があります。
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起立性調節障害でパニック障害を併発した場合の治し方
まず、起立性調節障害とパニック障害では全く異なる疾患であり、その治療法もそれぞれ個別に考える必要があります。
ODの治療には特効薬など存在せず、日常生活を工夫して症状を緩和する非薬物療法が主たる治療となります。非薬物療法を長期的に実践するためにも、治療前にODという疾患を親子ともに理解する必要があります。
どのような病気なのかしっかり理解しておかなければ、質の高い非薬物療法は実践できません。
非薬物療法では、脳血流が低下しないように日常の行動を気をつけて生活します。例えば、積極的に水を飲むこと、起きてから前傾姿勢でゆっくり立ち上がること、立ち上がった後も前傾姿勢を保つこと、規則正しく生活し自律神経を整えることなどが挙げられます。
これらの非薬物療法を実践することで日々の症状を緩和し、身体の成長に自律神経の成長が追いついてくれば自然と軽快していきます。実際に、ODに罹患する子供の90%は重症化せずに自然軽快していきます。
しかし、残りの10%は重症化し、睡眠障害や不登校など社会生活にも支障をきたすため、一時的に血圧を上昇させる薬の内服や、カウンセリングによって心のケアを行う心理療法などが行われます。
一方で、パニック障害に対してもまずはパニック障害がどのような病気なのか、親子ともにしっかりと理解しておくことが重要です。疾患を知ることで不安自体を軽減することができるからです。
また、日常生活ではカフェインを避けることも重要です。パニック障害の方はカフェインに対する感受性が過敏なため避けるべきであり、また睡眠障害を引き起こす可能性もあるため、ODの症状に対しても良くありません。
規則正しい食生活や睡眠習慣、可能であれば軽い運動を行い、自律神経を整えることでODとパニック障害ともに症状を緩和させる効果が期待できます。
これらを行なった上で、パニック障害の症状が改善しない場合は薬物療法や精神療法が必要となってくるため、早期に精神科を受診しましょう。
薬物療法では抗うつ剤が処方されることが多いですが、ODの症状を悪化させる可能性もあるため注意が必要です。
精神療法として認知行動療法も併用するとより効果的であり、精神的ストレスが緩和されればODの症状が改善する可能性もあります。
ここまでからも分かるように、ODとパニック障害はともに非薬物療法が非常に重要であり、日常生活から気をつけるべきことをしっかり理解しておく必要があります。
十分な理解の上で、時間をかけて非薬物療法を行うことが治療の一番の近道です。下記記事では、起立性調節障害の治し方についてさらに詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
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