起立性調節障害(OD)は急激な肉体の成長に対して自律神経の発達が追いつかず、脳血流が低下する身体疾患です。特に肉体が成長しやすい小学生高学年から中学生で発症しやすく、約10%の子供で発症するため稀な疾患ではありません。
特に起床時や起立時に脳血流が低下するため、午前中に症状が強いことが知られており、通学や通塾に支障をきたします。さらに、集中力や記憶力・思考力が低下する子供もいるため、通学できたとしても学業への影響は少なくありません。
中学生高学年の場合、進学や卒業はもちろん、子供によっては高校受験も控えているため、ODによる記憶力低下が学業に与える影響について不安を感じている親御さんも少なくないのではないでしょうか?
そこで、本記事ではODによる記憶力低下について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、ODと記憶力低下の関係性を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。
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起立性調節障害では記憶力が低下する?
起立性調節障害の子供を持つ親御さんの中には「ODを発症したせいか子供の集中力が低下し、記憶力も悪くなった」「受験前なのに勉強に身が入らず不安を抱えている」などのお悩みをお持ちの方も少なくないのではないでしょうか?
結論から言えば、ODの程度や重症度によっては記憶力が低下します。あくまでODが原因であり、身体疾患である以上、勉強に身が入らない子供を責めることは避けるべきでしょう。
そもそも、ODの発症に伴い出現する症状は非常に多岐にわたります。具体的には、起立時に強いふらつきやめまい・嘔気嘔吐・動悸や息切れ・腹痛・倦怠感・頭痛などが挙げられます。
一般的な経過で言えば、まず午前中に強いめまいやふらつき・倦怠感を伴う子供が多く、午後になると症状が改善します。また天候が悪く気圧の低い日には症状が悪化するなどの変動も伴います。
この症状がさらに悪化していくと、午前中に起き上がることも難しくなり、午後になっても改善しにくくなります。朝から学校に通学できなくなるため遅刻や欠席を繰り返し、中等症や重症になると自宅での勉強も手につかなくなるでしょう。
このように、症状の重症化に伴い、集中力や思考力、記憶力の低下などが出現し、「単語を暗記しても翌日には全然思い出せない」「教科書を読んでも身に入らない」などの症状が出現します。
小学生高学年や中学生の間は義務教育のため、通学が困難で不登校になっても卒業できますが、中学生高学年や高校生では、学業の遅れや記憶力低下は進学や進級に大きな影響を与える可能性があります。
また、中学3年生の子供の多くは高校受験と戦う学年であり、記憶力の低下はより重大な問題です。以上のことからも、ODの重症化は避けるべき事態であり、早期から適切な対策を取ることが重要です。
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なぜ記憶力が低下するのか?
起立性調節障害で記憶力が低下する機序を理解するためには、まずODという病気と人間の記憶のシステムについて理解する必要があります。
人間の記憶のシステムは、おびただしい数の神経細胞が網の目のようなネットワークを形成して情報処理を行っていると考えられています。もちろん、いまだに完全に解明されているわけではありませんが、ある程度のシステムは判明しています。
記憶の処理は主に3ステップに分かれ、脳が情報を受け取る「記銘」、 記憶を維持する「保持」、必要に応じて情報をアウトプットする「想起」の3つの順に処理され、いずれかに問題があっても記憶力は低下します。
まず、目や耳からインプットされた情報は、脳の側頭部深部に位置する海馬と呼ばれる倉庫に収納されます。しかし、海馬の容量は少ないため、海馬に収納されている記憶は短期的にしか維持されず、多くの情報は忘却します。
その情報の中でも、繰り返し思い返したり、何度も口に出すような情報だけが、海馬から大脳皮質へと転送されます。大脳皮質は海馬と異なり、収納できる情報量が多く、より長期的な記憶を扱う部位です。ちなみに、海馬から大脳皮質へ情報が転送されるのは睡眠中のみであり、そのプロセスが夢となって現れているという説もあります。
次に、ODでは急激な肉体の成長によって心臓と脳の距離が離れていくのに対し、自律神経の成長が追いつかず、脳血流が低下します。自律神経とは交感神経と副交感神経の総称であり、本来であれば脳血流の低下を防ぐために自動で調整してくれる神経です。
特に起床時や起立時は、重力に伴って血液が下肢方向に多く流れ込むため、脳血流が低下しやすいです。それに対し、交感神経が活性化することで血管収縮・心拍増強などの効果をもたらし、脳血流が維持されるわけです。
ODでは、交感神経の活性化がうまく起こらないため、脳血流が低下してしまい、さまざまな症状をきたします。脳血流の低下は、大脳皮質や海馬の機能にも悪影響を及ぼすため、記憶力が低下すると考えられています。
例えば、英単語を暗記して一時的に海馬にインプットされても、海馬の機能が低下しているため、情報を保持できず忘却してしまうわけです。さらに、ODは午前中に起き上がれず、午後になると元気になる性質上、睡眠障害を引き起こす子供も少なくありません。
前述したように、短期記憶を取り扱う海馬から、長期記憶を取り扱う大脳皮質への情報の転送は、睡眠中にしか行われないため、ODによる睡眠障害も記憶力低下の一因を担っていると考えられます。
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記憶力が低下する場合の対策
記憶力改善のためには起立性調節障害に対する治療が最優先です。具体的には、ODという疾患を理解し、いかに日常から脳血流が維持できるよう意識して行動できるかが重要となります。
例えば、起床後に脳血流が低下しないように普段よりもゆっくり立ち上がる・脱水にならないようにこまめな水分摂取を心掛ける、長時間の起立時は脚をクロスさせて下肢への血流を少なくする、などの工夫が重要です。
また、自律神経の乱れを改善させるために、規則正しい生活習慣・1日3食偏りのない食事摂取・可能であれば軽い運動習慣などを身につける事も重要です。
朝起きたら可能な限り太陽光を浴びる事で、夜間に睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌量が増加し、質の高い睡眠が得られれば記憶力も改善する可能性があります。
さらに、自宅で勉強する場合は椅子に座らず、床にクッションを敷いて勉強すると、脳血流が維持されやすく記憶力も改善する可能性があります。
一方で、親御さんにも協力できることがあります。まず、勉強に身が入らない子供に叱責することは絶対に避けましょう。ODはやる気の問題などではなく、むしろストレスを与えると悪化する可能性もあるため、焦らず治療をサポートしましょう。
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勉強の遅れに対する対応方法
起立性調節障害によって記憶力が低下したり、不登校になって授業にも出れなくなると、学業が遅れてしまう可能性があります。特に中学生高学年では受験も控えているため、親子共に焦ってしまう方も多いでしょう。
しかし、親御さんは焦らずに、学校と相談して子供が学習しやすい環境を作ってあげることが非常に重要です。例えば、症状の改善する午後や夕方に授業の資料を取りに行く・テスト問題を後日もらって家で解くなどの方法があります。
また、経済的に余裕があれば塾や家庭教師など外部の力を借りて学業の遅れを取り戻すのも選択肢の1つでしょう。
さらに、最近では「すらら」というインターネット学習業材も普及しています。メリットとしては、要件を満たすと学校の授業に出席していなくても、オンライン教材を学習することで「出席扱い」になる制度もあります。ご興味がある方はぜひご覧ください。
症状が重い場合、進学先のハードルを下げてでも精神的ストレスを緩和してあげることが重要な場合もあります。例えば、進学校への受験は諦め、ODでも通いやすい通信制高校に切り替えるなども検討すべきです。
重要な決断となる場合もあるため、親子間でしっかり話し合い、体調を優先して勉強の遅れと向き合うことが非常に重要です。
ODによる記憶力の低下は比較的症状が進行して出現するため、早期から適切な対策・治療を行うことが非常に重要です。下記記事では起立性調節障害の治し方についてさらに詳しく解説されているため、ぜひ参考にしてください。
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