起立性調節障害とは

起立性調節障害で記憶力が低下する原因-勉強の遅れへの対策も紹介

2023年7月1日

この記事の監修者

医師(匿名)

医師歴:10年
勤務病院:某3次救急病院

一般社団法人 起立性調節障害改善協会

起立性調節障害(OD)は急激な肉体の成長に対して自律神経の発達が追いつかず、脳血流が低下する身体疾患です。特に肉体が成長しやすい小学生高学年から中学生で発症しやすく、約10%の子供で発症するため稀な疾患ではありません。

特に起床時や起立時に脳血流が低下するため、午前中に症状が強いことが知られており、通学や通塾に支障をきたします。さらに、集中力や記憶力・思考力が低下する子供もいるため、通学できたとしても学業への影響は少なくありません。

中学生高学年の場合、進学や卒業はもちろん、子供によっては高校受験も控えているため、ODによる記憶力低下が学業に与える影響について不安を感じている親御さんも少なくないのではないでしょうか?

そこで、本記事ではODによる記憶力低下について分かりやすく解説していきます。本記事を読むことで、ODと記憶力低下の関係性を理解し、適切な対処法を知っていただければ幸いです。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

起立性調節障害では記憶力が低下する?

起立性調節障害の子供を持つ親御さんの中には、「ODを発症してから子供の集中力が低下し、物事を覚えにくくなった」「受験前なのに勉強に身が入らない」と悩んでいる方もいるでしょう。

結論からいえば、ODの症状が強い場合は、集中力や思考力が低下し、物事を覚えたり思い出したりすることが難しくなる場合があります。ただし、すべての子供に記憶力の低下が現れるわけではなく、程度にも個人差があります。

ODでは、起立時の強いふらつきやめまい、吐き気・嘔吐、動悸、息切れ、腹痛、倦怠感、頭痛など、さまざまな症状が現れます。

午前中にめまいやふらつき、倦怠感などが強く現れ、午後になると症状が軽くなる傾向があります。また、天候や気圧の変化によって症状が強くなると感じる子供もいます。

症状が強くなると、午前中に起き上がることが難しくなり、午後になっても体調が回復しない場合があります。遅刻や欠席が増えるほか、自宅でも頭痛や倦怠感などによって、勉強に集中できなくなることがあります。

その結果、「単語を暗記しても翌日には思い出せない」「教科書を読んでも内容が頭に入らない」など、記憶力が低下したように感じる場合があります。

小学生や中学生は義務教育のため、欠席が多くても原則として卒業できます。しかし、中学3年生や高校生では、学業の遅れが受験や進級、卒業などに影響する可能性があります。

ただし、記憶力の低下には、睡眠不足や不安、抑うつ、貧血など、OD以外の原因が関係している場合もあります。症状が急に現れた場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合は、ODによるものと決めつけず医療機関へ相談しましょう。

なぜ記憶力が低下するのか?

起立性調節障害が記憶力に影響する理由を理解するために、まずは人間の記憶が定着する仕組みを確認しましょう。

記憶が定着する仕組み

人間の脳では、多数の神経細胞がネットワークを形成し、情報を処理しています。記憶の詳しい仕組みには、現在も完全には解明されていない部分があります。

記憶の処理は、脳が情報を受け取る「記銘」、記憶を維持する「保持」、必要に応じて情報を取り出す「想起」の3つに分けられます。いずれかの過程がうまく働かないと、物事を覚えたり思い出したりすることが難しくなります。

目や耳から入った情報は脳内で処理され、海馬などの働きによって新しい記憶としてまとめられます。海馬は、新しい出来事や情報を記憶する上で重要な役割を持つ部位です。

覚えた情報を繰り返し思い出したり、学習したりすることで、記憶はより定着しやすくなります。また、睡眠中には学習した情報が整理され、記憶の定着が促されると考えられています。

ただし、海馬から大脳皮質への情報の移行が睡眠中だけに行われるわけではなく、夢がそのまま記憶の転送過程として現れると断定することもできません。

起立性調節障害が記憶や集中力に影響する理由

ODでは、起立した際の血圧や心拍数などを調節する自律神経の働きがうまく機能せず、脳への血流が一時的に低下しやすくなります。

健康な状態では、起立すると交感神経が血管を収縮させ、心拍数などを調節することで血圧と脳への血流を保ちます。一方、ODではこうした循環調節が十分に働かないため、めまい、立ちくらみ、頭痛、倦怠感などが現れます。

ODや関連する体位性頻脈症候群(POTS)では、集中しにくい、頭が働きにくい、物事を思い出しにくいといった認知機能の問題が報告されています。脳への血流の変化が関係する可能性もありますが、詳しい仕組みは完全には分かっていません。

また、頭痛や倦怠感が強いと、勉強に注意を向けること自体が難しくなります。情報を十分に理解・記銘できなければ、後から思い出すことも難しくなるため、記憶力が低下したように感じる場合があります。

さらに、ODの子供には、寝つきの悪さや睡眠リズムの後退がみられることがあります。睡眠不足や睡眠の質の低下が続くと、集中力や記憶の定着に影響する可能性があります。

このように、ODに伴う記憶力の低下には、脳への血流の変化だけでなく、頭痛や倦怠感、睡眠の問題など、複数の要因が関係していると考えられます。

起立性調節障害で夜眠れない原因や対策については、下記の記事も参考にしてください。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

記憶力が低下する場合の対策

記憶力や集中力の低下がみられる場合は、まず起立性調節障害の症状を適切に治療することが大切です。同時に、体調に合わせて勉強する時間帯や姿勢を調整しましょう。

生活習慣と体調を整える

ODの治療では、本人と家族が病気について理解した上で、生活習慣の見直しなどの非薬物療法を行います。

日常生活では、次のような対策が挙げられます。

・起床時や立ち上がるときは、急に動かずゆっくり立ち上がる
・医師の指示に従い、水分や塩分を適切に摂取する
・長時間立つ場合は、脚を交差させるなどの身体操作を行う
・体調に合わせて無理のない範囲で身体を動かす

睡眠と起床のリズムを大きく乱さないことも大切です。朝に光を浴びると体内時計が調整され、夜の自然な眠気につながる可能性があります。ただし、朝の症状が強い場合は無理に起こしたり、長時間外出させたりしないようにしましょう。

体調に合わせて勉強方法を工夫する

勉強は、症状が強い午前中に無理に行う必要はありません。比較的体調がよい午後や夕方を選び、短い時間から取り組みましょう。

椅子に座ることがつらい場合は、床にクッションや背もたれを置く、リクライニングできる椅子を使用するなど、本人が楽に保てる姿勢を選びます。ただし、床に座れば脳への血流や記憶力が必ず改善するわけではありません。

一度に長時間勉強するよりも、短時間の学習と休憩を繰り返す方法が適している場合があります。また、新しい内容を覚えるだけでなく、体調のよい日に復習する時間を設けることも大切です。

親御さんは、勉強に集中できないことをやる気の問題と決めつけたり、強く叱ったりしないようにしましょう。焦って勉強を続けさせると、本人のストレスや体調不良が強くなる場合があります。

勉強の遅れに対する対応方法

起立性調節障害によって記憶力や集中力が低下したり、欠席が増えて授業を受けられなくなったりすると、学業が遅れる可能性があります。特に受験や進級を控えている場合は、親子ともに焦りを感じることもあるでしょう。

学校と連携して学習環境を整える

親御さんだけで対応を抱え込まず、学校と相談して子供が学習しやすい環境を整えることが大切です。

例えば、体調が比較的よい午後や夕方に授業の資料を受け取る、課題の量や提出期限を調整してもらう、テストを別の日や別室で受けるなどの方法があります。

学校の対応状況によっては、オンラインで授業に参加する、保健室や校内教育支援センターで学習するなどの方法も検討できます。また、本人が希望し、経済的な負担に無理がなければ、塾や家庭教師などを利用することも選択肢の1つです。

すらら」などのICT教材を使った自宅学習が、一定の要件を満たした場合に指導要録上の出席扱いとなることもあります。ただし、教材を利用するだけで自動的に出席扱いになるわけではありません。

保護者と学校が十分に連携していることや、学校側が学習状況を把握していることなどの条件があり、最終的には校長が判断します。利用を始める前に、必ず在籍校へ相談しましょう。

出席扱いになるための条件や学校への相談方法については、下記の記事も参考にしてください。

体調に合った進路や学び方を考える

症状が長引いている場合は、全日制高校だけでなく、通信制高校や定時制高校など、体調に合わせて通いやすい進路を検討することもできます。

これは単に「進学先のハードルを下げる」「進学校を諦める」ということではありません。登校時間や授業形式、支援体制などを比較し、本人が学び続けやすい環境を選ぶことが大切です。

進路は子供の将来に関わる重要な選択です。親御さんだけで決めず、本人の希望や体調を確認しながら、学校の先生や医療機関とも相談して検討しましょう。

ODによる集中力や記憶力への影響には個人差があります。症状が進行した場合にだけ現れるとは限らないため、困りごとがみられた段階で早めに医療機関や学校へ相談し、必要な支援につなげることが大切です。

起立性調節障害の治療では、生活習慣の見直しや非薬物療法を基本とし、症状に応じて薬物療法などを組み合わせます。具体的な治し方や親御さんができることについては、下記の記事も参考にしてください。

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