お風呂上がりに脱衣場でついフラついてしまう。
これは誰しもが一度は経験したことがあるのではないでしょうか?しかし、この現象を医学的に説明できる人はそこまで多くないと思います。
実はこの現象、小学生高学年や中学生で発症しやすいと言われる起立性調節障害(OD)の病態と非常に類似した現象であり、だからこそ起立性調節障害に罹患している子供の場合は入浴において注意が必要です。
起立性調節障害は自律神経のバランスが乱れることで引き起こる身体的な疾患であり、入浴によって人体に起きる生理的反応が起立性調節障害の症状を誘発する可能性が高いからです。
自分の大切な子供が起立性調節障害に罹患した場合、お風呂に入るという基本的な行動にさえ制限がかかってしまうのは子供にとっても親御さんにとっても辛いことだと思います。
そこで本記事では、起立性調節障害と入浴の関係性について分かりやすく解説します。
起立性調節障害による「入浴時 めまい」の原因
起立性調節障害と入浴の関係性について理解する上では、まず最初に起立性調節障害の病態について理解する必要性があります。
起立性調節障害は急激な肉体の成長によって心臓と脳の距離が開くのに対して、自律神経の発達が追いつかないため脳への血流が維持できなくなる疾患です。
人間の血液には目に見えなくとも常に重力がかかっています。当然、立ち上がった際に血液は重力に従って足の方向に多く取られてしまうため、脳血流は低下しやすい状態にあります。
しかし、人体は脳血流を維持するために無意識に自動で交感神経を活性化させます。交感神経が活性化すると、足の血管が収縮することで血液は足に取られずにより多く心臓に戻ることができます。さらに心臓の鼓動が強まることで脳に多くの血液を送れるようになるため、脳血流が自動で維持されるのです。
しかし、起立性調節障害では自律神経がうまく発達していないため、起立時に交感神経の活性化が引き起こらないのです。すると、横になっているときは問題なくても、立ち上がった時に脳血流が低下してしまうのです。
さらに成長期の子供は肉体が急激に成長するため、心臓から脳への距離が開いてしまい、より血流が低下しやすくなってしまうのです。これが小学生高学年から中学生で発症する子供が多い理由です。
起立性調節障害では脳血流が低下することで、血圧低下、脈拍増加、めまい、ふらつき、嘔気、腹痛などの多種多様な症状が出現します。
では、次に入浴が人体に与える影響について解説します。
入浴後に立ち上がるとふらつくことは健常な大人でも良くある現象だと思います。結論から言えば、これは入浴に伴う血管拡張と姿勢の変化による血行動態の変化が原因です。
入浴によるリラックス効果は自律神経のうちの副交感神経を活性化させますが、副交感神経には血管を拡張させる効果があります。さらに入浴に伴って体温が上昇すると、人体は自動的に体温を下げるように働きます。
具体的には、血管を拡張させることで血流を促進させ、発汗効果を引き上げて汗とともに体温を体外に放出するのです。つまり、入浴に伴う副交感神経の活性化と体温調節の2つの理由で血管が拡張しやすい状況にあります。
次に、入浴時の姿勢の変化について説明します。日本人はシャワー浴だけではなく湯船に浸かる文化があるため、入浴時は自ずと姿勢が立位から座位や仰向けになります。
座った時や仰向けは立っている時よりも脳血流量が増加しますが、その後湯船から立ち上がると一気に血液が足に流れ込むため、脳血流は一時的に低下しやくなってしまうのです。これが入浴時の脳血流低下の原因です。
つまり、姿勢の変化と血管拡張による脳血流低下がそのまま起立性調節障害の症状出現に繋がってしまい、入浴後にふらついたりめまいが生じる原因となるわけです。
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熱いお風呂は血圧や心臓に負担がかかることも
入浴に伴う弊害は他にもあります。42度を超える熱いお湯に入浴するとリラックス効果よりもストレスの方が大きくなってしまい、むしろ交感神経優位になってしまい血圧が上昇します。
血圧上昇は血管や心臓にとっては負担になるため、血管や心臓に持病を抱える方にとっては熱いお湯はリスクになってしまいます。
また、起立性調節障害の子供の場合、脱水は脳血流が低下しやすくなるため症状増悪のリスクになります。熱いお湯に入ることで過度な発汗をした場合、脱水になりやすいため注意が必要です。
入浴せずシャワーのみでもいいの?
結論から言えば、シャワーだけで済まさずに湯船に入ったほうが良いです。適度に入浴することで自律神経が刺激され、自律神経が養われることで交感神経と副交感神経の切り替わりがスムーズになるからです。
しかし、前述したように高温や長時間の入浴は症状増悪の可能性もあるため無理は禁物です。特に自律神経は腹部に多く集中しているため、腹部を温めるためにもシャワー浴より湯船での入浴がオススメです。
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38~40℃のぬるめのお湯で入浴しましょう
では具体的にどのように入浴するのが起立性調節障害の子供にとって最も理想的なのでしょうか?
結論から言えば、「38~40℃のぬるめのお湯」で「半身浴」をすることです。
高温すぎると不用意に交感神経が刺激されてしまい、ぬるすぎると自律神経の成長が養われません。適度な38-40度のぬるめのお湯に、肩までは浸からずに腹部を中心に温めるのが理想的です。
温まり過ぎた場合には、入浴後に下肢を冷たいシャワーで冷やしてから外に出ることで効果的に症状発現を予防できます。
ここでご紹介した入浴と起立性調節障害の関係性や、適切な入浴方法はあくまで起立性調節障害の症状を少しでも緩和させるための1つの手段に過ぎません。実際には、他にも多くの対処法や治療法があります。
下記記事では、起立性調節障害の子供に対する治療法・治し方が詳しく解説されています。気になる方はぜひ参考にしてください。
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【参考】
田中大介 監修『起立性調節障害(OD)朝起きられない子どもの病気がわかる本』 講談社
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)