起立性調節障害とは

起立性調節障害による「腹痛」を治す方法・原因・特徴を解説

2022年4月15日

この記事の監修者

医師 武井 智昭

医師 武井 智昭

高座渋谷つばさクリニック院長
小児科・内科・アレルギー科
保有資格:小児科専門医・指導医・日本小児感染症学会認定・インフェクションコントロールドクター・臨床研修指導医・抗菌化学療法認定医・プライマリケア学会認定医・認知症サポート医・小児感染症学会認定医

一般社団法人 起立性調節障害改善協会

小児の腹痛の原因の1つに、意外かもしれませんが起立性調節障害(OD)と呼ばれる疾患が挙げられます。

本記事では、起立性調節障害による腹痛の特徴や原因、そして治し方などについて分かりやすく解説していきます。起立性調節障害の子を持つ親御さんが、本記事を読むことで適切な対応を取れるようになれば幸いです。

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起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

起立性調節障害による腹痛の特徴

最初に起立性調節障害の疾患としての特徴を把握しておくことで、起立性調節障害による腹痛症状への理解が深まると思います。起立性調節障害とは一言で言えば、自律神経の乱れにより多彩な症状を示す疾患です。特に、脳血流の低下による症状が代表的です。

中学生のような成長期には、肉体の成長にホルモンバランスが追いつかないため、交感神経や副交感神経と呼ばれる自律神経が乱れてしまいます。交感神経や副交感神経は、排泄や体温調整、睡眠、排尿、血圧、脈拍などの、人間にとって非常に重要な様々な生理機能を互いに拮抗し合うことで調節しています。

例えば、起床時に急に立ち上がると人体の血流は足に多く取られるため、一時的に脳血流が低下します。そこで本来であれば自律神経が自動で活性化して脳の血流を維持しようと働きます。

具体的には心臓の鼓動を強めたり、足の血管を締め上げて血流が足に取られないようにして、脳血流を維持しようと働くのです。しかし、起立性調節障害の場合は交感神経がうまく活性化してきません。

脳血流の低下に対して交感神経がうまく反応しなくなり脳血流が低下してしまいます。こういった疾患の特性上、起立性調節障害に伴う様々な症状は起床時から午前中にかけて出現しやすいという特徴があります。

逆に午後になると、徐々に交感神経が活性化してきて症状が改善していくという日内変動を示す点が特徴的です。

起立性調節障害に伴う腹痛症状でも同様の経過を辿ります。つまり起立性調節障害に罹患する子供の腹痛は、朝から午前中にかけて症状が出現し午後から夕方になるにつれ改善していきます。

また、起立性調節障害に伴う腹痛の性状は「おへその周りの差し込むような痛み」と表現され、これを臍疝痛(さいせんつう)と言います。臍疝痛は比較的繰り返しやすい症状であるという特徴があります。臍疝痛に伴い食思不振や嘔気を訴える子供も少なくありません。

起立性調節障害(OD)改善ガイドブック

起立性調節障害による腹痛の原因

では、なぜ起立性調節障害の子供に臍疝痛のような症状が出現するのでしょうか?

これは、自律神経と腸管の運動が関係していると言われています。一般的に、人間の腸管には平滑筋と呼ばれる筋肉が含まれていて、これが収縮や弛緩(しかん)を繰り返すことで腸管は蠕動運動(ぜんどううんどう)と呼ばれる動きをします。

この蠕動運動によって、腸管内に貯留した食べ物やガスが押し出されていって、肛門からガスや便として排出されています。つまり良好な排便や排ガスを得るには腸管の蠕動運動が必要不可欠なわけです。

さらに言えば、蠕動運動は副交感神経によってコントロールされていますので、リラックスして副交感神経が活性化すると人間は排便をしたくなる仕組みなのです。

逆に、緊張状態やストレスがかかった状態では自律神経のバランスが崩れてしまい、腸管が蠕動運動を行わなくなるため麻痺するため、腸の中にガスが貯留して腸管に圧がかかります。

このガスや食べ物による腸管の伸展刺激が、臍疝痛の原因であると言われています。起立性調節障害は自律神経のバランスが崩れてしまう病気であるため、まさに正常な蠕動運動を邪魔する病気なのです。

特に小児の場合、消化器官の発達が未熟であるため自律神経の乱れの影響を受けやすく、そのため腹痛症状を訴えやすいのです。

起立性調節障害による腹痛を治す方法

前述したように起立性調節障害に伴う腹痛は、決して腸に炎症が起こっているわけでもなく、癌や腫瘤があるわけでもなく、あくまで自律神経の乱れによる腸管の蠕動運動の乱れです。

つまり、治療する上で最も重要なことは起立性調節障害そのものに対する治療であり、その中でも特に非薬物療法が重要になってきます。非薬物療法とは薬を使う治療以外の治療のことです。

起立性調節障害という疾患に対する理解を深め、日々の生活を少しでもストレスなく過ごせるように環境を整えるだけでも、症状が安定してくる可能性があります。また腹痛症状の予防にも繋がります。

とは言っても、実際に腹痛症状に悩んでいる子供の親御さんからすれば非薬物療法以外の何らかの手助けは欲しいと思います。そこで、おすすめは漢方薬による治療です。

例えば、「小建中湯」という漢方は、芍薬(シャクヤク)、 桂皮(ケイヒ)、 大棗(タイソウ)、 甘草(カンゾウ)、 生姜(ショウキョウ)、膠飴(コウイ)などの成分を配合したものです。

芍薬や甘草、大棗は腸管の痙攣(けいれん)を抑制し、蠕動運動を改善させる効能を持ちます。桂皮や生姜には腸管を暖め消化吸収を促す効能を持ちます。これの効果によって腹部症状の改善が期待されます。

また、「安中散」と呼ばれる漢方は、桂皮(ケイヒ)、延胡索(エンゴサク)、牡蛎(ボレイ)、茴香(ウイキョウ)、甘草(カンゾウ)、縮砂(シュクシャ)、良姜(リョウキョウ)などの成分を配合したものです。

主に胃酸の分泌を抑えて胃痛を和らげる効果があり、これも起立性調節障害による臍疝痛(さいせんつう)には効果的な漢方です。

下記記事では「起立性調節障害の子供に対して親御さんができること」をまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。

関連記事:起立性調節障害の子供に親ができること・治療法・治った方の事例

【参考】
田中大介 監修『起立性調節障害(OD)朝起きられない子どもの病気がわかる本』 講談社
日本小児心身医学会 起立性調節障害(OD)
起立性調節障害による「腹痛」を治す方法・原因・特徴を解説|お腹が痛い

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